生成AIのメリットデメリットは?今後の向き合い方は?

2023年10月02日・技術 ・by リコ

2022年に突然注目が集まり、一世を風靡した生成AI。特に、ChatGPTは爆発的なブームを巻き起こし、リリースからわずか3ヶ月で1億ユーザーを突破しました。

生成AIが私たちの日常になりつつある今、正しく使っていくために理解を深めることは不可欠です。生成AIは、どのように情報を提供しているのでしょうか?使用する上での明確なメリット・デメリットはなんでしょうか?人間に有益な向き合い方はどのようなものなのでしょうか?

今回は、そもそも生成AIがどんな仕組みなのか紹介し、生成AIの流行が始まってからの事例を見ていきながら、期待と懸念をさまざまな角度から分析していきます。また、生成AIと私たちの未来を考えていきたいと思います。

生成AIとは

ではまず、生成AIとはなんでしょうか?

その名の通り、コンテンツを生成できるAIのことです。今までのAIは、学習したデータの範囲内で予測した結果を出していました。つまり、課題を入力すると、すでに存在しているコンテンツの中から適切な情報を探して出力します。しかし生成AIはデータ自体ではなく、データのパターンや関係を学習することによって、新しいものを作ることができます。つまり、課題を入力すると、すでに存在しているコンテンツから学んだ上で、オリジナルコンテンツを出力します。生成できるコンテンツは、テキスト、画像、音声、動画など、多岐に渡ります。

それでは、これら生成AIの普及による期待と懸念を、経済・政治・教育の3分野からそれぞれ見ていきましょう。

経済と生成AI

期待できること

生成AIは流行してからこの短期間ですでに、経済活性化に多くの貢献をもたらしています。

第一に、既存の企業が生成AIを導入することで、コスト削減や品質・サービスの向上など、様々な効率化を成功させています。

例えばJR西日本お客様センターでは、オペレーターが電話でのお問い合わせに対応しながら、その内容を要約・記録していました。この記録に言語生成AIを利用し始めて、電話対応時間を最大54%削減できたと報告しています。 このように、企業は生成AIを導入することによって、今まで以上に効率が良く、顧客に寄り添ったサービスを提供しています。

第二に、生成AI産業自体の急成長も始まっています。既存の生成AIが企業で活用されるだけでなく、生成AIの開発に参入する企業が増えています。

例えばGoogleはBardというテキスト生成AIを開発し、現在試験運用しています。最新の情報に対応したり、Gmailとの連携機能を搭載させたりすることで、ChatGPTとの差別化を図っています。Amazonも生成AI市場への参入を発表しており、競争が激化してきていることがわかります。

懸念されること

生成AIの普及における経済への懸念は、人間が職を奪われる可能性です。

まず、一番直接的な影響を受けるのは、クリエイターの仕事です。画像生成AIが求められた通りのイラストやデザインを生成し生産を効率化する一方で、イラストレーターや画家などの、クリエイターの需要を脅かしています。

例えば中国では、大手ゲームメーカーにイラストを提供しているデザイン事務所で、2023年に入ってキャラクターデザイン担当の15人中5人が解雇されたケースがあります。

芸能界への影響も出始めています。例えば電子書籍リーダーKindleでは2023年に生成AIによって作成された写真集が、タレント写真集ランキング1位を飾りました。さらに、アメリカのハリウッドでは映画俳優組合がストライキを起こし、AIの進歩に対する俳優の仕事の保護が不十分だと主張しています。

また、画像生成だけでなく、マーケティング、経理、翻訳などの職種も、テキスト生成AIに取って代わられることが懸念されています。

一方で、生成AIの応用によってこれまでにない新しい雇用を生み出すと予想している専門家もおり、奪われる職よりも生み出される職の方が多い可能性も見込まれています。

社会と生成AI

期待できること

企業でのメリットと同様に、行政でも様々な業務を効率化することができます。実際に横須賀市は、2023年4月から1ヶ月以上ChatGPTを試験導入しました。利用した職員のアンケートでは、職員のうち71.6%が仕事効率が上がったと回答しています。用途としては文書作成や添削、計算ソフトの関数式設定など、主に書類関係が挙げられました。

このような書類作業が効率化していくことで、自治体では職員が人に寄り添う業務に集中できるというメリットが期待されています。さらに自治会に限らず、政府内で国会答弁の下書きや議事録の作成などに活用するべきだという提案も出ています。

懸念されること

生成AIは、単純な業務の効率化が期待されている一方で、様々なリスクも懸念されています。

まず、生成AIが生み出す情報はあくまで学習データに基づいたものであるため、全ての情報が正しいとは限らず、視点の偏りも見られます。例えばアメリカの研究では、ChatGPTの最新版、GPT-4に左派で自由主義の政治バイアスがあると発表されました。生成AIによって学習されるデータの比重に差があるため、バイアスにも違いがあるそうです。生成AIが政治の判断に使われてしまうと、誤った情報や偏った結果を政治に反映してしまう可能性があります。

