部活動の地域移行を、現役大学生が考える

2023年08月22日・教育 ・by kota

みなさんは、部活動の地域移行のことを知っていますか?一部の自治体で試験的に始まっているというニュースこそ見かけますが、それほど大きくは取り上げられてはいないようです。しかし、今までみなさんが経験してきたり、ちょうど今頑張っていたりする部活動が大きく変化することになっています。

この記事では、部活動の地域移行について仕組みや問題点を解説する他、この改革によって学生側にはどんな影響がありうるのかも考察していきます。

「部活動の地域移行」とは?

まずは、どんな変更が行われるかを見ていきましょう。

詳細は、2022年12月にスポーツ庁・文化庁が策定した「学校部活動及び地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」に記されています。この中では学校部活動や大会の見直しなどといった部活動全体の改革に触れていますが、最も大きな変更点が部活動の地域移行です。

では、地域移行とは何なのか。端的に言えば「公立の中学・高校の部活動を、地域のスポーツクラブなどに移行する」ことです。普段学校の授業が終わった後、学校の教員が顧問として指導しながら練習するあの部活動が、〇〇体育協会・△△スポーツ少年団のような地域のスポーツクラブが管理する練習に置き換えられるということです。

しかし、いきなりこの制度に移行するのは現実的に難しいため、文部科学省は2023〜2025年度を改革推進期間」として、まずは休日の運動部活動の移行に向けた整備を進めることとしています。そして、平日の部活動の移行についても、改革推進期間での進捗を見ながら段階的に推し進めるとしています。

また、それでも移行が難しい場合は、学校での部活動の中で「部活動指導員」として地域の人材を活用することを求めています。他にも、部活動の顧問を続けたいという教員向けに、教員と地域スポーツクラブ指導員を掛け持ちする兼職兼業制度も設けるとしています。

改革の背景は?

ここまで、部活動の地域移行の概要を見てきました。では、なぜこのような制度変更を行うのでしょうか。その背景にある大きな問題を取り上げます。

①教員の負担

背景の1つ目には、教員の負担が挙げられます。

文部科学省が2022年度に実施した教員勤務実態調査によると、中学校の教員の平均在校時間は平日約11時間、土日約2時間であり、このうち部活動に割かれる時間は平日約2時間、土日約45分ということでした。

一方で、教員の勤務時間や給料は法律や条例で定められています。例えば東京都では、平日の勤務時間は7時間45分と規定されており、例えば8:15〜16:45(休憩45分)と仮定すると、平日の部活動に対しての給与は実質的には発生しないといえます。また、休日の部活動に関しては日額3000円と規定されています。

上記のような勤務時間の簡単な比較からもわかる通り、教員の勤務の現状は厳しいものだと問題視されています。また、その中でも部活動は大きな割合を占めていると分かります。

さらに、自分の経験したことのない競技・種類の部活に配属されたときの負担もかなり重いものだと指摘されています。

このような教員の重い負担を軽減することが、今回の部活動の地域移行の背景の1つになっています。

②少子化による影響

さらに、少子化の影響も大きな要因の1つになっています。

学校基本調査年次統計によると、中学校の在学者数は1989年(平成元年)は約560万人だったのが、2022年には約320万人に減少しています。また、2022年の出生数は約80万人なので、単純計算で、15年後の中学校在学者数は約240万人と見積もることができます。

このように、生徒数が減少しており、その傾向が今後も続くため、学校ごとでの部活動では十分な人数が確保できず競技によっては試合に出られなかったり練習すらできない部活ができてしまったりします。

このような状況を踏まえ、部活動の地域移行によって、付近の複数の学校から生徒が集まる地域のクラブで練習を行い、生徒がスポーツなどを経験する機会を確保することも理由の1つになっています。

問題点は?

