移民とはーもたらす影響は?問題は?各国の政策は?

2023年10月30日・国際 ・by ろーど

移民・難民と聞いて皆さんはどのようなイメージを思い浮かべますか?日本は陸続きに隣接している国がない島国なので、移民・難民の流入が身近ではないかもしれません。しかし、世界規模で見てみると移民・難民の大規模な移動が起こっています。
ところで、このような移民・難民によってもたらされる影響にはどのようなものがあるのでしょうか?また、この影響に対して各国はどのような政策を実施しているのでしょうか?詳しく見ていきたいと思います。

移民とは?

そもそも移民とはどのような人たちを指す言葉なのでしょうか。明確に定められた定義はありませんが、移民とは、国内か国外か、また短期間か長期間かに関わらず、さまざまな理由により、本来の居住地を離れて移動する人々を指す総称となっています。理由については、海外赴任や留学、国際結婚、出稼ぎ、自然災害からの避難など多岐に渡ります。

難民との違いは?

難民については、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの国際機関や条約によって明確に定められており、迫害のおそれ、紛争、暴力のまん延などによって国際的な保護が必要とされる状況を理由に、出身国を逃れた人々を指します。移動の理由が定められているという点で移民と違うと言えそうですが、この難民も含んでまとめて移民と呼ぶケースも見られます。

どれくらいの数?

冒頭で「移民の大規模な移動が起こっている」と述べましたが、果たして世界でどれくらいの移民がいるのでしょうか。移民の正確な数がどれほどかを断定することはできませんが、国連経済社会局(UNDESA)の統計によると、2020年時点でおよそ2.8億人の国際移民がいると推定されています(難民も含む)。

ただし、上記の数字はあくまで国境を超えた移民の数に過ぎず、紛争等があっても国外へ逃れられない国内避難民など、国内における移民の数も含めるともっと大きな数字になります。

移民がもたらす影響

では、移民のこうした動きによってどのような影響が生じるのでしょうか?国から国へ移動する移民について考えてみます。

労働状況

もたらされる影響として第一に思いつくのが仕事・労働関連だった人も多いのではないでしょうか。

まず移民が自国に入ってくることで労働力の確保が可能になるでしょう。国によって状態は異なるかもしれませんが、少子高齢化などによって労働人口が減少し、特定の産業が深刻な人手不足に陥っているケースは少なくありません。移民の存在が人手不足の解消につながるというわけです。

また、一企業スケールだと海外進出や新たな市場を開拓できるという点もあるようです。移民(外国人)ならではの能力、すなわち、仕事で必要な外国語を使える点をはじめとして、外国に人脈・ネットワークがある点、外国の商習慣や取引慣行に詳しい点などを期待して採用している企業も多いようです。このように、移民は国際的な仕事にも影響をもたらしていると言えるでしょう。

社会保障

他国からやってきた移民がそのまま定住化した場合、その国の社会保障にも影響を及ぼすとも考えられています。

移民が定住して家族を呼び寄せたり、出産したりすることで税金や年金の保険料を負担してくれる存在が生まれ、社会保障の担い手が増えることにつながります。つまり、移民の存在が高齢化を緩和し、年金の負担を軽減するということです。

逆に、移民は入国手続き等のコストがかかったり、公的援助を必要としたりするために国民の税負担を増加させる要因になるのではないかという議論もあります。移民向けの政策にかかる費用が、移民の納める税・社会保険料を上回ってしまうということです。

プラスマイナス両方の可能性が考えられますが、以上のような議論は、国の現行の制度に基づいてシミュレーションが行われています。したがって、この先の情勢や制度の変化によって、影響も変わりうるということです。

治安の悪化?

