日本の少子化—原因は?問題は?対策は?

2023年03月22日・社会 ・by ろーど

日本において少子高齢化の問題が加速していることはほとんどの方がご存知だと思います。児童手当や給付金、学校の合併や廃校など少子化に関連したニュースが多く流れています。少子化問題が深刻化していく中で、岸田首相は2023年になって「異次元の少子化対策」という言葉を使って、対策を重点的に進めていくことを掲げていましたが、具体的にどのような対策をしていくのでしょうか。また、そもそも少子化によってどのような問題が引き起こされるのでしょうか。今回の記事では、そんな少子化についてこれまでの推移も取り上げながらおおまかにまとめてみました。

少子化の現状と原因

これまでの推移

「令和2年版 厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-」から引用

上図は出生数、合計特殊出生率の推移を示しています。ピンクの棒グラフが示すように近年の出生数は昔に比べてかなり少ないことが分かります。水色の線グラフが表している合計特殊出生率は、15〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計した値で、この値によって異なる年や地域の間の子どもの数の増減を比較することができます。こちらも減少していることから、子どもの数そのものだけでなく、その減少速度も大きくなっていることがうかがえます。
2023年3月現在、昨年2022年における出生数の速報値が発表されており、その数は79万9728人で、統計が取られ始めた1899年以降初の80万人割れとなり、過去最少の結果となりました。

少子化進行の要因

では、出生数が年々減少している原因は何なのでしょうか。

「平成27年版厚生労働白書 - 人口減少社会を考える -」から引用

上図は夫婦の完結出生児数の推移を示しています。完結出生児数とは、簡単に言うと「夫婦の最終的な子どもの数の平均」のことです。ピークの1950年代後半と比べると、近年の数値は小さくなっており、夫婦一組あたりの子どもの数が減っています
しかし、常に値が小さくなっているわけではありません。特に1970年代から2000年代前半までは2.2前後でほぼ横ばいで推移しています。一般に、2人の夫婦が2人以上の子どもを産むのであれば、出生数は減らないはずです。にもかかわらず、1980年代には出生数の減少が始まっていました。一体なぜ出生数が減少したのでしょうか。

「国立社会保障・人口問題研究所-人口統計資料集(2021)-」より作成

上図は、男女別の50歳時における未婚割合(生涯未婚率)の推移を示しています。男女ともに未婚率が上昇、すなわち結婚せずに独身のままでいる人の割合が増えています。したがって、1980年代から2000年代前半にかけて、夫婦一組あたりの子どもの数が減っていなくても、夫婦の数の割合が減っていったため出生数も減っていったことが出生数低下の原因だという見方ができます。
また、「晩婚化」も原因の一つとして挙げられます。結婚する年齢が遅くなることで、妊娠・出産のタイミングが限られてしまい、子どもを多くもつことができないという場合などが考えられます。

では、こうした未婚化や晩婚化、完結出生児数の減少を引き起こしている原因は何なのでしょうか。
主なものとしては経済的側面や育児支援の制度問題などがあります。昔に比べて雇用環境や収入が不安定であったり、経済的な不況によって物価高であったりすることで結婚生活、あるいは子育てにかかる費用の負担が大きくなります。また、女性の社会進出も増えてきていますが、育児休業などの子育て支援体制が十分に整備されているわけではありません。そのため、仕事と育児の両立が難しい状態になってしまい出産を諦めるというケースも少なくないでしょう。他にも、「必ずしも結婚する必要はない」と価値観が多様化していることも指摘されています。独身だから享受できる自由や気楽さ、あるいは結婚することで増える負担や面倒さから結婚しないという考えも見られます。 こうした要因が複雑に絡み合った結果として結婚・出産へのハードルが上がり、上述した現象が起こっています。

少子化の問題点

ここまで少子化が進行していること、そしてその原因について見てきました。今度は、その少子化によってどういった問題が引き起こされるのか見ていきましょう。

社会保障制度

出生数が年々減少しているのと同時に、高齢者の割合がますます大きくなっていることも無視できない問題となっています。このような少子高齢化は、年金などの社会保障制度に甚大な影響を及ぼします。
現在の日本の年金制度は賦課方式となっています。賦課方式では、現役世代の納める保険料が今の年金受給者に給付され、今の現役世代が年金を受給するときは、さらに下の世代が納める保険料が充てられます。つまり、世代間の支え合いで成り立っている仕組みです。少子高齢化によって、この給付と負担のバランスが崩れてしまうことになります。
現在は、少子高齢化による年金の給付と負担を安定させるために、現役世代の保険料率の上限(給料の18.3%)を定めた上で、給付に必要な財源を積立金等からまかなわれています。ですが、今後ますます少子高齢化が進むことで他の財源からまかなうことが段々厳しくなって、やがて年金の給付水準が下がると見られています。そして、給付される年金が少なくなることで老後の暮らしが経済的に圧迫されてしまう人が増える恐れがあります。

