なぜ宇宙開発に取り組むの?どんなメリット?問題点は?

2023年11月13日・技術 ・by おもち

旧ソ連の宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリンが人類で初めて宇宙に飛んでから60年以上経った今。ロケットが打ち上げられたり、天体に着陸したり。はたまた、宇宙軍が創設されたり、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が「先端宇宙基地」で会談したり。宇宙関連のニュースが毎日のように報道されていますよね。

なぜこんなにも宇宙開発が盛り上がっているのでしょうか?宇宙は私たちにどんなメリットをもたらしてくれるのでしょうか?どんな問題を抱えているのでしょうか? この記事を通して、一緒に詳しく考えていきましょう。

宇宙開発って?

まず、現在、どのような宇宙開発が行われているのか整理してみましょう。 大きく「宇宙に進出する」領域、「宇宙を活用する」領域、「宇宙活動を支える」領域に分けることができます。

宇宙に進出

宇宙開発と聞いて真っ先に思い浮かべるのがこの領域ではないでしょうか?

これまでさまざまな場所への進出の試みが行われてきましたが、特に人気な天体は、やはり月や火星でしょう。実際、月面には5ヵ国が、火星には3ヵ国が着陸に成功しています。これほど盛んに研究されている理由はなぜなのでしょうか?理由の1つは、火星や月が、移住先、または移住のための中継地としての価値を持っているということです。「宇宙への移住」はSFのようにも思えますが、UAEが2117年までに火星移住を目指すプロジェクト「MARS2117」に取り組んでいたり、民間宇宙開発企業 スペースXも火星移住を掲げていたりと、実現に向けた活動が進んでいます。火星までの中継地となるであろう月面も、アメリカなどが取り組んでいる「アルテミス計画」で更なる探査が行われる予定であり、私たちが生きている間にも、火星移住は実現するかも知れません。 さらに、月面にレアメタルが存在していることも分かってきており、「宇宙資源」の観点からも多くの注目を集めるでしょう。

とは言うものの、宇宙には私たちがまだ知らない謎が多く存在します。 例えば、宇宙や天体がどのようにできたのかという謎はまだ解明されていません。この謎に迫るために、地球に似た特性を持つ天体や、惑星に成長する前の姿を留めていると考えられている小惑星の探索も行われています。

また、現在把握できている宇宙の領域はごくわずかであり、そのさらに奥にはまだ知らない・観測できていない宇宙が広がっていると考えられています。こういった深層宇宙を知るために、望遠鏡を宇宙に運んで観測する手法もとられています。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、地球から150万キロ離れたところを周回し、宇宙の様子を私たちに見せてくれています。

その他にも、人類の宇宙進出には、宇宙環境やそれらが人体に与える影響を知る必要があります。国際宇宙ステーション(ISS)では、実際の宇宙環境で様々な実験が行われており、今後人類がさらに宇宙に進出した際の健康上の被害低減が実現できるかもしれません。ただし、ISSにも運用期限が迫りつつあるため、次期・ポストISSを国際的連携をとりつつ検討していく必要がありそうです。

宇宙の活用

私たちの生活に最も密接なのが、この分野です。

インターネット通信や、テレビの衛星通信を始めとする通信や、GPSや準天頂衛星システム等の位置情報サービス、衛星から雲の様子や土地の様子を測定し降水レーダや防災などに役立てるリモートセンシングなど生活に欠かせないサービスが、宇宙空間に打ち上げられた衛星などを用いて提供されています。
通信などでは、地上の通信基地局ももちろん使われていますが、衛星と組み合わせることで過疎地域や船舶等の移動体に対しても、また基地が被災した場合にもサービスを提供することができます

この領域で近年注目されている手法は、多数の小型人工衛星を低軌道に打ち上げて一体化させて運用する「衛星コンステレーション」です。例えば、スペースXは、小型の通信衛星による衛星コンステレーション、スターリンクを手がけています。この通信衛星は低軌道を自在に移動できるため、従来の静止衛星による通信よりも遅延が少なく、カバーできる地域が広いことが特徴です。

