ウクライナ情勢をわかりやすく解説 独立とは?今後どうなる?

2022年02月23日・国際 ・by Newsdock編集部

日に日に緊迫の度を増すウクライナ情勢。ロシアとウクライナの間で戦争が起きてしまうのではないかと、日本だけでなく世界各国が懸念しています。また、2月21日にはこれからのウクライナ情勢を大きく変えるかもしれない決定をロシアのプーチン大統領が下しました。その名もウクライナ東部地域の「独立承認」。この「独立承認」とは一体なんでしょうか独立を承認するということはどんな意味があるのでしょうか? これからのウクライナ情勢はどうなるのでしょうか? これまでのウクライナ情勢の経緯も踏まえながら考えてみましょう。

※この記事は2022年2月23日現在の情報をもとに執筆しています。

これまでのウクライナ情勢

最近、ウクライナがなんだか大変なことになっています。ウクライナとその隣国ロシアの間で軍事的な緊張が高まっているのです。ウクライナがアメリカや西欧諸国を中心とする安全保障機構のNATOに加盟しようとする動きを強めたところ、それに反発するロシアがウクライナのNATO加盟を阻もうとウクライナに対して圧力を強めました。ロシアとヨーロッパ諸国、アメリカとの間でこれまで外交交渉が行われてきましたが、いずれもウクライナ情勢を改善するにはいたらず、ロシアは現在にいたるまでロシアーウクライナ国境付近や、ロシアの友好国ベラルーシに軍を展開し、ウクライナに対して軍事的な手段を取ることができるという姿勢を示し圧力をかけています。

そして2月21日、ウクライナ情勢をさらに悪くしそうなことが起きました。それが、ロシアによるウクライナ東部2地域の独立承認です。これまでアメリカやヨーロッパ、そして日本もロシアがウクライナに軍事侵攻をしないだけでなく、外交的手段によってウクライナの緊張を和らげることを求めてきました。しかし、ロシアはウクライナ国内の地域の独立を認めるというアメリカやヨーロッパ、日本との対立をより激しくさせてしまうかもしれない手段を選んでしまったのです。ロシアはウクライナ東部2地域の独立承認と同時に、この地域にロシアが軍隊を派遣することができる条約を結んだだけでなく、この地域の平和維持の名目でロシア軍を送ることを決めました。

アメリカ、ヨーロッパ、日本などはロシアのやり方を激しく非難しています。岸田首相は、今回のロシアの行動を「ウクライナの主権と領土の一体性を侵害するもので認められない。強く非難する」と外交の場で使われる非難の表現の中でも非常に強い非難を示す言葉を使いながらロシアを非難しました。アメリカも、同様の強い非難を表す声明を出しています。また、アメリカはロシアに対して経済制裁を発動しました。

国家を承認するとは?

さまざまなメディアで「ロシアがウクライナ東部地域を独立承認」、あるいは「ロシアがウクライナ東部地域を国家承認」と報じられています。これらの報道はいずれも、ロシア政府が2月21日にウクライナ東部にあり親ロシア勢力が支配し一方的に独立を宣言した「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」の2地域(これら2つの地域は合わせて「ドンバス地方」と呼ばれます)を国家として承認したことを指しています。国家を承認するとは一体どういうことなのでしょうか。国家を承認したら、どんなことが起きるのでしょうか。

国家承認の手続き

国家を承認するとは、新しく「国家が成立した」と主張する主体ができたときに、元々存在する国家がその主体を「国家である」と認めることです。一般に国家承認は、承認する側の国家が相手の国家(正確にいうと承認前の段階ではまだ国家だと認められていないので、国家(仮)という感じですね)を承認する国内的な手続きをすることで行われます。

ロシア政府は、21日にプーチン大統領が「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」の2地域の国家を承認する行政命令に署名をし、これをもってロシアはこの2国家を承認したことになりました。

国家として認める要件とは

国家が成立するための条件は皆さんも学校で習ったことがあるかもしれません。そう、政府、領土、住民がいないといけないわけですね。でも実はある主体を国家として承認するときにはそれ以外もいろんな国際法的な論点があって、その一つに「新しくできる国家が国際法に反する形で成立した場合は国家承認をしない」という考え方があります。

日本政府としては現時点ではロシアによる2地域の国家承認は国際法違反であり、認められないという立場をとっているそうです。確かに、今回のロシアのやり方はウクライナという国が一つの国であることという大事な原則に逆らったやり方ですからね。

