年金の歴史—制度はどのように移り変わっていった?分かりやすく解説

2022年10月25日・社会 ・by ろーど

「年金」という言葉を聞いてみなさんはどのようなイメージをもちますか?
「大人になったら保険料を納めなければいけない」「老後にお金をもらえる」「少子高齢化の影響ってどうなんだろう…?」さまざまあると思います。
今や社会制度として確立した年金制度ですが、そもそもこの制度っていつ頃からできたものなのでしょうか?また現在に至るまでどのように制度が変わってきたのでしょうか?
今回の記事ではそんな年金の歴史について見ていきたいと思います。

そもそも年金って?

年金の歴史を見ていく前に年金について少し解説したいと思います。
簡単にいうと年金とは「想定外のリスクに対応できる保険」のことです。大人になって保険料を納めていくことで、必要なときに給付を受けられるという仕組みです。
仮に年金制度がないとすると、個人で老後の暮らしのために貯蓄していかなければならなくなりますが、何歳まで生きるかは分からないので必要な額の貯蓄ができないかもしれません。また、事故などで障害を負ってしまったり、小さな子どもがいるときに配偶者を無くしてしまったりすることで所得を失うことがあるかもしれません。さらに、数十年後の物価や賃金が大きく変動していることがあるかもしれません。このような状況に陥ったときに個人の貯蓄だけで対応するのは限界があります。
そんな場合でも対応できるように設けられているのが年金制度というわけです。私たち一人ひとりが年金に加入することで、社会全体でお互いの暮らしを確実にかつ効率的に支え合うことができ、生涯を通じた保障を実現することが可能になるのです。

ではそんな年金制度はいったいどのような歴史をもつのでしょうか。

創設期

日本最古の年金制度

日本における最も古い年金制度は1875(明治8)年に制定された「陸軍武官傷痍扶助及ヒ死亡ノ者祭粢並ニ其家族扶助概則」という陸軍軍人を対象とした恩給制度だとされています。恩給制度とは軍人の人たちが一定年数忠実に勤務したのち退職あるいは死亡した場合、国家に生命、身体を捧げて尽くしたものとして、軍人及びその遺族に対して生活の支えとしてお金が給付される制度のことです。
江戸時代が終わって新たに誕生した明治政府は、行政執行体制や軍隊その他の制度を構築し、文明国家としての法的枠組みを確立することを目指しました。そのためには、国家を支えてくれる人材を確保し、その定着を図るための制度が必要であり、これが恩給制度の創設と整備の背景になったと考えられています。また、それまであった官職を子孫が代々承継する仕組みや家禄(=華族・士族に対して支給されていた金銭や物資)が廃止されたことから、そのような人材の側からも、退職後の生活のための給付制度が必要となるという事情もあったのではないかとされています。

それからやがて陸軍軍人だけでなく、海軍軍人や警察監獄職員、文官などといった公務員も対象にした恩給制度が築かれていくこととなりました。

民間の人に向けた年金制度

年金制度が始まってしばらくの間は軍人などの決まった職に就いている人のみが対象となっていましたが、やがて民間の人たちも対象となっていきます。

1942(昭和17)年、軍需工場や鉱工業等で働く男子労働者を対象とし、年金を支給する「労働者年金保険法」が施行されました。この制度の制定の背景は労働者の福祉を充実させることで労働者を確保し、戦争遂行のために生産力の拡充を図ることなどが挙げられます。
また1944(昭和19)年には、労働者年金保険法は厚生年金保険法へと名称を改め、対象を事務職員や女性にも拡大するなどの改正も行われました。

こうして第二次世界大戦の終戦時までには民間の会社員の人たちも給付の対象となったのでした。

国民皆年金の実現

終戦時には給付の対象が広がっていた一方で、自営業者や農業従事者等については、当時、公的な年金制度はまだ存在していませんでした。さらに、戦後復興が進むなかでの核家族化の進行や都市への人口集中、将来の高齢化社会への見通し等によって、高齢世代の生活の不安定化が懸念されました。
以上を背景として、全国民を対象とした老後の所得保障の必要性が高まり、1959(昭和34)年に国民年金法が制定され、1961(昭和36)年から保険料の徴収と年金の支給が始まりました。国民年金は、20歳から59歳までの日本国民のうち、厚生年金(=会社員対象の年金)や共済年金(=公務員等対象の年金)等の対象とならない人々を被保険者としており、これによって「国民皆年金」が実現することとなりました。

