緊迫のウクライナ情勢はどうなる? 軍事侵攻はなぜ国際法違反なのか

2022年02月25日・国際 ・by Newsdock編集部

ウクライナ情勢が急展開を迎えています。ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始しました。先日ロシアが独立承認をしたウクライナ東部2地域(「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」)だけでなく、ウクライナ南部、そしてキエフでもロシアの軍事攻撃が行われているようです。また、チェルノブイリ原発もロシア軍が掌握したという情報もあります。

ロシアの行動に対して岸田首相は「ロシア軍のウクライナへの侵攻は力による一方的な現状変更の試みであり、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する明白な国際法違反です。国際秩序の根幹を揺るがす行為として断じて許容できず厳しく非難します」と発言しています。他の国に軍隊が攻め込むことはいけないことだというのはわかるかもしれません。でも、一体「国際法違反」とはどういうことなのでしょうか。国際社会には一体どんな法律があって、今回のロシアの行動はどのように違法だと考えられているのでしょうか。今回の記事では、武力侵攻がなぜ国際法違反なのかについて国際法をもとに考えたいと思います。

そもそも国際法ってなに?

そもそも、国際法ってなんなんでしょうか。「憲法」「民法」「道路交通法」「教育基本法」……。いろんな「法」と名前のついたもの、聞いたことありますよね。でもこれは全て日本国内の法律です。なので、憲法とか民法とかは国際法ではありません。

国際法というのは、国内の法律とは違って世界の国々が守るべき約束、法律です。例えば、「日米安全保障条約」とか「世界人権宣言」とか、社会の授業で聞いたことがあるこれらのものは国際法の一つです。「◯◯条約」とか「◯◯宣言」などの名前で呼ばれるものが国際法ということなんです。

武力を使うことは国際法に反する

そもそも、他国に対して武力を使うことは国際法に違反しています。国際法から考えて違法行為なんです。どの国際法に違反しているかというと、「国連憲章」に違反しています。

国連憲章とは、国連(国際連合)に加盟する国が守るべきルールを定めたもので、国連ができた時から存在しています。

国連憲章第2条4項には「全ての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、(中略)慎まなければならない。」とあります。そうです、今回ロシアがウクライナに対してとった軍事行動はこの条文に違反しているのです。

戦争だけが違法なのではない

この条文の大事なところは「武力の行使」と「武力による威嚇(いかく)」までも禁止しているところです。武力の行使とは、宣戦布告をせずとも他国に対して軍事的な攻撃をしたり、他国の反政府勢力などに武器を提供して間接的に武力の行使をすることです。武力による威嚇とは、武力の行使にもいたらない場合のことです。簡単にいうと「お前が俺に従わなかったら軍事力でねじ伏せてやるからな」という意志を持って、相手国に対して軍事力を見せつけることが武力による威嚇に当たります。

国連憲章では、戦争はもちろん、武力の行使と武力による威嚇までもが違法とされています。これは、武力が使われる場合というものが必ずしも「宣戦布告→攻撃開始」という形を取らないという事情があります。武力が他国に対して使われる、さらにまだ使われていなくても使われそうな場合を広く違法とすることで、世界の平和を保ち、それぞれの国の安全を維持しようという考えがあるのです。

今回のロシアの行動は国際法違反?

今回ロシアがとった行動を先ほどの国連憲章第2条4項に基づいて考えてみましょう。現在のいろいろなメディアの報道によれば、ロシアはウクライナの軍施設などに攻撃を行い、さらにウクライナ国内にロシア軍が展開し始めているようです。ロシア軍が展開している範囲は先日ロシアが「独立承認」したウクライナ東部2地域の範囲を大きく超えていることも明らかです。

これらの情報を国際法に照らして考えると、ロシアの行動は武力の行使を禁止した国連憲章第2条4項に違反していると考えるのが自然なように見えます。ロシアは先日ウクライナ東部2地域(「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」)を「独立承認」しました。もしこれらの「国家」がロシアに対して軍事力の展開を要請した結果としてロシア軍が行動しているというロジックを取ったとしても(※)、現在ロシア軍はこれらの地域を大きく超えて展開しているので、ロシア軍の行動すべてを正当化することはできません。他にもさまざまな正当化のロジックがあるかもしれませんが、それでも「国連憲章第2条4項に違反している」という意見を覆すことができるような主張は見当たらないでしょう。

違法だからといって……

というわけで、国連憲章をもとに今回のロシアのウクライナ侵攻が国際法的に違法なのか考えてみました。今回のロシアの行動は違法であると言えます。しかし、違法だからといってロシア軍やプーチン大統領がすぐに逮捕されたり処罰されるわけではありません。国際社会はそんな単純にはいかない……。できるのは国際法に違反した行為が早く終わって、どの国もルールを守り平和で秩序のある世界が戻ってくることを願うことだけなのでしょうか。

※他国の政府が自国の政府に対して軍事力を用いた介入を要請することによって、自国の軍事力を他国に展開することは違法ではないという考えがあります。

▼ロシアによるウクライナ東部2地域「独立承認」についてはこちらの記事をチェック!▼
ウクライナ情勢をわかりやすく解説 独立とは?今後どうなる?

参考

岩沢雄司『国際法』2020年
日本経済新聞「キエフでミサイル攻撃か 迫るロシア軍、近郊の空港制圧」2022年2月25日参照