2022年ウクライナ情勢ー世界各国の対応はどうだった?

2022年12月31日・国際 ・#2022-23特集 ・by ろーど

ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を始めてからおよそ10カ月が経ちました。2022年がもうすぐ終わりますが、今年のニュースを振り返るとやはりこのウクライナ侵攻が主要なニュースの一つと言っていいでしょう。これまで戦況や情勢について様々な情報が伝えられてきました。今回の記事では、ウクライナ支援という観点を中心に戦争と各国の対応についてまとめました。

ウクライナ情勢の概要

今年の2月24日にロシア軍がウクライナへ軍事侵攻を開始しました。プーチン大統領が軍事侵攻を決断した理由として挙げられているのが、「ウクライナのNATO加盟阻止」です。NATOとは北大西洋条約機構というアメリカやヨーロッパの国々で構成されるグループのことで、冷戦時代に旧ソ連に対抗する軍事同盟として発足しました。旧ソ連が崩壊した後もロシアと対立した関係が続いています。そんな中、ロシアの近隣国であるウクライナは、NATOへの加盟を目指しました。ウクライナはかつて旧ソ連の構成国であり、ロシアにとってウクライナは「兄弟国」という存在となっています。「そんなウクライナがNATOに加盟してしまったら、いざというときに国がNATOによって脅威に晒されてしまうかもしれない」とプーチン大統領は考えています。そこで、武力によってウクライナのNATOへの加盟を阻止し、ロシアの言うことを聞かせたいという動機から軍事侵攻に踏み切ったと言われています。

※また、ロシアによるウクライナ東部地域の独立承認も今回のウクライナ情勢に関わっています。独立承認やこれまでのウクライナ情勢についてはこちらの記事をご覧ください。
ウクライナ情勢をわかりやすく解説 独立とは?今後どうなる?

こうして戦争が起こってしまいました。これまでの被害状況はウクライナとロシアの双方で発表内容が大きくかけ離れており、実態ははっきりしていませんが、アメリカ軍トップのミリー議長は、ウクライナとロシア両軍の死傷者数は合わせて20万人にのぼると声明を出しています。また、国連人権高等弁務官事務所によると、これまでにウクライナで少なくとも6800人を超える市民が亡くなりました。

ウクライナへの各国の支援

日本やアメリカ、ヨーロッパ各国はロシアの軍事侵攻を非難し、ウクライナへの軍事支援を行っています。その一方で、ロシアに対して経済制裁を行い、戦争を続けることを難しくしようとしています。ウクライナ侵攻に対する各国の対応について詳しくみていきましょう。

アメリカの支援

アメリカはこれまで、ウクライナに対して様々な面で支援を行ってきました。
弾薬やロケット砲、無人機、軍用車といった武器の供与や輸送を行う軍事支援、食糧援助やヘルスケア、避難民のサポートに充てられる人道的支援、そしてウクライナ政府が内政を続けられるように援助する経済的支援などがあり、これまでの10カ月で600億ドル以上の支援をしてきました。このうち軍事支援がおよそ190億ドルを占めており、このようなアメリカの巨額の軍事支援がウクライナの戦場での反転姿勢につながっている一つの要因とも言えるでしょう。

巨額の支援をめぐっては、国内で賛否が別れています。 つい最近、ウクライナのゼレンスキー大統領がアメリカを訪問し、バイデン大統領と首脳会談を行ったというニュースを見た方も多いと思います。そこで、バイデン大統領は引き続きウクライナへの軍事支援を行う考えを表明しました。 その一方で、支援に慎重になるべきという声もあります。 共和党の議員からは、ウクライナ支援の予算を国内のインフレなどの経済対策や対中国政策に充てるべきだという意見が出ています。さらに、バイデン大統領が属する民主党の一部の議員からも、戦争を早期に終わらせる努力をすべきという声もありました。
連邦議会内、さらには民主党内でもウクライナ支援をめぐって考えが揺れている現状が伺えます。

日本の支援

11月までで、日本はウクライナへおよそ1620億円の支援実施を表明してきました。主に、非常用食料や防寒具、衛生資材などの生活支援物資が中心となっており、さらに、これから到来する冬の寒さに備えられるよう、暖房整備などの追加支援を行うことも表明しています。

