エネルギーミックスとは?日本の現状と理想の電力構成を分かりやすく解説

2023年10月14日・環境 ・by まなか

「エネルギーミックス」

エネルギーミックスとは?

近年日本では、原油価格の急上昇や、電力の供給不足によって引き起こされるブラックアウト等の電力問題が多く、エネルギーミックスの重要性が話題に上がっています。

それでは、エネルギーミックスとはなんでしょうか。恐らくニュースで1度は聞いたことがあるかもしれませんが、定義を明確にしておきましょう。エネルギーミックスとはつまり、一つのエネルギー源に依存することなく、様々な発電方法を組み合わせて社会に電気を供給するということを指します。エネルギー自給率が8%前後と非常に低く、電力の安定供給に課題がある日本は、海外から石油や石炭等の電力源の輸入に頼らずにはいられない現状があります。そのため、国内で電力を賄うためにも、エネルギーミックスは一般的に最適な発電方法とみなされています。

エネルギー資源の代替案のメリット、デメリット

ここでは、現在日本で主流となっているエネルギー資源の代替案となる太陽光、ガス、原子力について発電方法のメリット・デメリットを紹介していきます。全てのエネルギー資源の欠点をうまくカバーしつつ、エネルギーミックスを推進していくことが日本政府には求められますね。

太陽光

太陽光発電は直射日光を電力に変換する発電方法で、太陽光パネルまたは太陽電池パネルを使用して光エネルギーを吸収します。パネルには光を電子に変える半導体が組み込まれており、この過程で電流が生成されます。

メリット

石炭や石油のように、貯蓄量に限界のあるエネルギー源を使うことがないため、施設や設備が老朽化しない限りエネルギーを作り続けることができます。加えて、日本の気候ではほぼ全ての場所で発電が可能なため、自然災害などで停電が発生した場合でも、太陽光発電の自立運転機能で電力を安定的に供給することができることで知られています。

デメリット

屋根の方角や角度、天候や季節の変化に伴う日照量の変化に影響を受けてしまうことが多い発電方法です。特に、大規模産業用の太陽光パネルの設置には、1つあたり約5,000万円かかることも導入の遅れに影響を与えています。また、メンテナンスは法律で義務化されており、他の発電方法と比べてランニングコストがかさむことが懸念点です。

液化天然ガス(LNG)

LNGはメタンを主成分とする無色透明の可燃性ガスで、主に東南アジアのガス田や油田地帯が生産地です。日本ではガスや火力発電における燃料として用いられています。

メリット

液化したLNGガスは近年低コストでガスを採掘する技術が確立されたことで石油、風力、太陽光よりも安価で生産が可能になりました。また、パイプラインではなくタンカーでの輸送も可能なため、運送費を抑えることができ、CO2排出量の点でも、石炭や石油と比較すれば、環境にやさしいクリーンエネルギーとして知られています。

デメリット

石炭やLNGの過剰採掘は地震を引き起こすリスクが懸念されています。LNGを採掘する際に使われる水圧破裂法は、天然ガスが存在している地層に圧力をかけ、人口的に割れ目を作るため地下水量が膨れ上がります。その結果、断層面が滑りやすくなり、地震が発生する可能性が指摘されています。

原子力

原子力発電は、核分裂反応により発生する熱エネルギーを利用して電力を生成する方法で、安価で生産が可能なクリーンエネルギーとして注目されています。

メリット

原子力発電は、大気汚染や酸性雨の原因となる硫黄酸化物や窒素酸化物は一切排出しないため、地球にやさしいクリーンエネルギーです。更に、他の発電方法と比べて自然環境や燃料費の変動に左右されず、発電に必要な物質も少ないため供給が安定しています。

デメリット

一度事故が起こってしまうと人間の力で発電所を制御することができないため、人類を生命の危機に晒す大量の放射線が放たれる危険性が高いことが挙げられます。設置と解体にはたくさんのコストがかかり、建設には広大な敷地が必要となるほか、解体にかかる年数も長くなるとされています。それでは、過去に原子力発電所で起きた事故を2つ見ていきましょう。

事故① チェルノブイリ原子力発電所事故

事故は1986年4月26日、旧ソ連のウクライナ共和国のチェルノブイリ原発4号炉で、出力が急上昇したことによって発生しました。事故の原因は原子炉の安全設計上の問題、運転員の規則違反、運転管理上の問題の3つが複合的に重なったことだと考えられています。

事故② 東京電力福島第一原発事故

記憶に新しい、福島の原子力発電所における事故は、2011年3月11日に発生しました。東日本大震災により発生した津波は、福島第一原発が想定していた最高水位よりも高く、原子炉を冷やす主電源を失ったことで、計3機が水素爆発を起こしました。

日本政府の電力構成の現状・目標は?