このように明治初期から始まった年金制度は徐々に被保険者の範囲を広めていき、戦後十数年を経てようやく全国民を対象としたものになりました。

充実期

年金水準の引き上げ

戦後日本はやがて高度経済成長期を迎え、そのなかで所得水準は順調に伸びたものの、厚生年金については保険料率・給付水準がともに低い水準で抑えられており、高齢化の進行に伴う老後の保障への国民の関心の高まりも相まって、年金水準の引き上げを望む声が強く聞かれるようになりました。
このような状況を踏まえ、1965(昭和40)年改正においては、保険料率の引き上げとともに標準的な厚生年金額が月額1万円となる「1万円年金」が実現しました。また、翌1966(昭和41)年には国民年金でも被保険者1人あたりの標準的な年金月額が5千円となり、すなわち夫婦で「1万円年金」が実現することとなりました。

物価スライド制の導入

1973(昭和48)年改正においては、物価スライド制が導入されました。物価スライド制とは、物価の変動があっても年金額の実質的な価値を維持するために、物価の変動に合わせて年金額を改定する制度のことです。この制度の導入によって、同年の石油危機(オイルショック)で物価が高騰した際に大きな役割を果たしました。

このように、戦後から高度経済成長期にかけて、高齢者問題をめぐる関心が高まるなかで、年金制度は柔軟な対応を見せ、老後保障の柱となる年金制度への期待も大きくなっていくのでした。

高齢社会への対応期

基礎年金の導入と女性の年金権の確立

先の国民皆年金の実現によって年金は大まかには次のように分類されました。

国民年金:自営業者向け
厚生年金:会社員向け
共済年金:公務員等向け

しかし、制度間で納付と給付の両面で格差が生じたり、産業構造の変化等によって財政基盤が不安定になったりという問題が生じていました。
また、当時民間サラリーマン等の妻(専業主婦)は、夫の年金で、あるいは任意に加入できた国民年金によって保障されることとなっていましたが、国民年金に任意加入していない妻が離婚したら年金を受給できなかったり、任意加入するか否かによって世帯としての年金水準に差が生じたりするという問題もありました。
以上の問題を解決するために、1985(昭和60)年改正で基礎年金という制度が導入されました。この制度によって男性会社員の配偶者である妻は国民年金に強制加入することになりました。さらに、国民年金の対象を自営業者らだけでなく全国民とし、厚生年金や共済年金については国民年金に上乗せする形で給付されることとなりました。このように、全国民共通の年金を導入したことで給付と負担の公平化や重複した給付の整理が図られました。

保険料率上限の設定

2004(平成16)年改正では、国民年金と厚生年金について、年金の給付と負担を均衡させる新しい仕組みが設けられました。
それまでの制度では、少子高齢化の対応として現役世代(働いて保険料を納めている世代)の保険料を引き上げて対応していました。しかし、このままでは少子高齢化の進行によって若い人たちへの負担がどんどん大きくなって耐えきれなくなってしまうだろうという背景から新たな仕組みが設けられたというわけです。 その仕組みというのは、負担する保険料の上限を設定したというものです。設定された上限による保険料収入の範囲内で、長期間の人口と経済の見通しを立てた上で給付水準を調整していくことになります。
これによって、それまで引き上げられてきた保険料率、給付水準の伸びが抑えられるようになって、将来にわたって制度を持続的で安心できるものとなる財政の枠組みが整えられました。

年金制度のこれから

受給開始年齢の繰り下げ

原則、年金の受給開始年齢は65歳ですが、2022(令和4)年4月の改正によって受給開始の上限年齢が75歳に引き上げられました。受給開始を遅らせた分だけ受給額が増額する仕組みです。もし75歳まで伸ばすと受給額は最大で84%増額できるとなっています。この制度によって、年金受給を遅らせて働く人が増えれば、日本経済が成長し、年金給付のための国の財源も増えると同時に、受給を繰り下げる人にとっては、何歳まで働いて何歳から年金をもらえるかをより幅広く選択できるようになります。

以上ここまでの内容のように、年金制度は誕生してから今に至るまでさまざまな改正が行われてきました。これからも日本の少子高齢化の進行に伴って、あるいは、経済状況に応じて、年金制度はより安定な制度に向けた改正が必要になることがあるかもしれません。将来の幅広い色々なケースを想定した上で見通しを立てるなど、柔軟な対応が求められていくでしょう。

参考

日本年金機構「知っておきたい年金のはなし」2022年4月1日
厚生労働省「いっしょに検証!公的年金〜年金の仕組みと将来〜」2022年9月23日閲覧
厚生労働省「教えて!公的年金制度 なぜ公的年金は必要なの?」2022年9月23日閲覧
厚生労働省「第5 公的年金制度の歴史」2022年6月24日
総務省「政策統括官恩給担当」2022年10月21日閲覧
総務省「恩給制度の概要」2022年10月21日閲覧
NHK福祉情報サイトハートネット「社会保障70年の歩み】第9回・年金「開戦時に産声」」2015年5月8日
東京都狛江市「国民年金制度の生い立ち」2003年12月9日
日本年金機構「は行 物価スライド」2020年3月6日
厚生労働省「第11 老齢年金の繰下げ受給と繰上げ受給」2022年10月21日閲覧