移民が入ってくることで、その国の治安が悪化するという言説もあります。
確かに、国によっては隣接している国からの移民の流入が激しく、不法越境や国境付近での犯罪が頻発しているケースもあるようです。また、日本においても外国籍の人による犯罪のニュースをたまに見かけるでしょう。このような事例を踏まえると、移民などの外国人のせいで治安が悪化してしまうと思う人もいるかもしれません。

しかし、必ずしも移民だから治安を悪化させやすい・犯罪を起こしやすいとは限りません。移民そのものというより、むしろ移民を劣悪な経済的環境に置いている社会状況が犯罪率の差を生み出しているのではないかという指摘もあります。

にもかかわらず、このような言説が少なからず見られるのは、移民などの外国人が犯罪を起こしたときに、ニュースなどの報道で目立ってしまうのが要因だと考えられます。一部の移民らによる犯罪の事例があって、ニュースを見ることを通じて移民と犯罪を結びつけて考えてしまうということです。

実際、一部の移民らの犯罪行為や難民に扮して行われたテロ行為が起こってしまったことで、移民排斥運動にまで発展し、国の政策にまで影響が及んだ事例もありました。

各国の移民政策

ここまで、移民がもたらす影響について見てきました。上記のような影響を及ぼしうる移民に対して各国はどのような政策をとっているのでしょうか。いくつかの事例を見てみましょう。

アメリカ

アメリカでは、2023年10月にメキシコとの国境にある国境の壁の建設を再開したとバイデン大統領が発表して議論を呼んでいます。

もともとこの国境の壁は、トランプ前大統領が移民による不法越境を防ぐために建て始めたものでした。そこから壁の建設が進められましたが、トランプ氏に代わって大統領になったバイデン氏が、壁の建設が問題の解決策にはならないとして就任直後に壁の建設を中止していました。

にもかかわらず、今回バイデン氏は自らやめさせた壁の建設を再び行わせているのです。バイデン氏自身は、壁の建設が不法越境の阻止に効果があるとは思っていないと依然として表明していますが、実際は、不法入国問題への対応策なのではないかという指摘があります。

バイデン氏が大統領に就任して、壁の建設をやめるなど移民に寛容な政策に転換したことでアメリカに入りやすくなったという期待が広がりました。加えて、コロナ禍で一時的に設けられた移民の入国制限も2023年になって解除されました。その結果、アメリカに流入する移民の数が急増し、この状況に対応するためにバイデン氏が壁の建設を再開させたと考えられます。実際、ここ数年連続で不法越境移民の取り締まり数が最多になっています。また、これに伴い、違法麻薬が流入しやすくなっているなど治安が悪化する懸念もあるようです。

今回の壁の建設再開を受けて、メキシコなどの中南米の国々は批判しています。移民流入を阻止するような政策ではなく、移民の目的地の国に対して正規入国できるルートの拡大を求めており、バイデン政権への不満をにじませています。しかし、アメリカでは来年2024年に大統領選挙が控えています。アメリカ国民の不法移民などへの不満は根強く、バイデン氏にとって、移民へ寛容な政策をとることは難しいだろうという見方もあるようです。

ヨーロッパ

EUブルーカード

ヨーロッパでは、移民の受け入れの政策の一つにEUブルーカードというものがあります。
EUブルーカードとは、EUに居住し就労する権利をEU圏以外の市民に与えるという制度のことで、2009年に導入されたものです。ただし、その権利が認められるのは通常の労働者ではなく、専門家や経験豊富な労働者のみとなっています。

これとは別に、通常の労働者向けの就労ビザ(労働許可証)もあるので、専門性のある人材だけがEU域内に移住できるというわけではもちろんありません。ただ、このブルーカードの制度の導入によって、専門性のある熟練した人材を確保し、EU域外に流出してしまった人材の穴埋めをする狙いがあります。

導入当初は、この制度の適用基準がとても厳しかったようですが、制度の改定に伴い基準が緩和され、専門家が不足している分野を中心に運用されています。

移民抑制の動き

以上のような移民受け入れ政策がある一方で、近年ヨーロッパに渡る移民・難民の数が急増しており、ヨーロッパ各国で政治問題となっています。

特に最近では、アフリカから地中海を渡ってイタリアの島などに不正に入ってくる移民が後を絶たず、2023年1〜8月に不正にEU域内に入った人数23万2350人のうち、およそ半数にせまる11万4625人がこのルートを経て越境しているようです。

イタリアでは、既に定員の収容を大幅に上回る数の移民を受け入れており、イタリアは各国に移民の受け入れを要請しているものの、フランスの内相がその要請を拒否しました。また、10月に開かれたEU首脳会議で移民に関する共同宣言の取りまとめが議論されましたが、ポーランドとハンガリーの首相が反対するなど、EU内で足並みが揃わない状況が続いています。