国家を承認したらできること

新しく国家が成立したことを承認すると、どんなことが起きるのでしょうか。それは、承認した国と承認された国の間で国際法に基づいた合意を取り結ぶことができるようになるということです。皆さんも「条約」というものを聞いたことがあるでしょうか。個人が国家と条約を結ぶことはできないので、ウクライナ東部2地域に国家という性質を与えればロシアにとってはこれからこの地域に対しては普通の国同士のやりとりと同じように扱えるわけです。実際に、ロシアと「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」はウクライナ東部2地域の独立承認と同時にこの地域でロシア軍が基地を使うことができるようにする条約を結びました

これだけではありません。国家として承認しまえば、軍を派遣しようとか、ロシアに併合してほしいとかを新しい国家に言わせることができれば、ロシアとしては「はい、わかりました、相手国がそう求めてるしロシアとしてもOKなんでやります」みたいな感じに物事を進められるし、物事を進める正当性を得られるようになります。もちろんこのようなやり方に反対する意見はたくさん出てくるでしょうが、ロシアとしては今回の独立承認によって自分なりの正当性の根拠を作ることに成功したと言えるでしょう。

これからのウクライナ、どうなる?

ロシアが行ったウクライナ東部2地域の独立承認がどのような意味を持つのか考えるために、近年ロシアが行った似たような事例を基に考えてみたいと思います。2014年のロシアによるクリミア併合です。

クリミア併合(2014年)

クリミアという地域は元々ロシア系の住民が多い地域でした。2014年に発生したクリミア併合は、当時ウクライナに親ヨーロッパ派の大統領が誕生したことに不満を抱いた住民がウクライナ政権と対立したことから始まりました。政権と対立した勢力はクリミアに「クリミア共和国」を樹立したと一方的に宣言しました。本来、元々ウクライナの一部である地域が独立するためにはウクライナ全体で住民投票をしなければならないことがウクライナの憲法に定められていますが、「クリミア共和国」樹立にあたっての住民投票はクリミア地域のみで行われました。ロシアはこの住民投票の結果を支持し、「クリミア共和国」の独立を承認しました。それだけではなく、ロシアと「クリミア共和国」の間の二国間条約の形をとってクリミア地域をロシアに併合する条約を結びました。今でもクリミア地域はロシアが支配する地域となっています。

クリミアの例は、①地元住民の意思でその地域のウクライナからの独立を宣言する、②ロシアが独立を承認する、③ロシアと独立国の間の条約という形でその地域をロシアに編入する、という3段階を経てロシアがウクライナの地域をロシアのものにしたということを示しています。ロシアはウクライナに対して大規模な戦争を起こすのではなく、このようなやり方をとったのは、法的に正当性があるような形をとることで、ロシア自身の行動が正当なものであるということを主張できるようにするためだったのではないでしょうか。

クリミアの前例を今回のウクライナ東部地域と比較すると、この二つの例はとても似ているように見えます。元々ウクライナの領土であった地域を、その地域の親ロシア勢力の国家樹立宣言に対応する形で国家承認し、その国家の求めに応じる形でロシアがその地域に対して軍事力を展開していく。このような形が2014年のクリミアでも、2022年のウクライナ東部でも、同じように展開されているように見えます。では、ウクライナ東部2地域ではかつてのクリミアと同じように、ロシアに編入されてしまうのでしょうか。現在も各国が外交的な方法によってロシアが他国の領土を我がものにするということがないように努力をしているでしょうが、その努力は実るのでしょうか。それとも、クリミアと同じように、ウクライナ東部地域もまたロシアの一部となってしまうのでしょうか。これからの動向に目が離せません。

2022年2月25日追記
ロシアがウクライナに対して軍事侵攻を開始したことを受けて、「軍事侵攻はなぜ国際法違反なのか」を解説する記事を公開しました。あわせてぜひお読みください。
緊迫のウクライナ情勢はどうなる? 軍事侵攻はなぜ国際法違反なのか

参考

岩沢雄司『国際法』2020年
日本経済新聞「首相「主権侵害、認められない」 ロシアを「強く非難」」2022年2月22日参照
日本経済新聞「ロシア、冷戦後秩序揺さぶる ウクライナ東部に派兵命令」2022年2月22日参照
日本経済新聞「プーチン氏、ウクライナ親ロシア派地域の独立を承認」2022年2月22日参照
外務省「ロシアによる「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」の「独立」の承認について(外務大臣談話)」2022年2月22日参照
President of Russia 「Signing of documents recognising Donetsk and Lugansk People’s Republics」2022年2月22日参照
U.S. Department of State 「Kremlin Decision on Eastern Ukraine」2022年2月22日参照