「コンサルに行くと思っていなかった」東大生がコンサルを就職先に選んだ理由

2022年04月19日・その他 ・#東大生のキャリア選択 ・by Newsdock編集部

3月1日から就職活動が解禁され、本格化しました。世の中では人気企業ランキングや就活偏差値などの情報が出回っており、就職活動には一定の風潮があるように思われます。ですが、こうした情報はどこまで本当なのでしょうか ? 今回は、実際に就職活動を終えた学生4人にインタビューをし、シリーズ形式で発表していきます。彼らが就職活動において何を考え、どのように意思決定をしたのかを聞く中で、就職活動のコツではなく、就職活動の実態を明らかにしていこうと思うのです。

今回は、「東大生がコンサルを選ぶという選択」についてです。東大生に大人気のコンサルですが、今回お話を伺った方は実は就職活動を始めた当初はコンサルに就職することになるとは全く思っていなかったとのことです。周囲からはありがちな選択に見えつつ、本人にとっては意外さもあった選択。その背景に迫ります。

インタビュー対象者

Bさん。東京大学経済学部を卒業され、今年4月より外資系戦略コンサルに入社されました。

最初に、出てくる単語の意味を解説しておきます。

  • コンサル:コンサルティングファームの略。お客様の課題を明らかにし、解決するための方法を立案、直接支援する
  • 戦略コンサル:企業の経営戦略を考えるコンサルティングファーム
  • 総合コンサル:お客様の課題を明らかにし、実際に解決する方法を考えるだけでなく支援まで一貫してサポートするコンサルティングファーム
  • UXデザイン:サービスやプロダクトを通じて、使う人の顧客体験のすべてをより良くするために設計を行うこと。オンライン通販を例にすると、ユーザーが商品を見つけ、値段や詳細を確認し、購入し、実際に日常で着て、「また同じ店で買いたい」と思って再度アクセスする、こうした消費者の行動すべてをより良くするために設計を行っていくこと
  • ジョブ型雇用:入社時点で配属される職種を確定させる雇用のこと。新卒一括採用と比べると大抵の場合人数が少なく、かつ配属先が決まっていることが特徴。
  • ジョブローテーション:入社後3年程度で別の業務に異動する制度。会社側がジェネラリストを求め、導入しているケースが多い。

就職先を決めるまで

就職先を決定するうえでBさんはどのように意思決定を行っていったのか。明確に変化したようでした。

所属していた団体での経験に近いものを

就職活動初期、そして大学3年生の夏に考えていた業界を伺いました。

Bさん「学生時代に所属していた団体で広報の担当を務めていて、それがきっかけで興味を持つようになった広告業界やマーケティング職を見ていました。もともと、深い理由があるわけではなく、なんとなく面白そうだなという程度で広報の担当になったのですが、実際に勉強してみたら面白かったので、好きだし向いている仕事だと思っていました」

最初に直感で興味を持ったものを実際に勉強する中で、やはり面白いと感じられた。だから就職先に選びたい、という思考プロセスは非常に説得力があるものでした。感覚的な「好き」を実体験を通して確信的な「好き」に変えていく、この「好き」への向き合い方自体からも学べることが多いと感じます。

秋以降、変化した考え方

ここまでのお話を聞いていると、Bさんが実際に広告代理店などに就職されていたとしても、あまり違和感がないように思えます。ここからどう考え方が変化したのでしょうか。

Bさん「やりたいことが何かをもう一度考えたときに、どうやって売るかだけでなく、製品やサービス、経営の方向性そのものをよくするという部分に携わりたいと気づきました。中でも、大学で経営を学んでいたこと、団体での経験でデザインが好きだったこと、これらの観点から、戦略コンサル、UXデザインに関わる職種やサービスの企画に関わる職種に興味がわきました」

この3職種の中だとコンサルはサービスを作るイメージがあまりないのですが、実際にコンサルを検討された理由はどんなものか、より詳しく伺いました。

Bさん「コンサルは自分でサービスを作るわけではないけれど、将来的にサービスを作る仕事に携わりたいと思った時に実現できる力が身につくと思いました。あと、経営に携われることも魅力的でした」

Bさん「広告代理店はコンサルと競合するようになってきているから、夏の段階で総合コンサルも見てはいました。秋以降になってやりたいことを考え直した時に戦略コンサルはアリだと思ったから、総合コンサルの延長で志望するようになったという感じです」

その時に総合コンサルではなく戦略を選ばれたのはなぜだったのでしょう。

Bさん「総合コンサルと戦略コンサルで後者を選んだのは、総合コンサルではシステムの導入など、経営者とビジネスの方針を考えることから遠い仕事もあるためです。戦略コンサルのほうがやりたいことに近く、志望度が高くなりました」

実際にご自身が本当にやりたいことを再考した結果、こうした結論にたどり着いたBさん。では、やりたいことを考え直したきっかけはあったのでしょうか ?