また、誰でも簡単に使うことができるため、生成されたコンテンツが悪用される恐れがあります。フェイクニュースやコンピューターウイルス、詐欺やテロの計画などを作成し、プロパガンダや犯罪を助長することが懸念されています。実際に2022年9月には、台風により静岡県が水没しているとする偽画像がネットで拡散され、混乱を招きました。

さらに、生成AIは利用者から得た情報も学習するため、個人情報をインプットしてしまうと、それを別のアウトプットに反映させてしまう可能性があります。個人情報漏洩は行政での利用に限らず、生成AIを利用する全てのケースに当てはまるリスクです。

一方で、これらの問題を解決するための政治的な取り組みも行われています。例えば2023年5月に開かれたG7広島サミットでは、各国がAIの国際ルールづくりに取り組む広島AIプロセスに合意しました。EUは同年6月、AIのリスクを管理するAI規則案を採択しています。具体的には、サブリミナル効果などの許容できないリスクがあるAIシステムを禁止したり、新たなAIシステムの安全性の試験環境を整える支援をしたりするルールを設けています。

教育と生成AI

期待されること

生成AIを使って課題や授業内容を作成することで、グループ全体ではなく個々の生徒に適した学習を提供したり、新たなアイデアを導入したりできます。アメリカでは2023年の調査で、義務教育に携わる教員の約33%がChatGPTを学習アイデア作りに活用していることを明らかにしました。実例としては、ChatGPTで数学のラップを作成して教えている学校や、生徒の国語力に応じて難易度の違うリーディング課題を作成している学校などが挙げられます。

教育者による学習材料の作成に加えて、生成AIと生徒の交流という形で活用することもできます。例えばミシガン大学では、学生が生成AIで議論を作成し、それを分析する課題が与えられました。日本でも、東京の小金井小学校で、国語や道徳の授業で生成AIの答えを提示し、それに対する意見を生徒たちで出し合う取り組みが行われました。生成AIのアウトプットを鵜呑みにせず更なる議論を促進することで、学生の思考力育成が期待されています。

懸念されること

まず第一に、学生が生成AIに依存しすぎるリスクがあります。例えば作文やレポートを生成AIに作成させたり、解けない問題の答えを思考する前に求めたりすることで、生徒自らの学びを妨害することが懸念されています。 さらに、生成AIが誤った情報を提示し、学生が鵜呑みにしてしまうこともリスクの1つです。生成AIと共存するには、生成AIの仕組みを理解すること、情報のファクトチェックを行うことなど、教育の場で生徒に正しい知識や判断力を教える必要があります。

参考

Normal Research Institute「生成AI」2023年10月2日閲覧
Yahoo! JAPAN「米アマゾン、生成AI参入 MSやグーグルに対抗、競争激化」2023年4月13日
Forbes JAPAN「恐れる必要はない AIは奪う以上の「仕事を創出」する」2023年4月10日
産経新聞「横須賀市チャットGPT 利用した職員の8割が仕事効率向上を実感 最新版を本格導入へ」2023年6月5日
NHK「自民 “政治内の業務効率化に「生成AI」活用を” 首相に提言」2023年5月9日
Yahoo! JAPAN「「GPT-4に最も左派の政治バイアス」最も右派の生成AIは?その理由は?」2023年8月14日
東京新聞「生成AIは安全に使えるの? 個人情報流出、著作権侵害など課題も<Q&A>」2023年5月18日
MIT Technology Review「ChatGPT is going to change education, not destroy it」2023年4月6日
TIME「The Creative Ways Teachers Are Using ChatGPT in the Classroom」2023年8月8日
NHK「教育現場で生成AI〜可能性と課題は」2023年7月13日
朝日新聞「教育の現場にも生成AIの波 子どもたちはどう付きあうべき?」2023年7月27日
Harvard Business Review「How to Prepare for a GenAI Future You Can’t Predict」2023年8月31日
ITmedia「生成AIで電話応対を効率化 最大54%の時間削減に成功 ELYZAとJR西日本のコンタクトセンターの事例」2023年9月29日

ライターのコメント

これまで生成AIについて、様々な期待と懸念を見てきました。すでに生成AIが社会に大きな影響をもたらしたように、今後も驚きの変化の数々が待ち受けているはずです。そんな予測できない未来に備える上で重要なのは、生成AIによる個々の影響に対応するのではなく、生成AIがもたらすめまぐるしい変化に柔軟に対応できるような、汎用性の高い知識と処理能力を養っていくことだと思います。例えば経営者向け雑誌のHarvard Business Reviewは、IDEAフレームワークという備え方を提示しています。①Identify(自分の企業と関連性のあるAIの変化の予兆を識別する)、②Determine(企業に対するAIの影響の重要性を決定する)、③Extrapolate(2年後、そして5年後に、そのAIが企業でどう活用されていくか予測する)、④Anticipate(短期的、長期的な問題解決・活用機会を見越す)で構成された枠組みです。経営者に限らず、個人の日常生活においても、①AIの影響を認識して、②重要性を見極め、③未来への見通しを立てて、④活用機会を考える、という大枠は参考にできると思います。人間が生成AIに取って代わられることなく、活用してよりよい未来を目指したいですね。