宇宙活動を支える

前述のように、天体に出かけたり、衛星を軌道上に飛ばしたりするためには、宇宙輸送のプロセスが必要ですよね。 国主導のロケット開発に加え、アメリカではNASAの商業宇宙施策の下でスペースXが想定以上の速さでロケット開発、事業化を推進しています。日本でも、複数の⺠間企業が宇宙輸送事業を立ち上げ、推進しています。官民両方が取り組んでいること、軍事と商業目的の両方があることが特徴です。 近年の宇宙輸送の開発の焦点としては、低価格化が挙げられます。ロケットの一部の再使用や、量産化によって製作費や開発費を抑え、従来の打ち上げ価格100億円に比べて70億円とかなり低コストなロケットもでてきました。

また、打ち上げられた衛星に対して、軌道上で行うサービスも現実のものとなってきています。軌道上での燃料の供給や修理、新しいハードウェアの取り付け、不要な衛星の排除などといったサービスがあります。軌道上サービスによって、衛星の寿命を伸ばしたりその時々に必要とされる使い方をしたり、宇宙空間を安全に保つことができます。

宇宙開発の問題と展望

私たちの生活を支えてくれている宇宙開発ですが、問題点も抱えています。

問題1. スペースデブリ

1つ目として、人間が宇宙空間で生んでしまったゴミの総称である「スペースデブリ」問題を取り上げます。運用を終えたり故障したりした人工衛星や、打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出した部品、爆発や衝突により発生した破片等がスペースデブリに当たります。

スペースデブリは、現役の衛星やロケットなどの邪魔をするだけでなく、衝突することで致命的な重症を負わせる危険性があります。小さなデブリであっても高速で軌道を周回しているため大きなエネルギーを持っており、衝突した場合の威力が相当なものとなるのです。1cmのデブリとの衝突で有人宇宙機の防御シールドの貫通、10cmのデブリとの衝突で機体の完全破壊が起こると推定されているほどです。

デブリの数は年々増加しており、現在地上から追跡されている10cm以上の物体で約2万個、1cm以上は50~70万個を超えるとされています。衛星コンステレーション等での大量の衛星の打ち上げや、衛星を意図的に破壊する「ASAT(anti-satellite test)実験」によって増加しています。 これ以上デブリを増やさないために、国連のガイドラインにおいて、運用が終了した宇宙機は、利用頻度の低い軌道に移動させたり、大気圏に落下させたりすることで軌道から離脱させることが求められています。また、既存のデブリに対しては、ロボットアームを備えた小型衛星捕獲用のネットや 銛状の装置を用いてデブリを捕獲する手法が実証、一部実用化されています。

問題2. 宇宙安全保障

宇宙システムは日常生活だけでなく、軍事作戦をも支えています。例えば、衛星を用いて偵察や地図作成、ミサイル発射の追尾などを行うことができます。そのため、敵対している国や団体から、宇宙システムそのものを標的とした攻撃を受けるリスクがあります。

宇宙システムへの攻撃には、物理的に衛星を破壊する攻撃とサイバー攻撃・電子攻撃によって衛星機能を停止させるものがあります。 地上から衛星に向けてミサイルを発射し、意図的に衛星を破壊する実験(ASAT)は、既にアメリカ、旧ソ連・ロシア、中国、インドによって実施されたことがあります。また、小型人工衛星を自国の人工衛星に接近させる実験を行い、敵人工衛星に対する攻撃、妨害、偵察等を行う能力の開発を目指していると言われている国もあります。

また、電子攻撃ではGPS妨害や、なりすまして人工衛星から偽の信号を発するといったことが行われました。

宇宙空間で安定的に活動してこういった宇宙空間での脅威を防いでいく必要があります。

国際ルール形成

そんな中、アメリカの国家宇宙会議の議長を務めるカマラ・ハリス副大統領は2022年4月、今後は衛星攻撃兵器(ASAT)の実験を実施しないことを発表しました。スペースデブリを大量に生じさせてしまったり、軍事的な脅威となることを認識した上での行動だと考えられています。

