ノーベル賞とは?受賞者数から紐解く日本の現状・懸念点とは?

2023年12月02日・教育 ・by まなか

10月に発表された今年のノーベル賞は、去年に引き続き日本人の受賞はありませんでした。来年、複数の日本人が受賞できるといいですね。

今年の受賞者の中で最も注目されたのは、新型コロナウイルスのmRNAワクチンの開発に貢献したペンシルベニア大学のカタリン・カリコ特任教授とドリュー・ワイスマン教授だといわれています。この2人が、人工的に作ったmRNAを、炎症反応を起こすことなく体内に入れる技術を考案したことで、ビオンテックとファイザーが2020年にコロナワクチンを共同開発し、コロナの流行から1年でワクチンを普及させることができました。長かったコロナ禍を終わらせる発明が、日の目を見ることができたといえるでしょう。

ノーベル賞とは

まず始めに、ノーベル賞とはどんな賞なのか簡単に説明していきます。ノーベル賞は1901年、ダイナマイトを発明したことで知られる、スウェーデンのアルフレッド・ノーベルの遺志によって創設されました。人類の福祉に最大の貢献をもたらした人々に毎年賞が授与されています。国際的に名高い賞の一つであり、研究者にとっての最大の目標と称されることも多いようです。また、各受賞者には賞金・賞状・メダルが授与され、2023年の賞金額は1,100万スウェーデン・クローナ(約1億5,000万円)でした。

歴史

それでは、ノーベル賞の歴史を振り返っていきましょう。1901年の創設当初は、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和賞の5つで、68年からは経済学賞が加わって、現在の形になりました。毎年10月の第1週から各賞が発表され、これまで885人と26団体に賞が贈られています。受賞者のほとんどは男性ですが、過去には48名の女性が受賞しており、1903年、放射線の研究に関して、物理学賞を受賞したポーランド出身のマリー・キュリー夫人が女性初の受賞者です。過去の受賞者の中には、同じ分野または異なる分野で複数回受賞をしている人もいます。ちなみに、キュリー夫人もその一人で、その後化学賞を受賞しました。

選考方法

基本的に、ノーベル賞の選考過程は受賞の50年後まで明かされませんが、推薦依頼状の発送、候補者の絞り込み、受賞者の発表といった経緯で選考が行われることが知られています。そして、最終的に、毎年ノーベルの誕生日である12月10日にノーベル賞の授賞式が行われています。最後まで誰が受賞するのかわからない点が、毎年ニュースを盛り上げているかもしれませんね。

日本のノーベル賞

日本の現状

2000年以降、日本は自然科学分野では、米国に次ぎ世界で2番目に多いノーベル賞受賞者数を誇っています。これまでにノーベル賞を受賞した25人の日本人は全員が男性であり、女性は受賞をしていませんが、間違いなく、日本はノーベル賞の受賞大国の一つでしょう。ただ、長年日本は6つのノーベル賞のうち、経済学賞のみ受賞を逃しています。経済学は科学をベースに歴史学、社会学、政治学、心理学等、あらゆる分野を絡めて実社会や経済政策を探求する総合的な学問です。日本では経済学の授業は大学から始まるため、マイナーな科目として扱われています。しかし、海外では高校から教える国が多いためこの違いに原因があると指摘をする人もいます。また、近年日本のノーベル賞受賞者は減りつつあり、20〜30年後にはノーベル賞が取れなくなってしまうのではないかと懸念されています。科学の進歩によりノーベル賞の審査基準が変化し続けている今、なぜ近年日本の栄光にはかげりが見えているのでしょうか?

日本の懸念点

日本でノーベル賞を取ることが昔よりも難しくなっている理由は、いくつか考えられています。文学賞や平和賞は、活動自体が英語化され明確に表されているものが少ないため、日本では受賞数が少ないと言われています。また近年、様々なデータによって、日本の科学技術力が停滞していることが示されていて、主な要因として、高齢化や人手不足研究費不足研究時間不足が挙げられています。それでは、上記の3つのポイントに分けて詳しく掘り下げてみましょう。

高齢化・人手不足

まず、研究発表のおよそ25年後での受賞が一般的なノーベル賞では、研究者の年齢が重要視され、若いうちに素晴らしいを成果を残すことが求められます。そのため、日本の研究者の高齢化が現在問題として挙げられています。また、直近の20年間は、大学院博士課程の入学者は減少傾向にあり、優秀な若手研究者も大学側の人事移動の停滞のため海外へ去り、合計生徒数、研究者数の減少にも歯止めがかかっていません。

研究費不足 (論文数の不足)

