春闘について詳しく解説!

2022年03月31日・経済 ・by Newsdock編集部

新年度を目前にした毎年3月ごろになると「春闘」と呼ばれるイベントが行われ、ニュースでもその様子を多く見るようになります。「春闘」とは「春季生活闘争」あるいは「春季労使交渉」を縮めたもので、労働者が賃金アップや労働環境改善を求めて企業と交渉するイベントのことです。

春闘とは何なのか、今年の春闘はどうだったのか詳しく解説していきます!

春闘とは

労働者は団結して企業と交渉する

春闘では労働者が企業と交渉すると述べましたが、一人一人の労働者が個別に交渉するわけではありません。多くの労働者が団結して交渉を行っています。それでは、どのような方法で団結しているのでしょうか?

多くの企業には「労働組合」と呼ばれる、労働者によって作られる団体が存在します。この労働組合は、労働者が主体的に労働条件を改善するための団体です。明治期に初めて結成された日本の労働組合は、大正、昭和と政府による弾圧が続いたのち、戦後連合国軍の占領下でようやく今日のような自由な結成や活動が認められるようになったという経緯を持ちます。

そんな労働組合ですが、それぞれの組合に所属している労働者の人数が異なることもあり、個々の組合には力の差があります。そこで、企業ごとの労働組合が産業別に集まって「産業別労働組合」をつくっています。その上には、全国48の産業別労働組合からなり、産業別労働組合を取りまとめる「日本労働組合総連合会」(通称「連合」)が存在します。

労働者たちは自分たちより立場が上である企業と対等に交渉するために、企業や産業の垣根を越えて団結しているんですね!

春闘の流れ

春闘は、労働者側が要求を示し、それに企業側が回答するという流れで行われます。

最初に動くのは連合です。連合は、前年の8月頃から春闘の準備をはじめ、12月上旬に全体方針を発表します。この全体方針は労働者側の要求の大枠となるもので、「何%の賃金アップを要求する!」といった形で発表されます。

続いて、産業別労働組合が連合の全体方針を受けて要求水準を具体化します。企業ごとの労働組合は、その水準をもとに最終的な要求をまとめ、2月頃に企業に提出します。

先ほど述べたように、要求を受け取った企業はそれに回答するのですが、大企業と中小企業の回答日は同じではありません。3月中旬に設けられる「集中回答日」に大企業から、それ以降に中小企業からの回答が行われます。

春闘で争点になること

春闘では労働時間の短縮、職場の環境改善などの要求も行われますが、一番の目玉は賃金アップの要求でしょう。特に春闘では「ベースアップ」、略してベアの要求がどれほど出され、企業側がどれほどその要求に応じるかが例年争点になります。では、ベアとは何なのでしょうか?そして、なぜ争点になるのでしょうか?

ベアとは、企業が全社員の基本給の水準を一斉に引き上げることです。一度ベアをしてしまうと、その後業績が悪化したとしても簡単には基本給の水準をもとに戻すことはできません。また、ベアをすると基本給から計算される残業代なども増えます。そのため、多くの企業はベアをあまりしたがりません。だからこそ、ベアの有無が春闘の大きな争点の一つとなるのです。

今年の春闘

今年ももちろん春闘が行われました。どのようなものだったのでしょう?

要求と集中回答日

新型コロナの影響により、多くの企業で業績が大幅に悪化したため、去年の春闘ではそれまで続いていた賃上げに積極的なムードが壊れ、賃上げ率が小さかったり賃上げが行われなかったりした企業が多くありました。対して今年は、製造業を中心に業績が回復した企業もあったことから、政府は業績が回復した企業に3%以上の賃上げを要求。さらに、経団連(企業をまとめている組織)も賃上げに前向きな姿勢を見せました。

3月16日に集中回答日を迎え、大企業が要求に回答しました。自動車業界大手のトヨタ自動車、電機業界大手の日立製作所などでは、労働組合側の要求に100%応じる満額回答が行われました。満額回答をしなかった企業も去年を上回る水準の賃上げを行っており、製造業の大企業が業績をかなり回復させてきていることがわかります。

大企業と中小企業、賃上げに差も?

大企業は業績を回復させていて、賃上げの要求に応えた企業も多かったようですね。では、中小企業はどうなのでしょうか? 

春闘が始まる前の今年2月に、企業が賃上げを行う予定があるかについて調査が行われました。その結果は、「賃上げするつもりだ」と回答したのは大企業が77.2%、中小企業が70.8%というものでした。6%ほどの差がありますが、これには、大企業よりも中小企業に新型コロナの業績不振から立ち直れていない企業が多いことが影響しているようです。賃上げをする予定のある中小企業の業績は回復しているとも言い切れません。人手不足の中小企業では、社員をつなぎとめるために、たとえ業績が悪くても賃上げをせざるを得ないためです。そうなるとさらに業績が悪化し、業績をコロナ以前の水準に戻すのが厳しくなります。したがって、大企業と中小企業の労働環境の格差がさらに大きくなることも考えられます。

今年の春闘は、中小企業にとって難しいものになるでしょう。

参考

NHK「春闘って何?
あしたの人事online「春闘とは?2020年ベアゼロ・昇給成功した企業の要因は?仕組みや要求内容の紹介」2020年5月7日
NHK「経団連 “賃上げに前向き” 春闘の基本方針 正式に発表」2022年1月18日
JOBROUTING「春闘とは?意味・総評・連合・スケジュール・賃上げ交渉を解説」2020年5月30日
連合「春闘ってなに?」2022年3月31日
NHK「春闘 集中回答日 自動車や電機などの大手では満額回答も」2022年3月16日
厚生労働省「日本の労働組合の成立ち
DIAMOND online「春闘2022自動車、電機「満額回答続出」でも残る不安」2022年3月24日

ライターのコメント

春闘とは何なのか、この記事を執筆する前はまったくと言っていいほど知らなかったのですが、執筆を通して春闘の内容だけでなく様々な事象との関連を知ることができました。例えば、景気が悪くなると企業の業績が悪くなりやすく賃金は上がりにくくなります。このように春闘は日本(ときには世界)の経済状況と関連しています。また、今回のロシアのウクライナ侵攻によって天然資源など原材料の価格が上昇すれば、多くの企業が悪影響を受け賃金も上がりにくくなるでしょう。このように、春闘はありとあらゆる出来事とかかわっています。とても面白いですね!