「官公庁いつ行くの?今でしょ!」―官庁に内定した東大生が思うこと

2022年04月28日・その他 ・by Newsdock編集部

「官僚冬の時代」と呼ばれる昨今。書籍『ブラック霞が関』での描写に代表されるように、官僚は現在厳しい労働条件のもとに置かれています。月数百時間の残業が当たり前であるうえ、昔より給料も低く、自分たちの手で政策や法律を作りづらくなっている……。こうした職場環境にやりがいを感じられないことから、若手官僚の離職者数は年々増加傾向にありますし、国家公務員(厳密には細かい区分があるのですが、ここでは、官僚のことと考えてください)の志望者数も5年連続で減少しています。今回は、このような厳しい状況の中で、官僚の道に進むという選択をされたCさんからお話を聞くことができました。

プロフィール

お話を伺った方(Cさん)は、東京大学教養学部をこの春卒業し、官庁に就職されます。在学中に2度、交換留学を経験しています。

就職先を決めるまで

最終的に官庁への就職を決めたCさん。そもそも、Cさんはなぜ国家公務員(官僚)を志望するようになったのでしょうか。そして、なぜ数ある省庁の中から今の就職先を選んだのでしょうか。これら2つの点について尋ねました。

「カネの力だけでは解決できない問題を追及すべく、官庁を志す。」

Cさん「大学の専攻で国際関係を学んでいたのですが、その中でもグローバルな課題に国同士の協力で取り組む場面を多く勉強してきました。それで、日本の立場からそうした課題に取り組みたいと思うようになりました。」

こうした2つの観点からだと、国際NGOや政府系機関(JICAなど)にも当てはまりそうですが、その中でもCさんはなぜ「国」という立場にこだわったのでしょうか?

Cさん「実は官庁訪問前にある政府系機関から内定をいただいてはいました。ただ、政府にはそこしかない力があると思っていて。社会にとって本当に必要なものって、黒字が出る・出ないだけでは判断できないんじゃないかと考えていたので。父親が金銭感覚に敏感な人で、『安くて質のいいものはとにかくいいんだ』とよく言っていました。その反動かどうかはわからないんですけど、お金だけじゃできないことがあるんじゃないか、と小さいころから思っていたんですよね。そういう数字を見るだけでは到達できないウェルネスにたどり着きたい、と思ったときに、採算よりも社会の課題解決を優先する公務員に惹かれたわけです。それで、国の立場で自分の思いを実現したいと思いました。」

「日本の力で世界の課題を解決したいという思いから、就職先を決断。」

こうした経緯で国の立場で働くことを志すようになったCさん。では、国の立場から実現したかったことは何だったのでしょうか。

Cさん「いろいろな体験をしているうちに、人間たるもの皆平等に価値があると思うようになっていったんですよね。それで、人間としての価値を守り、人々を笑顔にする仕事がしたいと思うようになりました。」

人々を笑顔にするとは、一体どういう意味なのでしょうか?またこのことは内定先の官庁とどのように関係しているのでしょうか?

Cさん「いろいろ方法はあると思うんですが、僕はその中でも困っている人を助けてホッとした気持ちになってもらいたいと考えていて。困っている人と言っても、必要最低限度の生活すらままならない人々に何とかアプローチできないかな、と強く思っていました。その点でいうと、内定先の省庁は、他と比べて、生活が切り詰められて困っている人たちのために働けると考えて、そこに行くことにしました。就職活動を終えても、自分の中でこのような価値観はぶれないことをあらためて確認しました。」

入省後のこと

他の業界と比べて、残業時間がとても多いことで知られる官庁。こうした環境に飛び込む新入省員として、Cさんが官庁の内部、そして社会全体がどのように変わることを望んでいて、またどう変えていきたいと思っているのか、意見を聞きました。加えて、Cさんが激務の中で自身のバランスをどう保っていきたいか、またこれまで培ってきた自分の強みをどう活かしていきたいかも言及してもらいました。

「働き方のデジタル化が浸透してほしいし、自分も小さな旋風を起こしたい。」

Cさん「まず希望としては、働き方をもっとデジタル化してほしいですね。行政はDXを進めていくとよく言うんですけれども、働き方そのもののDXはあまり進んでいないと思っています。まだまだ紙媒体や対面での業務が多いので、法案作成手続きのオンライン化や、在宅勤務の普及といった足元の変化が進んでいくことを望んでいます。とはいえ、残念ながら新入りの立場でできることは少ないんですよね。組織の中でいろいろな人の承認を得て決めないといけないので。あと、こうした仕組みを変える最終的な判断は行政じゃなく政治がやるので、官僚自身が決断できない・してはいけない部分も多いんです。けれど、年次が若く、自分と感覚が近い先輩に小さな疑問を投げかけていくことで、組織文化をちょっとずつでも変えていけたらいいな、と思っています。そうした雰囲気ができれば、政治サイドで官僚の働き方を変えよう、という動きにもつながっていくと思うので。」