また、以前ウクライナに対して防弾チョッキや防護マスクといった防衛装備品を提供したこともありました。日本では、憲法によって定められた平和主義に基づき、殺傷能力のある武器を輸出することは禁じられていますが、国際平和や日本の安全保障に役立つ場合に限って防衛装備品を他国に輸出することができるという原則があります。今回はこの原則のもとでウクライナに送られました。
しかし、この対応が議論を呼ぶ可能性があるという指摘もありました。先の原則には他にも制限があり、紛争当事国には防衛装備品を送ることができないという決まりがあります。にもかかわらず、紛争中のウクライナに日本は防衛装備品を送りました。なぜかというと、日本政府が、ロシアの軍事侵攻に対して国連安全保障理事会による対応が講じられていないことを理由に、ウクライナは「紛争当事国」には該当しないと解釈したからです。とはいっても戦時下の当事国に対する事実上の軍事支援にあたるということで、日本のとった対応は議論を呼ぶかもしれないということです。
この対応はウクライナを念頭においた特例のものだとされていますが、議員の中には、輸出先をウクライナに限らず「国際法違反の侵略を受けた国、地域」に広げるべきだという意見もあった模様です。国際法違反の侵略を防ぎ安全平和を目指すための対応だという肯定的な意見もある一方で、今回のウクライナのために防衛装備移転の原則の運用指針を変えたように、この先もことあるごとに運用指針が変えられていき、どんどん歯止めがなくなっていく恐れがあるという批判もあり、この先焦点を当てるべき議論となるでしょう。

ヨーロッパの支援

ヨーロッパでは、NATOやEUを中心にウクライナへの支援が続いています。
NATOは、アメリカと同様に、燃料や医薬品、冬の装備などの非軍事支援も行っていますが、軍事支援の強化の声明を度々発表しています。ロシアのミサイル攻撃が相次いでいることへの対応として、最新防空システムや榴弾砲といった兵器の支援を行っています。
EUは、12月の首脳会談で、来年、およそ2兆6000億円をウクライナに対して支援することで合意しました。支援はウクライナが公共サービスを維持したり、ロシア軍による攻撃で破壊されたインフラ施設を修復したりするために使われるとされています。 このように、ヨーロッパからもウクライナへ積極的な支援が行われています。

しかし、このようなヨーロッパのウクライナ支援やロシアへの制裁(制裁については後述)がヨーロッパ各国に苦しい状況をもたらしています。
これまでヨーロッパの国々は、エネルギー源としてロシアからのパイプラインを通して得られる天然ガスに依存してきました。そんな天然ガスを、ヨーロッパのウクライナ支援やロシアへの経済制裁に対抗する形で、ロシアは供給を止めてしまったのです。
その結果、ヨーロッパではコロナ禍の経済状況と相まって、エネルギー費が高騰しました。さらに、冬の到来により燃料価格・電気代がますます高騰する恐れがあります。
この状況を受けて、EUは、天然ガスの価格高騰による市民生活などへの影響を抑えるため、一定の条件のもとでガスの取引価格に上限を設けるなどの対応をしていますが、依然として厳しい状況に変わりはなく、エネルギー源の安定確保を懸念する声も出ています。

ここまで各国のウクライナ支援について見てきました。ロシアから軍事侵攻を受けているウクライナをどんどん支援しようという単純な話ではなく、各国とも経済状況や法律など、自国にも大きく関わる問題に直面しながら支援を行っていることがわかります。

ロシアへの対応

先ほど、ヨーロッパのロシアへの制裁によって天然ガス供給が止まっていると書きましたが、ではそのロシアへはどのような対応がとられているのでしょうか。

G7の対ロシア制裁

欧米と日本でつくるG7=主要7か国は共同でロシアに制裁を行っています。

・SWIFTからの締め出し・資産凍結
SWIFTとは国際銀行間通信協会を指し、貿易などの送金でも使われる国際的な決済ネットワークのことです。この組織からロシアの一部銀行を排除するというのです。それによってロシアの企業は貿易の決済が困難になるため、実質世界経済からの排除に相当する厳しい制裁となっています。
また、ロシアの中央銀行の資産凍結も行われています。つまり、ロシアは外貨などの資産を自由に動かすことができなくなります。このようにロシアを制限することでロシア国内のインフレを加速させ、ロシア経済に打撃を与える狙いです。

・最恵国待遇の取り消し・撤回
ロシアの貿易における最恵国待遇の取り消しも制裁の一つとなっています。最恵国待遇とは、関税などでいずれかの国に与える最も有利な待遇をほかのすべての加盟国にも与えなければならないという決まりのことで、加盟国みんなで平等な待遇のもとで貿易を行いましょうという趣旨で決められています。これをロシアから取り消すということは、ロシアの待遇を悪くしてしまうことに相当します。具体的には関税の引き上げであり、貿易面からもロシアに圧力をかけています。

