「ミドルベンチャー」を選んだ東大生の考え

2022年04月15日・その他 ・#東大生のキャリア選択 ・by Newsdock編集部

東大生ってどんなところに就職するの? 皆さんはどんなところを思い浮かべますか?

AERAの記事をみると、1980年の東大生の入社企業ランキングの上位は大手通信会社や銀行が圧倒的多数を占める一方、今日ではコンサルや大手金融など、さまざまな企業が名を連ねます。コンサルのようなメジャーな業界は見られるものの、昔に比べればだいぶ多様化しています。

では、今日の学生たちは、どのように就職先を考えるのでしょうか? 今回Newsdockでは多様な業界に就職される学生4人にお話を伺い、4名の方のそれぞれの考え方の変化をシリーズで記事にしていこうと思います。今回は、多様化しつつある東大生の就職先の中でも未だ珍しい、ミドルベンチャーを選択された東大生にお話を伺いました。

そもそもベンチャーとは、社会に新しい価値を提供している、若手の裁量権が大きい企業の総称です。ベンチャーは人数や会社規模によって、メガベンチャー、ミドルベンチャー、アーリーベンチャーに分類されます。より具体的に、それぞれのベンチャー形態を説明すると以下のようになります。

  • メガベンチャー:新しい技術やビジネスモデルを生み出し、大企業へと成長した企業。楽天やDeNA、サイバーエージェント、メルカリが当てはまる。
  • ミドルベンチャー:従業員数が100人から1000人の企業を指すことが多い。LINEやクックパッド、レバレジーズやSpeeeなどが当てはまる。
  • アーリーベンチャー:従業員数が数人から100人規模の創立して間もない企業。ベンチャーで最も企業の数が多い層。

やりがいがあるゆえに自己成長できるという点から、こうしたベンチャーを志望する東大生は増えつつあるようですが、それでも主流ではないのが現状です。では、ベンチャーの中でも特にミドルベンチャーを選んだという選択の背景には何があるのか、その考え方に迫りました。

プロフィール

お話を伺った方(Aさん)は、東京大学経済学部をこの春卒業され、ミドルベンチャーに就職されました。この内定先に新卒1期(インターンを経ずに内定する学生の1人目ということ)として入社されました。

就職先を決定するまでの変化

就職先を決定するうえで、Aさんはどのように意思決定を行っていったのでしょうか。お話を聞いていくと、実に多様な変化を経ているようでした。

「商社や通信業界を考えていた高校時代。大学時代にメガベンチャー志望へ」

高校の頃は、いわゆる東大生にありがちな思考だったとのことです。

Aさん「高校生の頃は、商社や通信業界などに関心を持っていて、また一方で起業することも興味のある選択肢の一つでした。大学に入っても当面はそういうキャリアに関心がありました」

ですが、大学に入って半年経つと、その考えが変わったそう。

Aさん「1年生の後半くらいから、リクルートなどのメガベンチャー界隈の方が自分の雰囲気に合ってるな、というふうに思ってきて。実際に周囲からもリクルートにいそう、と言われたこともありました。それで就職活動も基本的にはそちらをほとんどメインで見ていました」

「メガベンチャー志望から、ミドルベンチャー志望へ」

大学生活を過ごす中でこのように考えが変化したAさんでしたが、実際にメガベンチャーを見る中で、さらに意識が変化したそうです。どうしてメガベンチャーから転換したのでしょうか。

Aさん「1年生の後半以降はリクルートやエムスリーといったメガベンチャーを見ていましたが、3年生が終わるか終わらないかぐらいのタイミングから、メガベンチャーも意外と合わないんじゃないかと感じるようになりました。もう少し早いステージが合うんじゃないかなと思って」

「早いステージ」とは、まだ成熟しきっていないベンチャー企業のこと。Aさんが考え方を大幅に変えた背景として、会社でどんなことをやりたかったのかを聞きました。

Aさん「自分自身がやりたかったことは、事業作りというか、生きてる間に起業であるにしろ企業内であるにしろ、プロダクトを自分の手で作っていく人、推進する人でありたいと考えていました」

