新紙幣に詳しく迫る!発行の背景や経済効果をわかりやすく解説

2024年03月01日・経済 ・#2023-24年末年始企画 ・by まなか

2019年の4月、新紙幣のデザインを一新することが発表されてから4年、日銀は2023年の4月に新しい紙幣のデザインを公開しました。紙幣の発行は今年の7月3日に予定されています。デザインの発表から公開まで5年近くの期間を要しているのは、新紙幣の印刷に2年半、民間企業の準備にまた2年半がかかるためとされています。デザインの変更は実に20年ぶりになるので、早く新紙幣を使用する日が来るのが待ちきれませんね。

選ばれた人物は?

現在の紙幣では福沢諭吉(1万円)、樋口一葉(5000円)、野口英世(1000円)が使われていますが、2024年度からは渋沢栄一(1万円)、津田梅子(5000円)、北里柴三郎(1000円)に変更されます。彼らは日本の発展に貢献した偉人であり、お札の肖像画としてふさわしいといえますね。それでは、各お札ごとに肖像画に採用された偉人を紹介していきましょう。

1万円札

1万円札に採用された人物は「日本の資本主義の父」という名のある渋沢栄一(1840~1931)です。実は2021年の大河ドラマ「晴天を衝け」の主人公でもあった彼は江戸から明治にかけて活躍し、銀行・保険・製紙・運輸会社などの企業の設立に関与しています。紙幣に使われている肖像画は、70歳の古希のお祝い時に撮影された写真複数枚を参考に描かれています。

渋沢栄一は、1840年に現在の埼玉県深谷市で農民として生まれました。江戸時代末期に一橋家によって農民から武士に取り立てられ、第15代将軍である徳川慶喜に士官しました。その後、栄一は慶喜の弟に随行し、万博博覧会を見学するためにフランスのパリへ留学しました。明治維新後、栄一は明治政府に招かれ、大蔵省の官僚として財政にまつわるさまざまな政策立案を行い、新しい政府の構築に深く携わりました。

功績
渋沢栄一は数多くの企業の設立に関わり、日本の近代化に大きく貢献したといわれています。パリでの経験は栄一に西欧の発展した文明の重要性を認識させ、これが後に日本で初めての株式会社となる、商法会所の立ち上げにつながったといわれています。静岡藩の勘定組頭であった栄一は資金の貸し付けを行い、静岡藩の財政を立て直しました。商法会所で静岡藩の経済を発展させた栄一は、その腕を買われ、民部省と大蔵両省で鉄道の建設・郵便制度の創設・租税改革など矢継ぎ早に日本の経済の形成に勤しみました。

大蔵省を退官した後は、幕末から昭和まで民間実業家として銀行をはじめとしたさまざまな業種の会社を設立しました。例としてはみずほ銀行・東京海上日動・東京ガス・帝国ホテル・日本郵船・東京証券取引所といった名だたる企業が挙げられます。また、栄一は実業家としての仕事だけでなく経済格差の撤廃にも尽力し、生涯を通して約600の社会公共事業に関わったといわれています。私利私欲を嫌った栄一は儲けを優先せず、自身の財産を積極的に社会公共事業に投資しました。まさしく新1万円札に相応しい日本社会の発展を目指した人物だといえますね。

5000円札

5000円札に採用された津田梅子(1864~1929)は津田塾大学の創始者であり、2013年に放映された大河ドラマ「八重の桜」や、2015年の「花燃ゆ」でも登場したことから比較的知名度が高い明治時代の教育家です。紙幣の肖像画には30歳代の写真が使われています。津田梅子は、1864年に農学者であった幕臣の父親「津田仙」の次女として現在の東京都新宿区にて誕生しました。津田仙は梅子を岩倉使節団に応募し、アメリカに留学させました。この当時渡米した留学生は5名であり、梅子は最年少の6歳でした。アメリカに着いた梅子はジョージタウンに暮らすランマン夫婦の元で約11年間ホームステイ生活を送り、帰国後は華族女学校で英語教師として従事しました。帰国後には1900年に現在の津田塾大学である女子英学塾を設立し、女子高等教育に尽力しました。

