総合型選抜って結局どうなの?現役受験生が調べてみました

2023年12月11日・教育 ・by リコ

総合型選抜とは

近年耳にすることが多くなったAO入試や総合型選抜。まだ日本では広く普及しておらず、みなさんも「受かる基準がよく分からない」「一般入試ほど勉強しなくても良い」など、肯定的ではない意見も聞いたことがあるのではないでしょうか?

AO入試は旧名で、2021年度に総合型選抜に名称が変わりました。総合型選抜とは、詳細な書類審査と面接、小論文によって合否を決める大学入試です。推薦型選抜と違って学校長の推薦書は必要なく、高校での成績も重視されないことが多いです。各大学・学部で重視するポイントを定めており、共通した試験内容や評価基準はありません。

この入試は欧米で主流な方法に似ていて、日本ではAO入試が1990年度に慶應義塾大学SFCで初めて実施されました。

この記事では、現在高校3年生で実際に欧米の受験真っ只中の筆者が、日本の総合型選抜のメリット・デメリット、そして欧米受験の実情を紹介し、比較していきます。

総合型選抜のメリット・デメリット

メリット

総合型選抜の1番のメリットは、学力以外の多様な資質が評価されることです。プレゼンテーションやコミュニケーションの能力、また、リーダーシップや問題解決力なども選抜過程で評価されるため、学業以外の分野でも活躍できる人材が集めやすいと言われています。そのような学力以外のスキルは、大学卒業後の就職やその先の人生でも発揮できるため、長期的な目で学生を評価する選抜方法となります。

また、総合型選抜には、学業の分野におけるメリットも存在します。総合型選抜では、志望動機を書類や面接で表現する必要があるので、自分がなぜその大学に行きたいのか、何を学びたいのかを明確に理解している入学者が比較的多いです。はっきりした目的を持っているため、大学での学びに対するモチベーションが高いと言われています。また、その意志を大学側に効果的に示すことができた人が合格するため、自己表現力が高い生徒を選抜できるという利点もあります。

デメリット

上記のようなメリットが挙げられる一方で、その効果が必ずしも発揮されるとは限りません。

多様な資質や目的意識を評価するためではなく、定員割れを防ぐ学生確保のために総合型選抜を取り入れる大学もあります。一般入試の試験を通さずに合格が出せるため、この場合、総合型選抜利用者の学力や学習習慣の不足が問題視されることがあります。

また、一般入学試験の点数という明確な判断材料がないため、ブラックボックスと呼ばれることもあります。人物像全体を評価するがゆえに基準が曖昧になってしまうことが原因です。

さらに、経済格差が関与するのではないかとも言われています。自分のことを伝える過程において、インパクトのある体験談や個性的なスキルは評価されやすいです。経済状況による格差・不平等が生まれてしまう懸念があります。

欧米大学受験との比較

アメリカ

アメリカの大学受験では、ホリスティックアプローチと呼ばれる入学審査が一般的です。ホリスティックとは「全体的な」という意味で、多様な能力を総合的に審査するアプローチです。この点において、日本の総合型選抜はアメリカの大学受験に似ていますね。基本的な概念は共通していますが、具体的な方法には違いがあります。

まず1番の違いは、特定の学部では無く大学に出願することです。希望の学部は選択するものの、自分の関心分野を示すものにすぎず、本格的な学部決定は入学した後、大学2年生の終わりに行います。なので、勉強したい学部や分野にとらわれず、理系文系、スポーツから芸術まで、広い範囲での能力が評価対象となります。例えば、法律を専攻したい学生が法律とは関係のないピアノの全国大会で受賞したとしても、その受賞歴で評価を上げることができます。

そして、多くの大学が成績を重要視します。日本の高校は学校によって成績をつける基準が大きく異なり、校外のデータと比較しにくいのに対して、アメリカの高校は全国的に似た成績基準を設定しています。平常点は無く、テストと課題が成績に占める割合が定められているため、主観や情状酌量をある程度防げる仕組みになっています。さらに、大半の高校がシラバスと呼ばれる資料で成績基準やクラスの難易度、学習内容を公開し、大学側はこれを見ながら生徒の成績を審査することができます。

そして成績に加えて、SATやACTと言った共通テストのスコアを提出させる大学が多いです。つまり、日本の総合型選抜とは違い、一般入試のような要素も組み合わせています。「総合的」な審査において、全国共通の学力試験も項目に含むということです。ですが、この統一テストは日本の入試とは違って大学出願まで何度も受けることができ、その中のベストスコアのみを提出することが多いです。必須であることが多いSATやACTとは別に、特定の教科で自分の学力が大学レベルであることを証明するAP試験や、2年間かけてカリキュラムを履修し、世界基準のハイレベルな教育享受を証明する国際バカロレアなど、自己判断で受けて実績を提出できるプログラムもあります。

さらに、単純な能力ではなく、その先に見える学生の人物像を評価しています。例えば、どんなに輝かしい経歴と成績を並べても、その全体像に一貫性したビジョンや情熱、目的意識が見えなければ、価値は見出してもらえません。「何を」達成したかよりも「なぜ」「どのように」達成したかを重視し、その学生の将来性を測ります。課外活動・受賞歴に加えて、ほとんどの大学に送る共通の「パーソナルエッセイ」で自分の人物像を表現、その他に個別の大学ごとにそれぞれ多くて5本以上のエッセイを書きます。「過去に戻って歴史的出来事を目撃できるとしたら、どの出来事を選びますか?」や「あなたに喜びをもたらすものは何ですか?」など、それぞれの大学が多様な質問で個性を測ります。