教員の負担減や少子化対策のために行われる部活動の地域移行ですが、いくつか懸念されている点もあります。

①家庭の負担増

今までは学校が主体となって行われていたため、部活動には基本的に費用はかかりませんでした。しかし、地域のスポーツクラブなどに移管されると、その運営費用が必要になるため会費を払う必要が出てきます。また、活動場所が遠いところにある場合などには保護者の送迎が必要になってくるかもしれません。

このように、地域移行によって家庭の負担が増加することが懸念されています。負担が大きくなってしまうと、経済的に困窮している家庭などではクラブ活動への参加を断念せざるを得なくなることが考えられ、スポーツなどに親しむ機会の確保という目的が本末転倒な結果になりかねません。

これに対して、政府は補助金を出すなどしてできるだけ会費を抑えるよう努めるとしています。

②生徒の安全確保

また、特にクラブで指導する人に指導経験がない場合、生徒のけがやメンタルの問題に対して正しく対処できないおそれや、体罰など指導が過熱化してしまう可能性も否定できません。このような生徒の安全確保も課題の1つだと指摘されています。

これに対しては、各地方自治体が指導員の資格を設けたり研修会を行ったりして対応することになっています。

生徒側への影響は?

ここまでは、部活動の地域移行に伴う制度上の変更点・問題点を見てきましたが、ここからは現役大学生が自身の経験から、生徒にどのような影響がもたらされるのかを考察していきます。

メリット

まずは、良い面を見ていきます。

1つ目はやはり、専門知識・技術を持つ指導者から教わることができる点でしょう。経験のない競技・種類の部活に配属された先生の苦労は前述しましたが、これは指導を受ける生徒にとっても良い環境とは言えません。「経験者の先輩がメインで仕切っている」という話もよく聞くと思いますが、長年その競技・分野に携わっている人から指導を受けることが一番なのは言うまでもないことですね。

また、多様な競技を体験できる可能性があることも魅力の1つでしょう。教員数・生徒数の減少などで開催できる部活動が限られてきているのが現状ですが、地域移行によって学校部活動では開催できないような珍しい活動や人数が集まらず断念していた団体競技にも挑戦できる機会が増えるかもしれません。

デメリット

部活動の地域移行によって生徒側に起きうる悪影響も見ていきます。

1つは、練習量が減る可能性です。学校の教員は生徒と同じような時間割で行動するため、週5回部活動を見ることも(単に時間的制約だけ見れば)可能です。しかし、地域クラブの指導員は基本的には他の職を持っており、学校の教員ほど生徒の時間に合わせることが簡単ではなくなるため、練習時間が今よりも減る可能性があるのです。これは特に、スポーツを頑張りたい・ある分野を極めたいという生徒に影響がありそうです。

また、「勉強は苦手だけどこのスポーツ・この分野は得意!」という生徒をどう評価するかも課題です。現状では部活動での頑張りも成績評価の一部となっていますが、教員が部活動に関わらなくなると、そのような観点での評価が難しくなります。場合によっては評価が勉強の側面に偏ってしまうこともあり、むしろ生徒がスポーツなどに取り組む意欲を削ぐおそれも考えられます。

参考

スポーツ庁・文化庁「学校部活動及び地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」2022年12月
文部科学省初等中等教育局「教員勤務実態調査(速報値)」2023年4月28日
東京都人事委員会「学校職員の勤務時間、休日、休暇等に関する条例」2023年8月20日閲覧
東京都例規集データベース「学校職員の特殊勤務手当に関する条例施行規則」2023年8月20日閲覧
e-Stat「学校基本調査 年次統計」2023年8月20日閲覧
厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況 」2023年8月20日閲覧
教育新聞「(解説)部活動地域移行の具体的な事例を紹介!」2023年8月20日閲覧
NHK「WEB特集 “地域での部活動”見えてきたものは?」2023年7月6日
寺子屋朝日 for Teachers「部活動の地域移行とは? 進む背景や、メリットとデメリットを紹介」2023年6月1日

ライターのコメント

ここまで、部活動の地域移行について、概要や背景、問題点などを見てきました。また、大学生である筆者から見た、生徒側に起こるであろう影響も考察してきました。 この中で、私はこの地域移行は「大学生が活躍するチャンスかもしれない」と思いました。もちろん大学生がクラブを運営することは生徒の安全の観点から難しいことではありますが、いわば監督の下のコーチ的な役割でサポートできるのではないか、と思うのです。大学生には人に教える経験になり、生徒には現役バリバリの選手を間近で見て学べる経験になります。 いずれにしろ、生徒・教員・地域の3者にとって負担のない改革にすることが求められているのだと思います。