ところで、こういった活動を規定する国際ルールにはどのようなものがあるのでしょうか。 重要な条約の1つは、「宇宙の憲法」と称されている「宇宙条約」(1966年)です。国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)が作成し、国連総会で採択されたもので、宇宙活動の自由、宇宙空間の領有禁止、宇宙の平和利用などが盛り込まれています。 しかし、採択から50年以上が経過し、少しずつずれやカバーしきれない事柄がでてきています。その1つが、採択当時にはなかったデブリ問題で、現在は国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)で採択された「IADC スペースデブリ低減 ガイドライン」(2002年)や、COPUOS で採択された「国連スペースデブリ低減ガイドライン」(2007年)などに則ることが通例となっています。 ただし、これらのガイドラインは法的拘束力は持っていないソフトローです。そう、宇宙開発に関しては、全会一致の可決が必要な「条約」だけでなく、合意が現実的で法的拘束力を持たない「ソフトロー」が国際的なルールとしての役割を果たしています。ソフトローで国際合意を形成し、各国の国内法令で同様の基準を設けることで法的拘束力を持たせる。その上で、ソフトローを国際習慣化させる。このような方法でルールが醸成されているのです。

今後も、各国で信頼関係を築いて安心・安定的な宇宙利用を行うために、その時代に応じた議論や合意を行う必要があります。

参考

内閣府「宇宙基本計画」2013年6月13日
毎日新聞「はやぶさ2の成果は リュウグウ試料が迫る太陽系や生命の起源」2023年4月19日
BBC NEWS JAPAN「インドの無人探査機が月の南極に着陸 世界初」2023年8月24日
読売新聞「中国の無人探査機、火星着陸に「成功」…米国と競争激化か」2021年5月15日
MBRSC「MARS 2117」2023年10月23日閲覧
Science Portal「宇宙のかなたの精細な姿、人類に 「ジェームズウェッブ」初画像の数々」2022年7月19日
宙畑「SpaceXが世界中にインターネットを届けるStarlink(スターリンク)とは!?通信速度や市場規模まで徹底解説」2021年4月16日
CNN.co.jp「有人月面着陸に最大3兆3千億円必要 NASAが試算」2019年6月15日
防衛省・自衛隊「令和2年版 防衛白書」2023年10月16日閲覧
JAXA「宇宙ごみ(スペースデブリ)って何?」2023年10月30日閲覧
日本経済新聞「米、宇宙ごみに初の罰金 人工衛星を適切に離脱せず」2023年10月5日
三菱総合研究所「外交・安全保障 第7回:宇宙資源ビジネスにおける国際ルール形成「ソフトロー」で月資源開発に備える」2023年4月17日
WIRED「「宇宙の安全保障」に関するルールで合意できるか:国連で始まった議論の行く先」2022年5月13日
国立国会図書館調査及び立法考査局「宇宙政策の動向 : 科学技術に関する調査プロジェクト2016報告書より 3 宇宙と安全保障」2017年3月
国立国会図書館 調査及び立法考査局「第 7 章 スペースデブリに対処するための技術とルール ―宇宙空間の持続可能な利用のために―」2023年3月27日
宇宙開発戦略本部「宇宙安全保障構想」2013年6月13日

ライターのコメント

宇宙開発って色々な話を聞くけど、その目的はどんな風に分類できるんだろう?そんな疑問から本記事を書き始めましたが、調べていくうちに日常生活のうち宇宙に依存している部分の大きさを改めて感じ、驚きました。現時点でもかなり重要な宇宙ですが、急成長している分野だけに、今後10年後、50年後、100年後、どのような活用のされ方がするのかとっても楽しみです。みんなで共生し、みんなの利益となることを期待します。