ジョブ型雇用とは?これからの働き方は?

2023年06月19日・社会 ・by ろーど

いきなりですが、「日本の会社での働き方の特徴」について聞かれたらどのようなことを思い浮かべますか?
もちろん、あらゆる職種や企業に当てはまるような特徴を挙げるのは難しいと思いますが、それでもある程度の共通した特徴はあるでしょう。

例えば、終身雇用。一度企業に入社して、業績悪化などでその企業が倒産しない限り定年まで雇用され続ける仕組みのことです。あるいは、年功序列。勤務年数や年齢に応じて給料や役職が上がる制度のことです。
これらの特徴について、小中学校の社会科の授業などで聞いたことがある方も多いと思います。それだけ、これまでの日本における働き方といったら挙げられる特徴であると言ってもいいかもしれません。

しかし近年、日本の労働・雇用環境は徐々に変化しています。そのうちの一つとして「ジョブ型雇用」の導入が挙げられます。「ジョブ型雇用」という言葉を聞いたことはあるけど、どのような雇用かイマイチわからない方もいると思います。
今回はそんな「ジョブ型雇用」とはそもそも何なのか、従来の日本の主な雇用形態とどう違うのか、導入の課題などなど詳しく見ていきたいと思います。

ジョブ型雇用とは?

冒頭で述べた、日本のこれまでの主な雇用形態のことを「メンバーシップ型雇用」と言います。このメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用はいったいどの点で異なるのでしょうか。ざっくりとしたイメージは以下の通りになります。

違いを一言で言うならば、人に着目するか仕事に着目するかでしょう。

これまでの日本の主な雇用形態、メンバーシップ型雇用では新卒一括採用・終身雇用を原則として、同じ会社で長期的に働くというスタイルが採られています。その中で、業務内容は多岐に渡ります。定期的な部署異動、すなわちジョブローテーションが行われながらさまざまな業務を経験していき、幅広く業務をこなすことのできる「ゼネラリスト」としてその企業で求められている能力を磨いていきます。
このようにまず、組織の一員(メンバー)として採用してから人に仕事を割り当てる、まさに人に着目した雇用形態がメンバーシップ型雇用になります。

それに対し、ジョブ型雇用では仕事に着目した雇用形態となります。まず企業は職務内容や勤務地、必要な技能などを明確に提示した上で人員募集を行います。その募集は、必要に応じてその都度行われる「中途採用」の形式が多いようです。あらかじめ明確な条件で募集をかけるため、メンバーシップ型で見られる部署異動もなく企業の中では固定的でしょう。しかし、企業間での流動性は高く、より待遇のよい企業へ転々とする場合、あるいは業務の終了に伴って契約満了となり、別の企業を探す場合など、転職がしばしば発生し得るのが特徴的です。そして、転職はしつつも決まった業務内容に特化して取り組むことで、専門性の高い「スペシャリスト」として成長していきます。
このように、企業の求める仕事が先にあって、その仕事に人を割り当てる、まさに仕事に着目した雇用形態がジョブ型雇用になります。

日本での雇用形態の変遷

一般にジョブ型雇用は欧米で主流の雇用形態であると言われています。にもかかわらず、日本では先のメンバーシップ型雇用が根付いています。そもそもなぜ日本ではジョブ型雇用よりもメンバーシップ型雇用が普及しているのか、そして、ジョブ型雇用の導入が注目されるようになったのはなぜなのかそれぞれ見ていきましょう。

メンバーシップ型雇用が根付いた戦後

日本でメンバーシップ型雇用が根付いたのは戦後の高度経済成長期でした。当時戦争によって壊滅的だった経済を立て直して復興するためには、長期的で安定した労働力が必要だったからです。
新卒を一括採用することで人材を大量に確保できること、ジョブローテーションを通じて従業員を柔軟に育成できること、そして従業員に長期的に働いてもらって会社への帰属意識を高めてもらうことで、企業は経済動向に合わせて効率的にかつ安定的に組織を動かすことができたのです。