・貿易の輸出・輸入規制
貿易面についてはさらに輸出・輸入の規制も行われています。つまり、各国がロシアへの輸出を減らし、ロシアからの輸入品を減らすということです。制限する輸出品の例として半導体やセンサーなどのハイテク製品や建設用の大型機械などがあり、軍需産業に打撃を与える狙いです。制限する輸入品としては、石油や天然ガスなどがあり、ロシアの戦費調達を防ぐ目的があります。

国連での非難決議

国連でもロシアの軍事侵攻に対する対応がとられています。
10月に国連ではウクライナ情勢を協議する緊急特別会合が開かれました。そこでは、ロシアのウクライナ東部・南部4州の一方的な併合を違法だとする非難決議案が賛成多数で採択されました。決議には日本や欧米の国々を含む193カ国中143カ国が賛成する一方で、ロシアのほか、シリア、北朝鮮などは反対、中国やインドを含む35カ国は棄権という結果になりました。
この国連の対応からもわかるように、ロシアの軍事侵攻は世界の多くの国々から非難されており、ロシアの外交的孤立が深まっています。

以上、ウクライナ情勢に関する動きについて振り返ってきました。
年明け以降も各国のウクライナ支援が続くとみられる一方で、ロシア軍の攻撃が大規模化するという予測もあります。民間人の甚大な犠牲をこれ以上生まないためにも、一刻も早く軍事侵攻の終結が望まれます。

参考

朝日新聞「【そもそも解説】ロシアはなぜ侵攻したのか? ウクライナ危機の背景」2022年3月23日
NHK「【なぜ】ウクライナ軍事侵攻 そもそもの背景・ロシアの思惑は? 石川一洋解説委員」2022年2月28日
BBC NEWS「Ukraine war: US estimates 200,000 military casualties on all sides」2022年11月10日
NHK「ウクライナ侵攻10か月 市民6800人超死亡 長期化で犠牲者増懸念」2022年12月24日
東京新聞「アメリカ、ウクライナに560億円規模の追加支援表明 発電機200台やハイマース追加弾薬」2022年11月24日
BBC NEWS「Zelensky makes his pitch - will US sceptics buy it?」2022年12月22日
CSIS「Aid to Ukraine Explained in Six Charts」2022年11月18日
NHK「米ウクライナ首脳会談 バイデン大統領 軍事支援の継続強調」2022年12月22日
産経ニュース「米共和党幹部「ウクライナ支援で白紙小切手切らない」」2022年11月30日
NHK「ウクライナへの巨額支援 アメリカは続ける?続けない?」2022年11月2日
朝日新聞「ウクライナに防弾チョッキなど提供へ 異例の支援に首相「強い連帯」」2022年3月4日
時事ドットコム「ウクライナ支援に600億円 外務省補正予算案、円安対応も」2022年11月2日
毎日新聞「日本はウクライナに武器を送れないのですか?」2022年5月30日
東京新聞「ウクライナは紛争当事国じゃない? 自衛隊の防弾チョッキ特例で提供 防衛装備移転三原則の歯止めどうなる」2022年3月9日
外務省「ウクライナにおける越冬支援のための緊急無償資金協力」2022年11月22日
防衛省・自衛隊「ウクライナへの装備品等の提供について」2022年4月19日
BBC NEWS Japan「NATO各国、ウクライナへの軍事支援強化へ 防空システムなど提供」2022年10月13日
NHK「EU首脳会議 ウクライナへ 約2兆6000億円支援で合意」2022年12月16日
サステナブル・ブランド ジャパン「欧州を襲うエネルギー費高騰の嵐 原因と緊急対応の実際と日本への影響」2022年9月26日
日本経済新聞「欧州ガス急反発、ロシア供給停止で ユーロは安値更新」2022年9月5日
NHK「EU 天然ガス高騰対策 取り引き価格に上限設定で合意」2022年12月20日
NHK「ロシアへの制裁 各国比較すると(5月12日時点)」2022年5月12日
NHK「ロシアへの経済制裁「SWIFT」って、なに?」2022年3月3日
NHK「ロシアへの制裁 中央銀行の“資産凍結”ってどういうこと?」2022年3月2日
ロイター「国連総会、ロシアの4州併合非難決議を採択 143カ国が賛成」2022年10月13日
NHK「【解説】ロシア 来年早い時期に大規模攻撃か ウクライナは警戒」2022年12月16日