Bさん「広告代理店の人々の考え方にやや違和感を感じたことです。広告の仕事って、どうやって売るのかを考える仕事だと思っていたのですが、選考を通してお会いする人々は、広告の力で流行を作れると思っている印象を受けて。そこの考え方が自分と合わず、違和感を覚えるようになりました」

会社の最後の決め手は人でした、などという話も耳にしますが、やはり実際に働かれている人に会ってみることの重要さを改めて感じます。ただ、Bさんの仕事選びの軸が180度転換したかというとそんなこともないようで。

Bさん「とはいえ、UXデザインの仕事であればマーケティングとデザインの両方に携わることができると考えていて、マーケティングから必ずしも外れていないのかなと思いますね」

このように、考え直した後も、好きなものに関する仕事が選択肢にあったようです。ですが、やりたいことを考え直すと新しい視点で物事が見えてくる、ということを強く感じるエピソードでした。

就職先を決めるうえで

以上のように考えて業界を見られる中で最終的に就職先をどう選んだのか、詳しく伺いました。

悩んだ業界

就職先を選ぶうえで悩んだ業界はあったのか、伺ってみました。

Bさん「入社先以外の戦略コンサルファーム以外ではUXデザイン系の職種でもいくつか内定をいただいていたので、どちらにするかは悩みました。その他の職種の選考も受けてはいましたが、入社先の戦略コンサルファームから内定をいただいた時点で選考を途中で辞退しました」

ではなぜUXデザインを選ばなかったのか ? お話を伺っていくと、Bさんが就職活動において重視していたものが見えてきました。

企業の決め手

UXデザイナーを選ばなかった背景には、今後のキャリアの展望があったようです。

Bさん「デザインを経営に活かそうという考えが浸透してきていて、デザイナーが経営層に入ってくることも最近増えています。だからデザイナーからコンサルやベンチャー企業などの経営層を目指す人もいるんですが、一方でコンサルをやっていてデザイナーになる人はいない。いないだけなのか、なるのが不可能なのかが大事だと思い、実際どうなのかを探りました。デザイナー採用を担当している方に話を聞くと、今はいないだけでこの流れで出てくるのでは、という話を聞けたし、起業してデザイナーをやっている人に話を聞くと、先に経営をやっておいた方が良いのでは、という話を聞けた。今後デザインと経営の境目はなくなっていくと考えているのですが、そうなった時に、戦略コンサルからデザイナーへは転職できそうだが、逆にデザイナーから経営ポジションへのキャリアチェンジは難しいのではと考えて、ファーストキャリアとしてはコンサルを選んだ方が良いかなと思いましたね」

結論だけ見れば「とりあえずコンサル」に見えるのですが、やりたいこと、そこを踏まえての転職の可能性などを考え抜いた結果、ファーストキャリアにコンサルを選んだ、ということでした。コンサルを選ぶ東大生を一括りに語ることはできない、と強く感じました。

就職活動について思うこと

以上のように、非常にさまざまな観点から考え抜いた末に戦略コンサルを選ばれたBさん。就活に対してさまざまな考えを持つBさんだからこそ、昨今の就職活動についてどう思うのか伺いました。

「できる」と「好き」のバランス

就職活動でしばしば言われるのが、今「好き」なことに携わる仕事を選ぶのか、今も自分が活躍できている「できる」ことに近い仕事を選ぶのか、どちらが働いていて幸せなのかということです。

好きなら一途に頑張れるのか、それとも仕事で関わることで嫌いになりうるから避けた方が良いのか。できることなら苦痛ではないからストレスは少ないが、もっと可能性を広げなくていいのかー。さまざまな意見があり一概に言えないとは思いますが、Bさん自身はどう考えているのか伺いました。

まず、「好き」なことについてはどう考えられたのでしょうか。

Bさん「自分が一番好きなことはデザインなんですが、グラフィックデザイナーとなると、もっと昔から勉強してきて力のある美大などの人がいると思ってそこには敵わないと思いました。なので、そこの道は選ばなかった」

では、「できる」ことについてはどうでしょう。

Bさん「今の段階で知識があって得意なのはマーケティングだから、そういう意味では一番得意なことを選んだ訳ではない。でも、今の時点でできることってたかがしれてると思って一旦無視して考えた、という感じですね」

なるほど、「好き」も「できる」も、片方を特別重視することはなかったようです。

Bさん「『好き』が大きくて『できる』が小さいグラフィックデザイナーは選ばなかったし、『好き』はそこそこで『できる』が大きいマーケティングも選ばなかった。結果的には、『好き』も『できる』もそこそこあってそうなところを見ていた、という感じです」