以上は企業側の視点ですが、逆に従業員側の視点ではどうだったでしょうか。
先ほど企業が長期的な労働力が必要だったと述べましたが、それは必ずしも従業員の長期雇用を保障するわけではありませんでした。長期的な労働力は必要だとしても、生産性が上がって余分な人員が出てしまった場合は、その人員を削減、つまり解雇した方が効率的だからです。しかし、戦後まもなく多くの企業の労働組合が「労使協議制」というシステムを作り上げていきます。労使協議制とは労働者側(=労働組合)の意見・希望を使用者(経営者)側と共有し、反映させるための制度のことです。この制度によって、労働組合は従業員の雇用保証を訴え、実現していき、従業員は同じ企業で安心して長く働ける環境を得ることができるようになりました。

こうして、戦後におけるメンバーシップ型雇用は企業にとっても労働者にとっても安定した制度として受け入れられていくのでした。

ジョブ型雇用の促進

では、なぜ近年になってジョブ型雇用の導入のように雇用制度の見直しの動きが高まってきているのでしょうか。

それは時代の変化によって生じている日本社会の問題が関係しています。
戦後から高度経済成長期にかけて、ベビーブームに代表されるように人口がどんどん増えていきました。繰り返しになりますが、長期的で安定した成長が必要だったこの時代においては、メンバーシップ型雇用との相性が良かったのです。
しかし、現在では少子高齢社会において労働人口が急激に減少しています。労働力が減少するということは、その企業の生産力が減少する恐れがあるということです。また、今日ではグローバル化が進んで、企業間の競争も激しくなってきているので、競争力を上げるためにも事業の改編をスピーディーに行うことなどが求められています。
このような社会の変化の中で、従来のメンバーシップ型のままでは人事の流動性が悪く、生産力・競争力が相対的に下がってしまいます。あるいは、年功序列の制度などによって、若い優秀な人材が活躍しにくくなり、より競争力のある別の企業に取られてしまうことも起こってしまうでしょう。

今後の雇用形態

では、今後どのように雇用制度が変わっていくのでしょうか。どんどんメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移り変わっていくのでしょうか。

例えば、日立製作所は2022年7月に、国内の全従業員約3万人を対象にジョブ型の人事制度を導入しました。職種や階層ごとに職務内容及び責任を定め、それに必要な技能や経験も設定しました。
また、JR東日本は2024年度の新卒・中途採用から「開発・不動産」「データマーケティング」などの一部の事業で導入する方針です。
これらの企業のように、大手企業でジョブ型雇用を導入していく動きが見られています。

ただし、必ずしもジョブ型雇用へ完全な移行を果たしていくわけではないとの見方もあります。ジョブ型を全面的に採用するということは、年功序列型の賃金や終身雇用などの制度を大きく変えることになり、現在雇用されている従業員の混乱や不安を招くことになるからです。先の例の日立製作所も国内の全従業員を対象に導入をしてはいましたが、管理職からなど徐々に転換を行っていきました。

ここで重要なのは、これまでのメンバーシップ型雇用の中で弊害となっている部分を変えることでしょう。その一つとして年功序列と終身雇用の2つが組み合わさった、「仕事をあまりしないけど長く会社にいたから給料はいい」のような状態が代表的です。現状、ジョブ型雇用を導入しても、年功色が強い賃金制度を維持しているケースが主流だとする見方も出ています。

メンバーシップ型雇用かジョブ型雇用かのどちらか一方という二者択一で変わっていくのではなく、メンバーシップ型のいいところを維持しつつも足りない部分をジョブ型から取り入れる、あるいは新たな制度を作り出していく。このように転換していき、より優秀な人材の確保国際競争力の維持向上が達成できるような最適な雇用システムを確立していくことが求められるでしょう。

ライターのコメント

メンバーシップ型にもジョブ型にも良い点はあると思います。メンバーシップ型なら、「いったん正社員として入社すれば、定年まで安定した収入を得られる」・「専門にとらわれず、さまざまな仕事を経験できる」など。ジョブ型なら、「若くてもスキル・実力があれば高い賃金を得られる」・「仕事の範囲が明確で専門性を高められる」など。メンバーシップ型とジョブ型のどちらがいいのかは人によって分かれるでしょうし、業種によっても分かれると思います。いずれにしても雇用制度改革を通して、より多くの人にとって柔軟に仕事を選択できる環境が整ってほしいと思います。