功績
彼女が再渡米した際にブリンマー大学で執筆した生物学の論文は、英国の学術雑誌に掲載されました。実は欧米の学術雑誌に日本人女性の論文が掲載されたのは、梅子が初めてだといわれています。

華族女学校で英語教師として働く傍ら、自分自身の学校を作り自立した女性を育成したいという願いを持っていた梅子は、アメリカへ再度留学することを決意しました。1900年の開校当初、彼女が設立した女子英学塾は生徒総数が約10名ほどの小さな学校でした。彼女はそれまでに培ってきた地位を手放し、ほぼ無給で少人数教育を行いました。女子英学塾は、これまでになかった女性の地位向上や個性を大切にした独自性に溢れる教育が評価され、開校4年後には専門学校として認められました。

津田梅子が過ごした明治時代から昭和初期は、女性の地位や権利が確立されておらず、男女の格差が激しかった時代だと言われています。女子英学塾から、男性と対等に力を発揮できる、変革を担う女性を数多く輩出したことは津田梅子の功績といえるでしょう。今でも日本は女性の地位の向上において世界と比べて遅れをとっていると指摘されています。社会や時代の変化を通じて、女性が柔軟な働き方ができる環境の構築が必要であることは間違いないでしょう。

1000円札

「近代日本医学の父」とも呼ばれる北里柴三郎(1853~1931)は予防医学の礎を築いた微生物学者・教育者です。紙幣の肖像画には風格や品位があり、働き盛りで充実した様子が伺える50歳代の写真が使用されています。北里柴三郎は1853年に現在の熊本県阿蘇郡小国町で、庄屋の長男に生まれ、幼少期は四書五教などの儒教を学びました。柴三郎は熊本大学医学部でオランダ人軍医のマンスフェルトに師事したのち、1874年に東京大学医学部に入学しました。東京医学校在学時において予防医学の道に進むことを決意した柴三郎は、卒業後内務省衛生局に入局し、6年に渡るドイツ留学においてローベルト・コッホのもとで破傷風菌の研究を行いました。

功績
ドイツ留学において柴三郎は破傷風菌の純粋培養に成功し、翌年には抗毒素を発見します。その後血清療法を確立したことから今日まで名を残す研究者として知られるようになりました。その後1892年に帰国した際、柴三郎は日本初の私立伝染病研究所や私立北里研究所を創立し、1894年には、世界で初めてペスト菌を発見しました。

また、柴三郎は破傷風菌やペスト菌の研究に加え、後進の育成においても成果を残したことで知られています。例として細菌学者の北島多一や、野口英世、志賀潔なども北里柴三郎の弟子であり、日本医学の発展に大きく貢献をしました。また、私立北里研究所に加え柴三郎は慶應義塾大学医学部の創設に従事し、人生をかけて日本の医学教育に力を添えました。長きに渡る彼の細菌学や予防医学の業績は、現代の公衆衛生やウイルス研究にも影響を与えたと言われています。柴三郎は、78歳でその生涯を終えるまでに、予防医学や感染症医学の発展に大いに貢献した人物だと言われています。私たちは彼の功績に感謝しながら、新しい研究を進めていく必要がありますね。

選考基準

紙幣は財務省・日本銀行・国立印刷局の協議の元、財務大臣が最終的に決定します。主に日本の歴史に名を残した偉人が選ばれており、現在は明治以降に活躍した文化人が多く使われています。国立印刷局によると、以下の二点を満たす人物が選定されます。

・日本国民が世界に誇れる人物で、教科書に載っているなど、一般によく知られていること。
・偽造防止の目的から、なるべく精密な人物像の写真や絵画を入手できる人物であること。
(国立印刷局より)

なぜ一新?