さらに、学生をよく知る教師や学校外の関係者に推薦状を書いてもらったり、各大学の卒業生が学生の出願書類を全く見ない状態でカフェなどでカジュアルな面接を行い、第三者的な視点から大学に人物像をレポートを送ったりします。

このようにアメリカのホリスティックアプローチは、分野を限定しない生徒1人1人の総合評価を、日本の総合型選抜以上に徹底しています。これが実現できるのは、アメリカ大学受験が特定の学部ではなく大学全体に適した生徒を選抜するシステムであることが大きな理由だと言えます。

イギリス

イギリスの受験では、全ての大学にUCASと呼ばれる共通のプラットフォームから一斉に出願します。日本のように特定の学部を受験します。学部は複数受験することができますが、5学部に限られています。この5学部は、1つの大学から選ぶことも、複数の大学から組み合わせて出願することも可能です。

UCASでは自己表現をするエッセイは「パーソナルステートメント」と呼ばれ、全大学共通です。アメリカの受験と違い、パーソナルステートメント1本以外のエッセイはありません。さらに、課外活動・受賞歴欄も無いため、パーソナルステートメントで自身の経歴まで説明する必要があります。そして、アメリカのようなホリスティックアプローチでは無く、法学部志望でピアノが得意などといった受験する学部と関係のない違う角度からの課外活動・受賞歴はあまり評価されません。

学力の証明方法では、アメリカと多くの共通点があります。出願までの共通テストや教科テストのスコア、高校の成績を提出します。選択する学部に合わせてイギリス全国共通の教科テストが用意されている他、アメリカやその他の外国から受験する生徒のために、SATやACT、AP、国際バカロレアなどで取得したスコアでの代替も許可しています。

またイギリスでは、結果発表日以降に出るテストスコアも考慮されます。これは条件付き合格と呼ばれ、テストスコアが基準を満たしていなくても、他のステータスをもとに仮合格をもらい、一定期間内に条件のスコアを達成した場合のみ正式な合格としてもらえる仕組みです。アメリカよりも活動歴の重要度が低い分、全体的に学力が合否により重く反映されます。

面接はイギリスの大学受験にも存在しますが、アメリカや日本の受験よりも行なっている学部・大学が少ないです。オックスフォード大学とケンブリッジ大学では全学部に必須で、その他の大学は医学関連の学部のみ実施などの特例を設けているところが多いです。面接の内容も、学生の人物像よりも関心のある学問への精通度を測るのが一般的です。そして推薦状も送付することができ、推薦状の数制限に違いはあるものの、趣旨や内容はアメリカのものと大差ありません。

このようにイギリスの受験は、日本の総合型選抜やアメリカのホリスティックアプローチと共通点も多い一方で、学力の重要度が高いことが特徴です。イギリスの大学課程は3年間と短いため専門的な学習がすぐに始まり、入学時点ですでに高い学力の基礎が必須であることが大きな理由だと言えます。

総合型選抜のこれから

総合型選抜を実施している大学は、日本で年々増えています。2023年度の時点では、国立大学のおよそ8割が実施したそうです。その中でもいち早く総合型選抜を取り入れていた東北大学は、現在募集人員の約3割を総合型選抜で取っています。東北大学の副学長は、AO入試(総合型選抜)を「より多面的な視点で能力を測る入試方法」だと評価しています。

東北大学副学長のコメントのように、筆記試験だけでは測れないような能力・資質を求める大学が、総合型選抜の実施を増やしていくことでしょう。最近はリアルタイムの小論文や教授とのディスカッションの実施、さらに共通テストの点数も判断基準に含める大学も現れてきて、このようなシステムが普及すれば、総合型選抜のデメリットとして挙げられた「学力や学習習慣の不足」の心配も無くなっていく見込みです。

学生の興味関心、情熱が評価され、目的意識や自己表現力が養われる、そんな長期的な未来を見た総合型選抜への期待は高まっています。

参考

Thinkキャンパス「「総合型選抜」とは...共通テストの代わりに必要なものは?」2023年4月20日
大学入試研究ジャーナル「推薦入試・AO入試の効果に関するレビュー研究」2021年
日本経済新聞「大学入試 総合型や推薦、曖昧な選抜基準が不信招く」2023年9月26日
Newsweek「アメリカのAO入試はどうして機能しているのか?」2011年3月9日
SI-UK「イギリスの大学出願・合格までの流れ」閲覧日2023年12月11日
Thinkキャンパス「国公立大の受験でも増える「総合型選抜」 約8割が実施、いち早く導入の東北大に狙いを聞いた」2023年9月6日
東洋経済ONLINE「一般選抜入試枠が減っていく!?大学が旧AO入試「総合型選抜」を選ぶ背景」2022年12月20日

ライターのコメント

ここまで総合型選抜と、海外の類似受験制度を見てきました。総合型選抜にはまだ様々な課題があるものの、入試という一発勝負よりも幅広いポテンシャルを拾ってくれる制度はとても魅力的なのではないかと感じます。総合型選抜の学力面での課題はすでに解決に向かっていますが、経済格差の懸念も、実績のスケール評価よりも「学生が置かれた環境でいかに努力して最大限結果を出したのか」を評価する視点が定着すれば解消されるのではないでしょうか。公平なシステムを確立した上で、これから面白い学生がどんどん発掘され、学習機会を獲得することが増えていくと良いですね。