「この軸はずっと持っていたんですが、そこに加えてもう一つ、こちらは無意識のうちだったのですが、課題解決そのものに加えて、その課題を解決した先にも関心があるんじゃないか、と感じてきていました」

「主に見ていたメガベンチャーについてなのですが、そもそも自分自身が全くゲームに興味がなかったり、人材会社にいい思い出がなくて、ゲームとか人材での事業作りって楽しめるのかなって。そこに今熱中して事業づくりをしている人に、就活の面接をしていく中でお会いして、彼、彼女らと同じくらい熱を入れられるのかに疑問を感じるようになりました」

Aさんの本当にやりたいことは、関心が持てる分野において課題解決の先を見据え、自分で事業を推進することだった。本当にやりたいこととの違いからメガベンチャーが違うと考えたAさんですが、もう1点、メガベンチャーに対して違うなと思った部分があったそう。

Aさん「メガベンチャーには新規事業がうまくいってるイメージがあったんですが、私が思っていたイメージは10年前のものでした。むしろ、新規事業はあまりうまくいっていなくて、結構投資に切り替えていた会社が多かったので、あまり事業ができる環境でもないんじゃないかと思ってきました」

Aさんは、本当にやりたいことができる環境を追求した結果、自分に合った会社はメガベンチャーではなくミドルベンチャーであると考え、今の内定先を選んだということでした。

学生時代の経験と就職先への影響

学生時代の経験が、意思決定にどのように影響を与えたのか。Aさんは学生時代、東大生の間で知らない人がいないくらい有名な、学生生活に関する情報をまとめたプラットフォームを立ち上げていました。この経験がどう就職活動に繋がったのかを伺ってみると、こんなお話が。

Aさん「人と人を繋ぐような形での課題解決は当時ものすごくやりたいと思っていました。特に情報格差というところは東大で自分自身も大きく感じていました」

「人と人が出会うプラットフォーム作りによって課題解決することは、自分自身が大学時代に真摯な気持ちでやっていたことで、就活にも影響しました。やりたいことが明確に見えた上に、内定先企業を見つけることができたのも、この経験が大いに影響を与えていると思います」

周囲からの声

東大生がミドルベンチャーを選ぶ、というと気になるのが周囲の反応。まずは、Aさんの家族の反応を伺いました。

Aさん「家族はかなり保守的な方で、官僚や商社しか許さない、という感じの雰囲気が凄かったです」

では、そんな家族に対し、どのように説得していったのでしょうか。

Aさん「本当に日々説得しました。内定先以外の企業に対しては、10年後や20年後に働いている自分のイメージが、自分のやりたいこととは違う方向だと感じていました。一方で、今の内定先は全く知らない世界で、完全に自分自身に合うというふうに感じていたんです。そう思っていたこともあってか、ひたすら説得する僕の目が輝いていたらしく、最終的にはそれを見て家族もOKしてくれた、という感じです」

一方で、友人の反応は対照的だったようです。

Aさん「リクルートにいそうとは昔に言われていたのですが、実際に内定先に入社を決めた旨を伝えると、『元々はメガベンチャー行くと思っていたけど、スタートアップ(内定先のミドルベンチャー)に行く選択、言われてみればめちゃめちゃ似合っていると思う。東大生で選ぶ人は中々いないから、考えてすらいなかった。』と言われました」

学生生活を見ている友人たちには、新卒1期となるほどチャレンジングな内定先とAさんのイメージはピッタリだったようで、Aさんの選択はなんら違和感がなかったよう。ですが同時に東大生がこの選択をすることは珍しく、Aさんの選択が本当に考え抜かれたものであったことが分かります。

ベンチャー企業を選ぶうえで

メガベンチャーもミドルベンチャーも、ベンチャーを幅広く見てこられたAさんは、ベンチャー企業を選ぶ際には特に慎重になった方がいいと言います。

Aさん「なかなか新卒でベンチャーを見極めるのってそんなに簡単じゃないと思うんです。それこそTikTokで踊らされるところもありますし(笑)。本当に慎重にしたほうがいいですよ、っていうところはすごく思います」

