物価高の2022年を振り返る【前編】ー物価の高騰・円安はなぜ?どう対応するの?

2022年12月05日・経済 ・by Newsdock編集部

2022年もまもなく終わりますね。今年を象徴するものといえば、やはり多くの人を苦しめた物価高が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。この記事では、物価高の原因を詳しく解説するとともに、今年がいかに異常な年だったのか振り返りたいと思います。また、この物価高を止めるには何が必要なのかも見ていきます。

数字で実感する物価高

まずは、今年の物価高の状況を具体的な数字とともに振り返っていきます。

消費者物価指数

消費者物価指数は、家計に関わる財やサービスの価格を総合した物価を、ある年を100として表した数値です。総務省の発表によれば、2022年10月には、2021年の同月と比べてこの指数が3.6%上昇しました(価格変動の大きい生鮮食品を除く)。この上昇幅は約40年ぶりの水準です。

ガソリン価格

資源エネルギー庁が発表する店頭小売価格週次調査では、ガソリン価格(レギュラー1リットルあたり)は1月24日に170円を超え、3月14日には175.2円をつけました。175.2円は2008年以来の水準です。170円を超えたタイミングで、政府は石油元売会社に補助金を支給しました。また、ガソリン税の一部の課税を停止する「トリガー条項」発動についての議論も巻き起こりました。

ガス料金・電気料金

総務省の発表によれば、2022年10月には2021年の同月と比べてガス料金は20.0%、電気料金は26.8%上昇しました。こちらも家計を直撃する価格上昇となりました。

食品価格の高騰

小麦価格の高騰を受け、パンや麺の価格の高騰が目立ちました。総務省の発表によれば、パンの価格は2022年10月時点で2021年同月と比べて13.8%上昇、麺類の価格は2022年8、9月時点で2021年同月と比べて11.5%上昇しました。また、輸入牛肉の価格は2022年6月時点で2021年同月と比べて13.5%上昇しました。

では、このような異常な物価高はどのようにして起きたのでしょうか。その主な3つの原因について見ていきましょう。

①円安

円安は物価高と同じくらいよく見聞きしたワードだと思います。ここでは、円安とはそもそも何なのか、どのように円安になっていったのか、そして円安に対応するために行われた「為替介入」についても見ていきます。

円安って何? 円安とは、「円の価値が他の通貨の価値と比べて下がった状態」を指します。例えば、1ドル=110円から1ドル=150円になったとすると、円の価値は1円=1/110ドル(=0.0091ドル)から1円=1/150ドル(=0.0067ドル)に下がっています。これが円安になった、あるいは為替が円安方向に動いた、ということです。

円安のメリットはいくつかあります。その一つは輸出に有利だという点です。例えば、1ドル=110円から1ドル=150円と円安になった時、10,000円の商品は10000/110=91.9ドルから10000/150=66.7ドルと安くなるのです。また、日本に来る海外の観光客にとっては日本の商品は安くなるため、インバウンド需要も見込めます。

一方、円安になると、輸入するものの価格が上がります。先ほどと同様に1ドル=110円から1ドル=150円と円安になった時、100ドルの製品の値段が11000円から15000円になります。これが、円安になると輸入品の価格が上がり、物価高の要因になる仕組みです。

どうして円安になったのか

では、どのようにして円安になっていったのでしょうか。これには、やはりコロナ禍の影響が強くあります。

2021年の夏頃から、欧米各国がロックダウンを解除していき、それと同時に経済活動が一気に再開されました。その結果、ロックダウン中に低下していたさまざまな物品の需要が急拡大し、欧米各国で物価が急上昇しました。つまり、インフレが起きたのです。

このインフレに対し、各国中央銀行は利上げを実施しました。「利上げ」は、中央銀行から各銀行にお金を貸すときの利率を上げることです。利率を上げると、各銀行は中央銀行からお金を借りにくくなります。すると、銀行からお金を借りにくくなるため、市場のお金の量を抑制することができ、インフレ対策になるのです。

一方、日本の中央銀行である日本銀行は利上げを実施しませんでした。その理由について、日本銀行の黒田総裁は「日本の物価上昇は海外と比べればマシな方、今金利を上げたら景気がさらに悪くなる」としています。実際、2022年6月の時点で、アメリカの物価上昇率は8.6%なのに対し、日本は2.1%にとどまっていました。さらに、欧米各国と違い日本では物価の上昇に伴う賃金の上昇があまり見られていません。そのため、今利上げをすると賃金がさらに上昇しなくなってしまい、物価高の家計への影響がさらに強くなってしまうことを警戒して、利上げを行わない判断をしているのです。

この政策の差により、日本と世界各国との金利差が大きくなっていきました。このとき、金利が高い通貨の方が、運用することで大きな利益を生み出すことができます。この考え方から、多くの投資家が自分の持つ円を売ってドルやユーロなどを買う動きを見せました。こうして円の価値が下がり、円安となったのです。

為替介入とは

このような状況下で、日本政府と日本銀行は2回の為替介入を行いました。これは、円安を改善するために大量に円を買ってドルを売ったものです。これにより一時的に円高方向に動いたものの、全体の流れを変えるほどの効果はなかったようです。

円安の現状は

2022年11月現在、円安は徐々に緩和されています。その大きな要因は、アメリカの景気の減速が見受けられ始めたことにあります。アメリカの中央銀行・FRBが大幅な利上げを繰り返して物価高抑制をしていた効果が現れ、消費者物価指数の上昇が緩和し始めました。これを受けて、FRBが利上げのペースを下げる可能性が指摘され始め、投資家たちは円売り・ドル買いの動きを抑えるようになっているのです。

前編はここまでです。後編はこちら

参考

総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」2022年11月27日閲覧
e-Stat「消費者物価指数」2022年11月27日閲覧
TBS NEWS DIG「10月の消費者物価指数 40年8か月ぶりの大幅上昇~危ぶまれる日本経済失速~」2022年11月24日
経済産業省資源エネルギー庁「石油製品価格調査」2022年11月27日閲覧
NHK解説委員室「ガソリン価格 抑制策の効果は?」2022年1月26日
NHK解説委員室「“試練の冬” 世界経済の見通しと課題」2022年10月13日
日本銀行 教えて!にちぎん「金融政策は景気や物価にどのように影響を及ぼすのですか?」2022年11月27日閲覧
BBC NEWS JAPAN「英イングランド、ロックダウン政策の大半を解除 感染は増加傾向」2021年7月19日
NHK解説委員室「止まらない円安~日銀のジレンマ」2022年4月12日
NHK解説委員室「とまらない!とめられない? 物価高と円安」2022年6月28日
日本経済新聞「日米金利差とは 円安・ドル高の一因に」2022年10月21日
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