台湾総統選の争点は?結果とその影響も解説

2024年02月23日・国際 ・by リコ

2024年1月13日に台湾総統選が実施されました。今回の選挙結果は、台湾、そして台湾と関係している国にとって何を意味するのでしょうか?選挙の背景事情を追って見てみましょう。

候補者の構図

選挙の候補者は立候補によって昨年11月24日に決定しました。現在の与党である民進党からは副総統の頼清徳氏が立候補し、野党からは、国民党で新北市長の侯友宜氏民衆党で前台北市長の柯文哲氏が立候補しました。

国民党と民主党は11月15日に、野党の強化による政権交代を目指すために候補者の一本化で合意しました。しかし、両党とも立候補の座を譲らないまま、最終的に協力は成立しませんでした。

中国と台湾の関係

1つの中国

台湾が中華人民共和国の一部であるとする認識を、「1つの中国」と言います。中国はこの「1つの中国」を主張しており、台湾は中国の一部、中国はただ1つで、そして中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であるとしています。これに対してアメリカは、中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることは承認しているものの、台湾が中国の一部で中国はただ1つだという主張はあくまで「認識(recognize)」しているのみというスタンスを取っています。アメリカ以外でも、「1つの中国」主張を認識している国は多いですが、完全に承認している国は少ないです。日本もこの主張を「理解し、尊重」すると日中共同声明で示しているものの、完全な承認はしていません。

中国の動き

中国は台湾の統一に向けて、2023年後半に様々な動きを見せています。例えば8月には、台湾のアメリカ訪問に圧力をかけるために中国軍を送って演習をさせたり、台湾産マンゴーの輸入停止を決定したりしています。9月には平和的統一のために、台湾の対岸にある中国福建省に経済のモデル地区を建築し、台湾からの就職、移住を促進しています。

今回の台湾総統選では、中国に対して融和の姿勢を見せている国民党を支持しており、侯友宜氏当選による政権交代を望んでいます。

総統選の争点

台湾の政権が決定する総統選において、中国に対する向き合い方が大きな争点となっていました。

民進党

与党である民進党の頼清徳氏は、台湾が中国の一部だという主張を一切認めず、アメリカなどの他国との関係性を強めることによって中国を抑制する方針を示していました。これは、現総統である同じく民進党の蔡英文氏と同じ考え方です。中国政府は頼氏を「トラブルメーカー」と呼んでおり、さらに台湾と強い協力関係にある日本やアメリカと繋がりを持つ頼氏の副総統候補の蕭美琴氏も敵視しています。

国民党

野党第1党である国民党の侯友宜氏は、民進党の対中国施策が武力衝突の危険性を高めていると批判していました。中国との融和的な交流によって衝突のリスクを低くしようと主張していました。しかし、侯氏は台湾独立に反対しているにもかかわらず、今回の総統選では中国に対する意見をほとんど示さなかったため、対中政策の不透明性が懸念されていました。

民衆党

野党第2党である民衆党の柯文哲氏は、民進党の中国への反抗は効果がなく、国民党の親中の姿勢は従順すぎると批判し、中国との交流や対話によって台湾にとってより良い立場を構築する方針を示していました。柯氏は自らを「第3の選択肢」と呼んでいます。2大政党と一線を引くこのスタンスは、従来の政治に不満を持っていた政権者、主に若者から支持を得ていました。

総統選の結果

総統選即日開票の結果、民進党の頼清徳氏がおよそ558万票を獲得して当選しました。国民党の侯友宜氏は467万票、民衆党の柯文哲氏は369万票で敗れました。民進党が政権を担うのは今回で3期連続となります。

頼氏は当選を受けて記者会見にて、中国に対抗しながら対話も行い、台湾の尊厳を守りながら平和共栄を達成したいと表明しました。高い支持を得ている現総統の蔡英文氏から引き継いでいるこの現状維持のスタンスが、頼氏の勝因だと考えられています。

民進党は総統選で勝利を収めた一方で、同時に行われた議会選挙では、現在過半数である議席数を維持できませんでした。国民党が52議席、民進党が51議席、民衆党が8議席を獲得し、与党である民進党は野党の国民党に負けています。住宅価格高騰などに対する不満や、長期政権を牽制しようとする動きが原因とみられます。

中国政府は今回の総統選結果に対して、1つの中国が絶対であるという主張を改めて表明し、この選挙結果で台湾との関係を改善することはできず、台湾独立の主張にも断固反対すると述べました。

頼清徳氏の当選によって、台湾の政権は副総統候補の蕭美琴氏の経験も活かしてアメリカや日本との関係を強化し、今後も中国対抗路線に努めていく見込みです。

参考

NHK「台湾総統選 野党の候補者一本化はならず 主要3政党で争う構図」2023年11月24日
NHK「 台湾総統選 民進党候補がトップ保つも 最大野党候補が追い上げ 」2023年12月13日
日本経済新聞「「一つの中国」とは 政策と原則、米中で認識は異なる」2022年8月4日
産経ニュース「中国、台湾との経済一体化へ対岸にモデル地区建設 人的往来や投資を拡大、統一狙う」2023年9月12日
東洋経済オンライン「日本には高すぎる「一つの中国」を崩すハードル」2021年07月15日
日本経済新聞「中国、台湾統一へ「アメとムチ」 両岸発展区と軍事圧力」2023年9月13日
BBCニュース「【解説】 台湾総統選、立候補者はどんな人物か 中国への姿勢は」2024年1月10日
東京新聞「「醜いメロドラマ」に国民は失望か 第三極・柯文哲氏が脱落の兆し 13日投開票、台湾総統選」2024年1月8日
NHK「台湾総統選 民進党・頼清徳氏が当選 立法院は過半数維持できず」2024年1月14日

ライターのコメント

民進党の頼清徳氏は開票前から有力な当選者候補とされており、今回の選挙結果は筆者を含め多くの人々が予想した通りなのではないかと思います。台湾情勢はまだ安定しているものとは言えないですが、今回の総統選の結果によって、台湾、そして国際社会に良い発展がもたらされることを願います。