物価高の2022年を振り返る【後編】ー物価の高騰・円安はなぜ?どう対応するの?

2022年12月12日・経済 ・by Newsdock編集部

こちらの記事は「物価高の2022年を振り返る〜物価の高騰・円安はなぜ?どう対応するの?〜」の後編です。先に前編をご覧ください。

②エネルギー価格の高騰

物価高の要因は円安だけではなく、エネルギー価格が高騰しているのも物価に大きな影響を与えています。エネルギー価格の高騰によってガソリン価格、ガス・電気料金が上がるだけでなく、輸送コストも上がってしまい、全てのものの価格上昇に繋がっているのです。では、なぜエネルギー価格が上がっているのでしょうか。

OPEC+による生産調整

OPEC+とは、石油輸出に関わる国々の集まりで、原油採掘量の調整を行っています。新型コロナウイルスの蔓延による影響で経済活動が全世界的にストップしました。この影響で原油の需要が急激に低下し、2020年には産油国は大きな赤字を被りました。

OPEC+はこの反省を踏まえ、いつ再びロックダウンになっても赤字を抑えられるよう、過去最大規模の原油の減産を協調して行っています。アメリカのバイデン大統領もこの大規模な生産調整を警戒し、7月にサウジアラビアを訪問して石油増産を交渉するなど対応していますが、生産調整によるエネルギー価格の高騰は解消できていないというのが現状です。

ロシアのウクライナ侵攻による影響

2022年を考える上でロシアのウクライナ侵攻は避けられないトピックです。ロシアも世界最大規模の産油国なので、ロシアへの制裁によってロシア産の原油が入ってこなくなり、エネルギー価格の高騰に拍車をかけている状況です。しかし、ロシア産の原油への依存度は日本よりヨーロッパ各国の方が大きいため、日本においてはウクライナ侵攻によるエネルギー価格への影響は比較的小さいともいえます。

③農産物価格の高騰

食品価格の高騰は、家計にとって最も大きな負担になっています。ここにも円安やエネルギー価格の高騰の影響がありますが、そもそも原材料となる農産物自体の価格が上がっているのです。ではなぜ農産物の価格が上がっているのでしょうか?その原因を見ていきます。

コロナ禍でのサプライチェーンの混乱

コロナ禍での経済活動の停止により、運輸業界は人員整理を迫られました。このため、各国でロックダウンが解除される頃には、輸送網がズタズタの状態でした。これが食糧価格の高騰に繋がっているのです。

ロシアのウクライナ侵攻による影響

それに拍車をかけたのがロシアのウクライナ侵攻です。ロシアとウクライナを合わせた小麦と大麦の生産量は世界の3分の1近くを占めています。ウクライナは農業生産も輸出もままならない状況であり、ロシアからの輸入も制裁の影響でかなり制限されています。このため、世界の穀物供給が激減し、価格も高騰しています。

異常気象の影響も

農産物の供給量は、その年の気候にも左右されます。そのため、近年増加している異常気象による影響も出ています。大豆輸出量で世界首位のブラジルは2021年に深刻な干ばつに見舞われたほか、2022年にヨーロッパ全域を襲った熱波によって、トウモロコシの収穫量が16%、大豆が15%減少したと推計されています。異常気象の拡大によって、多くの品目で供給減・価格高騰が引き起こされているのです。

今後考えられる対応は

では、この異常とも言える物価高にどう対処すれば良いのでしょうか?ここでは、短期・中長期の両面から考えていきます。

短期的な対応

まずは、すぐに効果の期待できる対応からです。

1つ目は利上げを行うことです。①円安でも見たように、日本と海外の金利差が円安、ひいては物価高の原因の一つとなっています。金利差を埋めるために利上げを行うことは最も考えられる選択肢の一つであり、利上げすべきだと言う専門家も一定数存在します。ただし、利上げには副作用も存在します。それは、日本経済がさらに冷え込み賃金がさらに上がらなくなることです。円安だけが物価高の原因ではない上、賃金が上がらなくなると物価高の影響がさらに大きくなります。日本銀行はこれを警戒して利上げを行わない判断をしています。

2つ目は減税を行うことです。減税によって家計の負担は下がり、物価高の影響を緩和することが期待できます。実際、ジョンソン元首相の跡を継いだイギリスのトラス前首相は大規模な減税を公約に掲げて保守党党首選を勝ち抜きました。しかし、もともと国家財政が逼迫していたため、公約に掲げた減税政策を撤回せざるを得なくなり、その結果首相の座を過去最速で退くことになってしまったのです。国債を多く抱える日本でも財政の健全化が長期的な目標であるため、なかなか減税には踏み切れない、と言うのが現状です。

3つ目は水際対策の大幅緩和です。これにより海外からの観光客が一気に増え、日本経済を潤す原動力となり得ます。さらに、円安の状況は海外からの観光客にとってもお得なので、かなりの効果を期待できます。実際に政府も徐々に水際対策の緩和を進めており、10月にはアメリカなど68カ国からのビザなし入国を再開しました。一方、新型コロナウイルスの再拡大のきっかけにもなり得るため、完全にコロナ前に戻すことは難しいかもしれません。

中長期的な対応

続いて、効果が出るまでに時間のかかる対応も見ていきましょう。

1つ目は食糧やエネルギーの自給率を上げることです。今までも日本の自給率の低さはしばしば問題となっていましたが、対外的な原因が多くを占める今回の物価高を受けて、もう一度考えなくてはならないと思います。食料自給率は気候や土地などの面で難しい点も多いですが、特にエネルギーに関しては再生可能エネルギーへの転換や電気自動車の本格導入などで自給率を上げることが考えられます。

2つ目は社会や企業の構造改革です。この物価高の根底にあるのは、日本経済の低迷があります。物価高に応じて賃金が上がれば金利差が生まれることもなかった可能性もあります。

賃上げを積極的に行える社会・企業風土を醸成するとともに、「リスキリング→転職・異動」による賃金アップの流れを作ることが賃上げに必要だと考えられています。これは、日本企業の競争力を上げることにも繋がりますが、終身雇用などの日本の伝統的な働き方を大きく変えることにもなるため、なかなか進んでいないのも実情です。

最後に

バブル崩壊以来、日本は「失われた10年」「失われた20年」などと呼ばれる低成長期を迎えていました。その根本的な原因が、今回の物価高によって明らかになったように思います。だからこそ、これをチャンスと捉えて大変革を行うことが未来の日本を形作ることになるのではないでしょうか。

参考

Business Journal「石油富豪国だったサウジアラビア、なぜ財政危機に?石油需要、世界的に減退の潮流」2020年12月18日
読売新聞オンライン「OPECプラス、原油追加増産を見送り…G7の要請に応じず」2022年4月1日
REUTERS「バイデン氏、サウジとの関係見直しへ OPECプラス大幅減産受け」2022年10月11日
REUTERS「情報BOX:世界で食料価格高騰、主な原因と今後の展望」2022年5月15日
zakzak「世界の異常気象で物価高加速、次の値上げに備えるには? 節約アドバイザー・丸山晴美氏「コメ中心の食生活に切り替えを」」2022年9月11日
NHK解説委員室「ウクライナ紛争がもたらす世界の食糧危機」2022年4月11日
NHK解説委員室「英国トラス首相辞任 ウクライナ危機に揺れる欧州」2022年10月24日
ESTA online center「【11月15日更新】日本政府が水際対策を大幅緩和 アメリカからのビザなし入国受け入れを再開」11月27日閲覧
Forbes JAPAN「なぜ日本の賃金は上がらないのか」2022年11月11日