今回の紙幣の一新は、偽札防止対策の強化と外国人や目の不自由な方にも適したユニバーサルデザインの確立を目的としています。近年偽札が増加してきたことから、パソコン関連機器によって複製が不可能な紙幣が新しく印刷されます。それでは、新紙幣に用いられている高精細な技術についてみていきましょう。

すかし

「すかし」は、紙の厚みを変えることで肖像を映し出すだけではなく、光を通して模様を浮かび上がらせる方法です。新しい3本のすきの入った縦棒は、パソコンやカラーコピーで再現が難しいといわれています。

記番号の桁数

紙幣の左上に印刷されているアルファベットと数字は、紙幣を識別するために使用されている記番号と呼ばれるものです。新紙幣は9桁の旧札とは異なり、10桁に増やされます。

ホログラム

新紙幣には、世界で初めてとなるホログラム技術が導入されます。ホログラムとはレーザービームを使って立体画像を印刷した物を指します。見る角度によって、肖像が立体的に動き色が変わる技術は、偽札防止にとても効果的だといえますね。

深凹版印刷

視力が弱い人も使いやすいよう、触って紙幣の種類を識別できる技術が深凹版印刷です。触るとざらざらする凹凸をつけることで、紙幣の識別が行いやすくなるだけでなく、従来よりも陰気が表面に盛り上がるよう印刷されています。

起こりうる経済的効果

今回の刷新を通して、各家庭のタンス預金のあぶり出しとキャッシュレスの促進が相乗効果になりうるといわれています。高齢者を中心に高まっている、タンス預金といった資産を使用せずにしまい込む傾向は、現在109兆円にも上り、過去最高となっています。租税回避のきっかけにもなりうるタンス預金を解消することで人々の消費を促進する効果が期待されています。

また、新紙幣の導入によって企業には追加の改修投資が求められます。特に小売業者は大きな負担となることから、紙幣の刷新をきっかけに業者側を主体としたQRコード決済やクレジットカード決済などの普及が見込まれるといわれています。主要各国から遅れているキャッシュレス化において、少しずつ改革をすることが日本に求められていますね。

まとめ

2024年から使用される新紙幣は今月までに合計45億3000万枚が印刷される予定です。多額を注ぎ込んで生産される新紙幣には様々な利点があることが、記事を通じて理解していただけたと思います。ぜひ紙面に描かれている偉人達を意識して、新紙幣を使ってみてくださいね。

速読情報館「2024年に新紙幣発行!お札に描かれる人物は誰? 」2023年9月13日
NHK「政治マガジン」2023年4月14日
財務省「なぜ紙幣や貨幣のデザインを変えるのですか」2024年3月1日閲覧
日本銀行「新しい日本銀行券の特徴」2024年3月1日閲覧
NHK「新デザインの紙幣 来年7月3日に発行開始へ」2023年12月12日
国立印刷局「お札に関するよくあるご質問」2024年3月1日閲覧
国立印刷局「新しい日本銀行券特設サイト」2024年3月1日閲覧
四銀ルーム「新一万円札の顔「渋沢栄一」とは?」2021年4月23日
四銀ルーム「新紙幣の人物「津田梅子」、「北里柴三郎」の功績とは?」2023年2月1日
The finance「新紙幣はいつから?人物・デザイン・採用技術など総解説」2023年7月26日
国立印刷局「お金の豆知識」2024年3月1日閲覧
第一生命経済研究所「新紙幣の経済的影響とキャッシュレス化」2024年3月1日閲覧

ライターのコメント

私がこの記事を書こうと決めた理由は、貨幣が私たちの生活にどのように影響を与えるか学びたいという気持ちからでした。調べていく中で、新紙幣が多大な経済効果に繋がることを知り、キャッシュを安心して使える環境づくりの構築が、これから先の日本に求められているのだと実感しました。日本ではまだキャッシュを好む人が多く、カードに対応していない店舗も多いですよね。ゆくゆくはキャッシュレス化を実現するためにも、新紙幣の制定は重要な経済改革であることに気付かされました。