日本の電力源の現状

2度にわたるオイルショックの経験から、日本は石油依存からの脱出を試みるため、石炭を始めとしたエネルギー開発を行ってきました。エネルギーミックスに取り組んだ結果、石油への依存が軽減されたものの、東日本大震災を契機に、火力発電への依存度は再び高まり、日本は今では8割の電力を化石燃料から生成しています。そして、その化石燃料の多くは国際情勢による影響を受けやすいアメリカや中東から輸入しており、日本の電力は輸入価格の変動に左右されやすいままなのが現状です。

エネルギー基本計画

このような状況を脱却するために日本政府が2021年10月に閣議決定した政策が「第6次エネルギー基本計画」です。2030年度には下図のような電力構成の実現を目指し、政府電源構成の最適な状態として、エネルギーミックスを示しています。

また、現在3E+Sと呼ばれる安全性(Safety)、エネルギーの安定供給(Energy Security)、経済効率性の向上(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)の4つを軸として複数のエネルギー源をバランスよく生産することが日本の課題となっています。

世界の電力構成

このように、現在日本は様々なエネルギーを組み合わせて電源を構成しようとしています。エネルギーミックスの実現へ向けて、日本と大きく異なる世界の電力構成も見ていきましょう。

韓国

韓国は火力と原子力を中心に電力を生産しており、エネルギー供給量の約8割を輸入に依存している国です。2015年に産業通商資源部(MOTIE)が発表した「第7次・長期電力需給計画2015~2029」によると、計画の一環として拡大の一途をたどる需要に対応するため、政府は電源の設備容量を1億6,387万kWにまで増強することや再生可能エネルギーの積極的な開発に力を入れています。

また、原子力発電の割合が国の総発電の30%を占める韓国は日本の約2%の原子力利用比率を踏まえても、世界有数の原子力発電を推進している国と言えます。発電単価が比較的低い原子力を多く用いることで、韓国の電気料金は比較的安く設定されており、今も原子力発電の開発が盛んに行われています。

アラブ首長国連邦

アラブ首長国連邦発電は電力構成のほぼ100%が石油・天然ガスによって構成されています。電力自給率が100%を超えている世界有数の電力輸出国ですが、エネルギーミックスとは程遠い電力構成のため、政府は近年、広大な砂漠等を生かした太陽光発電や原子力など新しいエネルギー生産プロジェクトをいくつも打ち出してきました。

高まる電力の需要に対応するために、政府はエネルギー安全保障を強化し、エネルギー源を多様化し、電力ミックスにおける太陽光のシェアを増やし、4兆円をクリーンエネルギープログラムに長期的に投資することで従来の石油依存からの脱却を図っています。そのため、アラブ首長国連邦は現在クリーンエネルギーの先駆者であり、「UAEエネルギー戦略2050」では、エネルギーミックスのためにエネルギーコストを削減することを目標としています。

参考

社会実情データ図録「原油価格の動向」 2023年7月23日
三井住友DSアセットマネジメント「原油価格は新型コロナ前の水準を回復 2021年2月18日
今中哲二「チェルノブイリ原発事故」2023年10月1日閲覧
ファイナンシャルスター「WTI原油スポット価格 長期推移」 2023年9月4日
東京電力ホールディングス 「福島第一原子力発電所事故の経過と教訓」2023年10月1日閲覧
パブリット 「原子力発電のメリット・デメリット」 2023年10月1日閲覧
東北電力 「なぜ原子力発電を使うのか? 」2023年10月1日閲覧
United Nation「Ensure access to affordable, reliable, sustainable and modern energy」2023年10月1日閲覧
関西電力「日本のエネルギー事情」2023年10月1日閲覧
Mordorintelligence「アラブ首長国連邦の電力事情」2023年10月1日閲覧
グリラボ「図解 太陽光発電の仕組みとは」 2022年7月13日
アスエネメディア「火力発電の主力燃料LNGとは?メリットやデメリット、今後の課題など」2022年6月15日
SDGs Compass「エネルギーミックスとは?「S+3E」と日本の問題を解説」 2023年9月16日
日本原子力文化財団「原子力総合パンフレット」 2023年1月

ライターのコメント

記事全体を通して、世界の電力政策や様々な発電手段を見てきましたが、2050年のカーボンニュートラルの達成へ向けて私たちの前にはエネルギーミックスを実現するための課題がまだまだ山積みです。日本は東日本大震災が発生した直後から外国からの電力や、主に国内の火力発電にエネルギー生産を頼ってきたという事実があります。しかし、震災から10年以上たった今、私はメリットやデメリットを把握し安全面に気をつけながら原子力、ガス、太陽光といったクリーンエネルギーを取り込んだ電力構成に変えていく必要があると思います。例えば、大きな土地がいらない太陽光発電であれば太陽光パネルを屋根に取り付けることで一般家庭の人でも簡単に行うことができます。自分達、自国内でエネルギーをより産出できるようになれば、電気代やガソリン価格も今日のように世界情勢に影響されずにすむはずです。他の国の電力構成や政策を参考にしながら、日本に最も適した方法でこれから先エネルギーミックスをしていけたらいいですね。