ではベンチャー企業を見極めるためには、どういったことが必要になるのでしょうか。

Aさん「ありきたりではありますけれど、長期インターンなどを通してベンチャー企業での経験を積むことが近道なんじゃないかな、というふうに個人的には思っています」

Aさん「ベンチャー企業って多様な段階があると思います。会社自体がうまくいっているとかいっていないとか、サービスを立ち上げたばかりなのか、試行錯誤中なのか、割と目指すものが決まっている段階で投資家から評価されている段階なのか、後は人を増やすだけの状態なのか、正直わからないと思うので……。社長の話に乗せられて、あたかも堅実にビジネスを確立しているように見えたインターン先が、後から見れば全然大したことなかった、なんてよくある話ですからね。僕はベンチャーでのインターン経験で学べたことがかなり大きかったので、結構近道かな、という気はします」

ベンチャー企業の実態を外からつかむのは難しいからこそ、内部で体感する中で自分なりに理解し、本当にやりたいことと照らし合わせることが大事ということでした。将来の就職につながるから漠然と長期インターンをやっています、というようにインターンが目的のための手段と化しているケースもあると思いますが、こうした長期インターンの本来の意味も考えさせられました。

今日の東大生の就職先決定について

最後に、現在の東大生の就職先決定についてどう思うのか、伺いました。

Aさん「東大生が選びがちな外銀とか外資系コンサルというところが、果たしてその自分が求めている職場なのか、自分が求めている場所かは結構シビアに見ていく必要があると思っています。ゴリゴリ戦略ができるというふうに思って外資系コンサルに行くと、意外と最近は企業の支援の方が増えてきていたりとか。昔はメガバンクがもてはやされた時代がありましたし、どこかを神格化して、そこが偏差値一番高いところだから目指すとか、やっぱりそうであってほしくないな、という気持ちです」

更に、ご自身の経験からこのようにも。

Aさん「あとは、本当に最新の情報と言うか、今の時点で得られる情報をしっかり掴みに行った方がいいんじゃないかな、というふうに思っています」

ただ、こうして最新情報を収集するなど、手を尽くしてやりたいことができる環境を追い求めることの重要性がある一方で、新卒ならではの難しさという観点もあるようで。

Aさん「自分自身も最終で落ちたりしましたし、どこに行くかは本当に運命だと思うので、正直『どこの企業でも置かれた場所で咲く』という気持ちも大事かなとは思っています。だからやりたいことを追求することと、運命を受け入れること、その両方を大事にしてほしいな、と思っています」

ベンチャー企業を選ぶということ

今回は、ベンチャー企業を選ぶという選択について見てきました。最初は人気業界へ惹かれつつも、大学生活で徐々にメガベンチャーという選択へ移り、周囲と自分との温度差や情報と現実のギャップに気づき、最終的にミドルベンチャーを選ばれたAさん。

知名度に踊らされず本当にやりたいことを貫く姿勢と、本当にそのイメージについての情報が古くないかを調べ尽くすなどの努力を重ねた上で、置かれた場所で咲こうと考える姿勢に感銘を受けました。

以上のように、Aさんの意外にも感じられる選択の背景には、学生生活の活動、人との出会いが大きく影響していました。そして情報を見極める際には、印象を信じるのではなく真に現場を知ることで情報を更新し、見えにくい部分まで学ぶことが重要になってくることが見えてきました。

情報の更新や人との出会い、学生時代の経験の重要さはこの業界に限りませんが、特に現場で体験しその実態を深掘りすることは、ベンチャーという業界、中でも急成長を続けるAさんの内定先のようなミドルベンチャーでは特に重要なことなのかもしれません。

ベンチャーという業界に独自なものと、他の業界とも共通するもの、その両者が分かるインタビューでした。皆さんも、今の自分だったらどうするか、実際にどう考えて就職をしたかを改めて見てみると、自分の中での考えの変化に気づき面白いかもしれません。就職活動に対してネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実は学生生活での様々な経験とそこに基づく考えの変化が、自分なりの答えに繋がるのかもしれません。

参考
・ミキワメ「新卒でベンチャー企業に就職するということ」2022年4月7日