※そもそも年金とは?年金制度はどう変わってきた?と思った方はぜひこちらもご覧ください。
年金の歴史—制度はどのように移り変わっていった?分かりやすく解説

経済規模の縮小

少子高齢化が進むと生産年齢人口(労働力人口)が減少します。働く人の数が減ることで国内全体で得られる儲け(≒GDP-国内総生産)が減少する恐れがあります。さらに、少子高齢化で人口が減少していき、需要や消費が落ち込むことで国内市場が縮小していくという可能性もあります。このように需要・供給の両面からマイナスの効果をもたらし、経済面での悪循環が起こってしまい、国民一人ひとりの豊かさが低くなってしまうというわけです。

一方で、少子高齢化、人口減少によって国の経済の成長力が一義的に決まるわけではないことには留意が必要です。人口が減っていったとしても、技術革新等で1人当たりの労働生産性の上昇速度が生産年齢人口減少速度よりも上回れば、結果として国全体の経済成長にはつながるということです。

ですが、次の図のように日本は世界の国と比較して、1人当たりの労働生産性が低いままというのが現状です。

日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」(表1)より作成

現状では、これからますます加速するであろう少子高齢化に対応して労働生産性を上げられるとは限らないでしょう。そうした状況では、先に述べたように、経済が低成長、停滞あるいは縮小するといった事態に陥りかねません。

政府の対策

少子化が加速するのを受けて、岸田首相は「我が国は、社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれている」と述べています。今の政府の課題の最優先課題の一つとも言えるでしょう。
では、この少子化に対して政府はどのような対策案を出しているのでしょうか。

対策案の一つとして挙げられているのは児童手当などの経済的支援の強化です。
現在日本では中学生以下の子どもに対して原則として月1〜1万5千円が支給されています。この制度から、対象を高校生まで拡充したり、第2子、第3子にはもっと多くの額を支給したりなどといった様々な案が出されているようです。
ここで注目されているのが、「児童手当の所得制限撤廃」です。現行制度では、世帯で一定上の所得がある場合は給付額が減らされる、あるいは給付されないといった仕組みが適用されます。財源確保が課題となってきた中で導入されている制度でしたが、すべての子どもの育ちを社会全体で支えるという理念から、所得制限をなくし、すべての子どもに対して給付をするべきだという声も出ています。かつて、この制限撤廃は旧民主党政権によって一度実現されていましたが、その後自民党によって制限が再び設けられて今日に至っています。2月20日、立憲民主党と日本維新の会は所得制限撤廃などを盛り込んだ法案を国会に提出しました。これから国会で議論が続いていくものと見られます。

政府は3月末に政策のたたき台をまとめるとしています。少子化問題をめぐって、ここ数年がラストチャンスという声も出る中で、政府の対応が注目されます。

参考

厚生労働省「図表1-1-7 出生数、合計特殊出生率の推移」2023年3月20日閲覧
毎日新聞「2022年の出生数、初の80万人割れ 想定より8年ほど早く」2023年2月28日
厚生労働省「図表1-3-31 夫婦の完結出生児数の推移」2023年3月20日閲覧
国立社会保障・人口問題研究所「—人口統計資料集2021—表6-23 性別,50歳時の未婚割合,有配偶割合,死別割合および離別割合:1920~2015年」2023年3月20日閲覧
東洋経済ONLINE「「生涯未婚率の数字」なぜか2つ存在するカラクリ 男性は「25.7%と28.3%」どっちが正しい?」2022年5月12日
NHK「1からわかる!年金制度(2)年金額は将来 減っていくの?」2022年11月17日
厚生労働省「いっしょに検証!公的年金〜年金の仕組みと将来〜」2023年3月20日閲覧
内閣府「第1節 技術革新が生産性に与える影響」2023年3月20日閲覧
国土交通省「第4節 デジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れと成長の停滞」2023年3月20日閲覧
日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」2023年3月20日閲覧
NHK「異次元の少子化対策 ~ 問われる家族観」2023年2月2日
NHK「少子化対策 児童手当どうなる 対象や支給額は 制度 経緯 財源」2023年2月8日
NHK「立民と維新 児童手当の所得制限撤廃など法案 国会に提出」2023年2月20日
日本経済新聞「少子化対策、消えた「異次元」 児童手当が最初の関門に」2023年2月6日

ライターのコメント

今回の記事では少子化の現状や原因、問題点などをまとめました。少子化の原因として「夫婦一組あたりの子どもの数が減っている」ことや「未婚割合の増加」などを挙げ、さらにそれらの原因として「経済的側面や育児支援の制度問題」について触れました。少子化についてみられる意見としては、やはりこのような「子育てをしにくい社会構造・周囲の環境」について指摘しているものが多いと感じます。限られた財源ではありますが、その中で人々に寄り添った政策が実現されることを望みます。