アメリカ中間選挙2022ー概要・争点を分かりやすく解説!

2022年11月07日・国際 ・by ろーど

11月8日に迫ったアメリカ中間選挙。与野党でインフレ対策などについて大きく方針が分かれています。ところで、アメリカの大統領選挙は身近に知っている人も多いと思いますが、中間選挙はいったいなんなのかあまり知らない人もいるかと思います。そもそも中間選挙とはどのような選挙なのでしょうか?また、与野党で他にどんな争点があるのでしょうか? 今回はそんなアメリカ中間選挙について分かりやすく解説しました。

中間選挙とは?

中間選挙とは、4年に一度行われる大統領選挙の「中間」の年にアメリカで行われる連邦議会の上院・下院の議員選挙や州知事選挙などの公職選挙のことです。今年2022年に行われる中間選挙は、11月8日(火)が投開票日となっています。

そもそも連邦議会って?

ここで少しではありますが、アメリカの連邦議会について簡単に説明したいと思います。

イメージとしては、連邦議会は日本でいう国会に相当します。日本の国会は衆議院と参議院の二院制で構成されていますが、アメリカの連邦議会も上院と下院という二院で構成されています。選出方法や任期、議席数なども日本の国会のように、上院下院でそれぞれ異なります。上院は大統領指名人事の承認や条約の承認の権限を有している一方で、下院は予算の先議権や大統領などに対し弾劾訴追を行う権限を有しているといったように、両院でバランスをとりながら立法府が成り立っています。

二大政党制のアメリカ

日本では自民党や立憲民主党、公明党などのように、議席数に差はあれど、さまざまな政党が競合している多党制であるのに対し、アメリカでは民主党と共和党の二大政党制となっています。政党の掲げる方針の違いは後の項目で触れますが、大まかに分けると民主党がリベラル派で共和党が保守派です。つまり、民主党は「社会福祉や生活保護を考えるのは政府の義務であり、政府による一定の市場介入を是とする」スタンスで、共和党は「自由な市場競争を重んじ、政府の介入を最小限にとどめる」スタンスと言えます。

アメリカの議会選挙ではこの二つの政党のうち、どちらが議席をより多く獲得するかが注目されます。

現在の勢力

では、中間選挙前現在の上院と下院のそれぞれにおいて民主党と共和党は議席数をどれほど占めているのでしょうか。

まず上院の定数は100議席です。現在は無所属を含む民主党系と、共和党はともに50議席で同数となっており、議席数だけ見ると両党で拮抗しているように見えますが、もし採決で同数の場合は、上院の議長を務める民主党のハリス副大統領が1票を投じるので、事実上の多数派は民主党という状態です。今回の選挙では民主党議員の14議席、及び共和党議員の21議席の計35議席が改選となります。 米政治サイトのリアル・クリア・ポリティクス(RCP)の11月7日時点の分析によると、上院の議席数の予想は非改選議席を含め民主党が44議席、共和党が48議席でどちらに転ぶかわからない接戦区が8議席と両党拮抗しています。

一方、下院の定数は435議席です。それに対して現在は民主党が220議席、共和党が212議席、欠員3議席と民主党が多数派となっています。今回の選挙ではすべての議席が改選されます。 こちらもRCPの分析によると、下院の議席数の予想は非改選議席を含め民主党が174議席、共和党が227議席でどちらに転ぶかわからない接戦区が34議席と、拮抗していた上院に対し、下院は共和党が優勢と見られています。

中間選挙の重要性

中間選挙は政権への審判

中間選挙は、大統領選挙の任期4年の「中間」に行われる選挙であることから、現職の大統領の政権に対する評価の場でもあるとされています。ですので今回はバイデン大統領に対するいわゆる「中間テスト」のような機会となります。

アメリカでは多くの場合、連邦議会が法律を制定します。法案は上下両院で承認された上で大統領の署名をもって成立するのです。したがって、大統領にとって、自分が所属する政党が上院や下院の多数派になっているかどうかが、政策を遂行する上で大いに関係してきます。 つまり、今回の選挙では、バイデン大統領の民主党が上下両院で多数派になることができたら、その後の政権運営がスムーズに進みやすくなり、2年後に控える大統領選挙に向けて、民主党側に弾みがつくというわけです。 逆に、上下両院で、あるいはいずれかで共和党が多数派になってしまうと、民主党側が提出する法案は成立しにくくなり、バイデン大統領は厳しい政権運営を迫られることになります。

もし、これまでのバイデン政権の運営が人々に評価されていれば民主党の議席数は期待できるものになるかもしれませんが……

※バイデン政権の1年目について当選からの流れを解説した記事はこちら! ・バイデン政権、1年目にして大ピンチ!(前編) ・バイデン政権、1年目にして大ピンチ!(後編)