日本

技能実習制度

日本でも外国人の受け入れが行われており、その受け入れの形式の一つに技能実習制度があります。技能実習制度とは、外国人の人材育成を通して日本の技術や知識を発展途上国にもたらし、国際貢献することを目的にした制度のことです。

この制度が1993年に創設されてから、技能実習生の数は年々増加しており、2022年末時点で全国におよそ32万人いるようです。

特定技能制度

また、労働力不足対策の一つとして特定技能制度の改定が行われました。
特定技能制度とは、国内にて人材不足の状況にある産業分野において、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることで人材確保を目的とする制度のことです。

元々この制度は2019年から施行されていましたが、人手不足の深刻化に伴い、2023年8月に制度が一部変更されました。変更前は、ごく一部の産業分野でしか、長期在留および(要件を満たせば)家族の帯同が認められている資格(特定技能2号)は適用されていませんでしたが、この改定によって特定技能制度上で設定されているすべての産業分野で資格が適用されるようになりました。

改定前の2023年6月末時点では、特定技能2号の外国人は十数人程度しかいませんでしたが、今回の改定によって、より多くの熟練した外国人材がより長く日本で働けるようになって、人手不足解消にもつながると期待されています。

以上のように、日本政府は外国人の受け入れを拡大し労働力の確保を図っていますが、その一方で外国人実習生の人権侵害が問題となっています。賃金未払いやパワハラといった過酷な労働を強いている環境も少なくありません。こうした現状に対し、外国人実習生の管理・支援体制の強化など、制度の改革・移行が求められています。

最後に

今回の記事では、移民・難民がもたらす影響から、その影響に関連した各国の政策について見てきました。アメリカとヨーロッパの政策の項目でも挙げましたが、最近では急増する移民の不法越境へ対応している事例が多いようです。移民の入国を厳しく制限・審査することは、国内の混乱を防ぐことにつながるなど、短期的・限定的には効果はあるかもしれません。しかし、どの国もこのような対応をしてしまうと移民・難民の行き先がなくなってしまい、彼らの居場所の確保という点において根本的な問題の解決には至りません。

移民の急増によって生じている問題が注目されることで、移民排斥の動きも出ている国もあります。しかし、「移民がもたらす影響」の項目のところで述べたように、労働状況や社会保障の点で恩恵を受けられるような制度を整備することができたら、流入国にとっても移民・難民にとってもプラスになるでしょう。短期的に、また一国でこの問題に対処するにはもちろん限界があります。だからこそ、各国が協力して長期的な姿勢で問題解決に取り組むことが求められます。

参考
IOM「移住(人の移動)について」2023年10月27日閲覧
国連広報センター「難民と移民の定義」2016年12月13日
IOM「World Migration Report 2022」2021年12月1日
OECD「国際協力を改善することで移民の便益が世界全体により多くもたらされる」2023年10月27日閲覧
竹内英二「中小企業における外国人労働者の役割」2017年
東京大学「データであぶり出す移民と日本社会の関係」2021年6月16日
難民支援協会「難民にまつわる12のよくある質問」2023年4月12日
石井太・小島克久・是川夕「外国人受入れ拡大による社会保障財政影響シミュレーションに関する基礎的研究」2021年3月
日本経済新聞「米国「国境の壁建設再開 バイデン大統領、公約を撤回」2023年10月6日
日本経済新聞「中南米首脳、移民政策で対米結束 「一方的政策撤廃を」」2023年10月23日
日本経済新聞「米不法移民、3年連続最多」2023年10月23日
ETIAS「EUブルーカードとは何ですか?」2022年10月24日
NHK「イタリア南部に難民急増 受け入れ要請で欧州分断の懸念も」2023年9月21日
ロイター「EU首脳、第三国依存低減などで合意 移民問題では見解不一致」2023年10月7日
法務省「外国人技能実習制度について」2023年7月24日
JITCO「在留資格「特定技能」とは」2023年10月27日閲覧
日本経済新聞「熟練外国人の長期就労、6月にも全分野で 関係省庁調整」2023年4月24日
出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」2023年10月27日閲覧
NHK「外国人技能実習制度(1) 問題点と必要な見直し」2023年8月30日