2000年以降、科学技術の重要性が強く認識され、世界各国は科学技術や研究予算を増やしました。しかし、日本政府は全国の国立大学が研究費や職員の給与等に充てる運営費を賄うための交付金を、平成16年から1445億円削減しました。このような研究費不足から、日本の科学者は思うように支援を受けることができていません。ノーベル医学・生理学賞の受賞者である大隅良典さんも、「10年後、20年後にはノーベル賞受賞者が出なくなるだろう」と常に強い危機感を訴えていました。

研究費不足によって、大学や政府は研究者に対し、短期間で成果を求める傾向が強く、研究の多様性を狭めています。実際、日本の大学や研究機関の論文数は、99~01年の年平均2位と比べて、19〜21年は5位に後退しています。世界では、自然科学系論文数は1981年から2005年までで3.5倍に増加しています。ちなみに、お隣の中国では10年前と比べて論文数は4倍に、インドや韓国も論文数を2倍以上に伸ばしているため、主要国のなかで日本の論文数だけが減少しているという状況です。

もちろん、論文は数多く出すことよりも、質のある内容を発表することが重視されますが、日本では研究者の論文に引用される回数が多い優れた論文の数も減ってしまっています。合計引用数が上位10%、1%の論文数は下降の一途を辿っているのです。やはり、海外との大きな研究力の差は研究費からくるものが大きいのかもしれません。

研究時間不足

国立大学が法人化して以来、日本の研究者は大学で教鞭をとることが多くなりました。多くの研究者は、実験機器の調整や管理、資料のコピーなどの事務作業をはじめとして、学会発表する学生の資料作成などへの助言等に時間を取られてしまい、研究に時間を割くことができていません。また、専門性の高い実験の補助を行う人材や研究支援者の減少も研究時間不足に拍車をかけており、若い研究者の研究時間は勤務時間の約1割とも言われています。そのため、助教や准教授の間には、十分に研究に専念できる環境が備わっていないことが問題として挙げられています。

解決策

こうした現状を改善するために政府が打ち出したのが、世界最高水準の研究を目指す国際卓越大学研究制度です。この制度は、政府が国際的に評価された研究の展開や経済社会に変化をもたらす可能性がある大学を国際卓越研究大学として認定することで、大学に資金の助成を行うというものです。2800億円が助成金として使用され、大学が独自に基金を運用することで新たな資金を獲得することも目的の一つです。これまで行われてきた民間企業からの寄付、投資よりも多額の支援を行い、次世代を担う自立した若手研究者の育成に力を入れていくという目標があります。期待される効果としては、基金を通じた助成によって研究環境を整備して人材結集を図ること、研究者へのサポート体制の充実化が挙げられます。大学の基盤が助成で強化されれば、近年減少中の研究者や論文数に歯止めをかけ、長期的にノーベル賞の受賞が可能な研究者を増やしていくことができるかもしれませんね。

まとめ

これまで、日本のノーベル賞の現状を見てきましたが、課題が山積みであることが明らかになりました。現状に満足せず、近い将来を考え、積極的に研究者や学者をサポートしていく体制の構築が求められています。また、ノーベル賞は研究だけではなく、平和賞や文学賞もあるため、より国際的な慈善活動や、本の翻訳を進めることも検討していくべきでしょう。

参考

文部科学省「我が国の研究力の現状と課題」2023年11月8日 閲覧
産業技術環境局「今後の研究開発プロジェクトのあり方について」2020年11月
内閣府 「ノーベル賞受賞者数(自然科学系)」2023年11月8日 閲覧
讀賣新聞オンライン「日本人女性がノーベル賞を取る「秘策」はあるか」2017年9月30日
東洋経済オンライン「日本人のノーベル賞が「急減する」絶対的理由」2019年10月10日
NHK「サイカル」2017年9月18日
ビジネス+IT「ノーベル賞 大隅良典教授が警鐘を鳴らす、日本の基礎科学の「深刻な状況」」2017年11月16日
文部科学省「ノーベル賞ってなに?」2023年11月8日 閲覧
NHK「「国際卓越研究大学」認定候補に東北大学が選定 文科省」2023年9月1日
速読情報館「ノーベル文学賞はどんな人が選ばれている?日本人の受賞者はだれ?」2022年12月16日
文部科学省「国際卓越研究大学制度について」2023年11月18日 閲覧

ライターのコメント

記事を書く中で、世界的に見て日本のノーベル賞獲得に対する取り組みは、大きく遅れをとっていることに気づきました。短期間で成果が出る研究に注力するのではなく、平和賞や文学賞、及び未だ受賞ができていない経済学にも比重を置いて支援をしていくことも必要だと思います。経済学の授業は海外では高校からあるため、今日の地球規模での根源的な経済現象に対し、独自の分析を理論的に提示ができる経済学者が日本に少ないと言われていることも納得がいきました。私たちライターの世代でノーベル賞の受賞が途切れてしまうことのないよう、私も探究心を持って目の前のタスクに取り組んでいくことが重要だと考えています。