「日本の社会保障制度をもっと持続的にしたい。そして、日本を世界のロールモデルに。」

Cさん社会保障制度をもっと持続的にするためのマイナーチェンジに取り組んでいきたいです。最近『どうせ年金もらえないんでしょ』という若者の声を聞くことが多いですね。現実を見つつ、そうした国民の素朴な思い、感情を制度に反映させていけたらいいな、と思います。一方で、留学や学部での勉強を通して、他の国や国際組織のことは一朝一夕で変えられないと思ったので、日本という国の立場でそちらにメスを入れることには違和感を覚えたんですよね。むしろ今言ったような国内での仕組みづくりを通して、ショーケースとしての日本を対外発信していく、日本発の支援形態を世界に展開していく、そうしたやり方で世界レベルでの課題解決に関わっていきたいですね。」

「自分自身の幸せを保てるように公私を充実させたい。仕事では大学時代につちかった経験・スキルを活かしたい。」

Cさん「理想としては、休めるときに休めればいいな、と。ただ実際には難しいと思うので、自分の幸せを担保しつつ、旅行など楽しみながら職務ができればいいですね。強みに関しては、2度の留学も含めてさまざまな環境で過ごしたので、ちょっとしたことでは折れないぞというタフさと適応力にはちょっと自信があります。僕は日本語・中国語・英語を話せるんですが、内定先には3言語を高いレベルで操れる職員や、国際関係を専攻した職員は少ないので、そうした言語・専攻面では胸を張れるところがあるかもしれません。ただあくまで、一番下の駆け出しというポジションから始まるので、どんなことでも吸収する謙虚さをいつも忘れずにいたいです。」

就活のトレンドについて思うこと

先月のNewsdockの記事(「就活解禁」はもはや死語?−令和・アフターコロナ時代の就活を考える)でも取り上げたように、ここ数年就活早期化が進んでいます。官公庁では例年6月下旬から7月上旬にかけて面接が実施され、遅くとも7月中旬には内定者が決まりますが、これは6月までに内定者を決める多くの民間企業に比べればやや遅いタイミングといえます。就職活動を3年生(2021年)春からはじめ、そこから4か月間就活を行うという「やや遅め」のタイミングで就活を行ったCさんにとって、この就活トレンドはどのように映ったのでしょうか。

Cさん「正直、就活早期化は学生全体にとってはあまり良くないトレンドだと思います。 大学生らしい、のびのびと過ごせる時間が減ることにもつながってしまうので。みんながみんな大学のはじめから明確なプランを持っているわけではないし、長い間学生を悩ませる方向にむりやり引っ張るのは違うんじゃないかな、という気がしています。一方で、早い時期に優秀な人材と優良な企業がマッチングされるのは良いことだと思うし、早く将来の方向性を決めたい学生にとっては悪くないんじゃないかな、とも思います。」

就活早期化とも関係しますが、昔であれば官庁を目指していたような人材が民間企業に行くケースも目立っています。例えば、数十年前までは東大法学部を出たら官僚(か法曹)になるのが定石とされていました。しかし、ここ5年間では、各年度の卒業生のうち4〜5割前後が民間企業に就職し、官庁への就職者はそれよりも少なくなっています。このように、優秀な人材が民間に流出することについて、民間就活を経たうえで官庁に行かれるCさんに感想を聞きました。

Cさん良くない傾向だと思います。 先ほども言ったように、国の立場でしかできない仕事があり、そうした仕事は世の中にメチャクチャ影響力があるものも多い。これからの社会のベースを考えていく場所に優秀な人が集まらなかったら、と考えるとちょっと恐ろしい。解決策としては、働き方を楽にする、お給料を上げるといった感じでしょうか。ただこれらは全部政治が決めることなので、自分に変える権利がないのは残念に思います。」

そうなると、政治家に転身して官僚の待遇を変える、という方法はどうなのでしょうか。

Cさん「それは考えていないですね。政治家は官僚のキャリアパスとしてなれる職業ではないので。官僚とは違って選挙で選ばれる必要があるから、政治家になることを目標に官僚ポストに就くのは話が違うかな、と思いますね。」

将来の進路を探している高校生・大学生へ

Newsdockでは、若者にとって有益な情報を提供することを活動目的の一つとしています。最後に、Cさんから、将来の進路を探している高校生・大学生に向けて、地方出身者という観点を含めてメッセージをもらいました。

Cさん「学生時代、単に就活のために物事に取り組むということがなかったのが良かったと思います。就活でガクチカを話すからという理由で何かをやるのではなくて、純粋に自分のやりたいことをやる。それはサークル、バイト、学業何でもいい。その中から、自分がやりたいこと、自分にとって向いているものを知ることが、良い進路選択をするうえで大事なんじゃないかなと思います。

またCさんは、地方から東京大学に進学したというバックグラウンドも持っています。地方では、大学や進路に対する情報が大都市圏より手に入りにくいとも言われています。そんなCさんから、地方の受験生に対してもコメントしてもらいました。

Cさんとにかくググろう! 情報の地域格差は確かにあると思いますが、就活全般がオンライン化したことで、東京にいなくてもいろんな可能性が広がったと思うので。早いうちからいろいろないろいろな偶然の経験を重ねて、たくさん情報を得ることで、選択肢の幅が広がると思います。自分から主体的に動くことがとても大切だと思います。」

参考
日経新聞『 20代官僚の退職、6年で4倍超 河野氏「危機に直面」』2020年11月19日
BUSINESS INSIDER『 学生の“官僚離れ”は止められるか?国家公務員試験「受験者の減少は危機的状況」』2022年3月15日