歴史的には与党に不利

これまでの事例を見てみると、中間選挙は政権与党に厳しい目が向けられ、大統領選で勝った政党が議席を減らす場合が多いようです。

第二次世界大戦後から今までに行われてきた中間選挙19回のデータによると、与党はこの中間選挙の際に平均して下院は27議席、上院は3〜4議席を失ってしまっています。この数字からも伺えるように、与党は19回の選挙のうちの大半で議席数を減らしてしまっていて、逆に増やすことができたのは下院で2回、上院で4回という結果となっています。

ここで2008年から2016年までのオバマ政権時代の事例を見てみましょう。オバマ大統領は民主党に所属しており、政権発足時には上下両院どちらも民主党が多数派でしたが、2010年の中間選挙では下院で多数派を失いました。2期目で迎えた2014年の中間選挙では、上院でも多数派を失ってしまい、共和党に上下両院で多数派を奪われてしまいました。その結果、議会に提出された法案はほとんど成立せず、政治が停滞してしまう中、「決められない政治」と揶揄されることにもなりました。

争点

今回の中間選挙ではさまざまな争点が挙げられます。

この中でも有権者の関心を特に集めているのは経済・インフレ対策です。

ウクライナ情勢を受けた原油価格の高騰や人手不足による企業間の賃上げ競争などによって、アメリカでは記録的な水準のインフレが生じています。これを受けて、バイデン政権は今夏にエネルギー価格や薬価の引き下げ、医療費の負担軽減などを盛り込んだ「インフレ抑制法」を成立させました。民主党はこのように対策の実績を強調している一方で、共和党はこの法案には物価抑制の効果がほとんどないと主張しており、「政府の支出を抑え、成長を促す税制や規制緩和策を導入し、経済に安定をもたらす」と訴えています。

また、人工妊娠中絶の問題も争点のひとつとして注目を集めています。 アメリカ世論を二極化するテーマのひとつでもある妊娠中絶ですが、今年の6月にアメリカの連邦最高裁判所が「中絶は憲法で認められた女性の権利だ」とする過去の裁判の判決を覆し中絶禁止を合憲化したことで議論が再燃しています。この問題において、民主党は「妊娠中絶は女性の権利だ」として中絶権を擁護する立場であるのに対し、共和党は「胎児の生命尊重」を掲げ中絶の制限・禁止を主張しており、有権者の動向に影響を大きく与えるとされています。

※アメリカにおける妊娠中絶の問題については、以前インスタグラムにて背景や問題点などをビジュアル解説しましたのでぜひご覧ください。 ・アメリカの中絶対立① 中絶対立とは? ・アメリカの中絶対立② 中絶対立とは?

さらに、移民政策についても両党の方針は大きく二分されています。 バイデン政権が移民に対し「寛容な姿勢」を示した結果、不法入国などで検挙された人の数がこれまでで最も多くなりました。民主党は、正式な手続きを経ずに国境を越えてアメリカに来た人たちが在留できるように政策を進めているのに対し、共和党はこれを批判、より厳格な国境管理を重視しています。

11月8日(火)に投開票を迎えるアメリカ中間選挙。選挙結果がその後のアメリカ政治にどう影響を及ぼすのか。有権者の判断に注目です。

参考

NHK国際ニュースナビ「いったいどんな選挙?アメリカ中間選挙の「基礎」を解説」2022年9月30日
日本経済新聞「図解・米中間選挙」2022年10月27日
アメリカン・ビュー「連邦政府:大統領、議会、その他機関の役割」2018年1月19日
AMERICAN CENTER JAPAN「米国の統治の仕組み – 連邦政府」2022年11月7日閲覧
朝日新聞論座「米国にとって「リベラル」と「保守」とは何か」2016年2月26日
日本経済新聞「米中間選挙近づく 上院は拮抗、下院は共和優勢」2022年10月6日
RealClearPolitics「Battle for the Senate 2022」2022年11月7日閲覧
RealClearPolitics「Battle for the House 2022」2022年11月7日閲覧
アメリカン・ビュー「アメリカ中間選挙とその重要性」2018年10月22日
FiveThirtyEight「Why The President’s Party Almost Always Has A Bad Midterm」2022年1月3日
FiveThirtyEight「Will 2022 Be A Good Year For Republicans?」2021年3月12日
NHK国際ニュースナビ「アメリカ中間選挙の争点 インフレ対策は? 中絶は?」2022年10月28日
ロイター「米インフレ抑制法成立、バイデン氏が署名 4300億ドル規模」2022年8月17日
NHK国際ニュースナビ「アメリカで中絶巡り何が起きている?連邦最高裁の判断とは?」2022年8月18日