Bさん「とは言え、トレードオフのような感覚はなくて。『好き』を犠牲にして『できる』を得たいとかではなく、『好き』も『できる』もある程度両立して、かつ、今後のキャリアへの影響も考えつつ選んでいきましたね。ビジネス側だけどデザインもわかる、という人はすごく価値があると思うので、そういう人を目指していきたいと思っています」

「好き」と「できる」のどちらを重視するか、人それぞれとは思いますが、どちらもある程度重なった部分を選ぶという選択肢もあると強く感じました。

良い「とりあえずコンサル」と、危険な「とりあえずコンサル」

東大生のコンサル人気については冒頭で触れた通りですが、就活当初コンサルを一切考えていなかったBさんの目には、コンサルはどう映っていたのでしょうか。

Bさん「人気ランキング、就職難易度ランキングなどを踏まえて『とりあえずコンサル』を選ぶ人々を見て、就活ってそういうものじゃないだろうし、外資コンサルは違うなと思っていました。3年生の4月とかにコンサル見ている人は、就活ガチ勢で自分とは違う人たちだと思ってましたね」

当初はこのように考えられていたBさん。さて、就活を終えた今改めてコンサルについてどう考えるか、聞きました。

Bさん「コンサルを就活で受けるということはすごくわかるな、と思います。ビジネス基礎力が身につくから、今後の選択肢の幅が狭まらない点に惹かれて第1志望とする気持ちもわかる。あと、多くの業界と関わる仕事だからこそ、いろいろな業界を志望する人が第2志望として併願できるのも人気の理由なのかなと思っていて。こうした理由で人気が加速しているのかなと思うし、人気についても納得がいきますね」

ですが、同時にコンサルを絶対視することの危険性についても。

Bさん「コンサルしか見ない、というのは本当にもったいないと思います。他を見たうえで、『ファーストキャリアにコンサルを』というなら全然良いと思うけれど、他を見ずに『とりあえずコンサルを』というのはよくないしもったいないと思います。就活の最初と最後に見ている業界が違うという話はよく聞くし、社会に詳しくない状態で就活を始めて、いざ詳しくなってどう思うか、というのは非常に重要な点だと思うので」

筆者も実は就活中なのですが、就活を通して社会が見えてくる、という点はその通りだと思っています。さらにBさんは、コンサルの選考の早さがもたらす影響についても指摘されています。

Bさん「ただ、コンサルの選考スケジュールは非常に早く、仕事内容、成長、待遇などが悪くないコンサルから早い段階で内定をもらうことで、その後の行動が縛られるというジレンマもありそう。仮に大学3年生の6月に内定をもらって、その後、待遇は落ちるけれど興味がある職種が別に見つかったとして、果たしてコンサルを辞退できるのか?というところは難しいと思いますね」

コンサル人気は今が頂点 ?

密かに言われていることですが、コンサル人気の今後について実際にコンサルに行くBさんにはどう見えているのか聞いてみました。

Bさん「コンサル人気は今が頂点、という意見については同意です。今後数年コンサル人気は続くと思いますが、10年後、20年後には変わっているのではないかなと思います。そもそもコンサルを選ぶことがセンスがいい選択とは全く思っていなくて。例えば、今後大きく成長しそうなベンチャーを見極めて入り実際にそのベンチャーが成長したなら、それは間違いなくセンスの良い選択と言えると思います。でも、新卒で就活をする時にこの選択を下すことはすごくリスクも伴うと思います」

Bさん「一方でコンサルは今後人気が落ちていく可能性がある業界だから、『安パイだけど落ちていくかもしれない。でも就職先としては今はリスクは少なく、同時に大きく伸びることもない。』こんな選択だと思っています」

Bさん「まあ、今の状況のままならコンサルにいれば転職しやすいというところは間違いないとは思っています。ただ、コンサルを今後も伸びていく、勢いのある業界だとは決して思っていないですね」

考え抜いた先にコンサルを選びつつも、決してその選択をセンスがいいとは思わない。常に冷静で、客観的なBさんの姿勢が伺い知れました。こうした考えを抱きつつコンサルにいく人がどれだけいるのか、すごく興味深く思います。

経団連の就活ルールについて

経団連は就活の解禁を6月1日と定めており、それに企業は従うこととなっています。ですが早期に内々定を出す企業は増えているのが現状です。Bさん自身は、こうした就活の早期化についてどう思うか、聞いてみました。

※なお、就活の早期化については以前記事でまとめています。早期化はどう学生に影響がある ?早期化の背景には何がある ?といった詳しい情報については、こちらの記事もぜひご覧ください。
「就活解禁」はもはや死語?−令和・アフターコロナ時代の就活を考える

Bさん「就活の早期化の理由って、前年までの採用活動で競合他社に人をとられた企業が例年より採用スケジュールを早めている面があると思っていて。そして経団連の影響がないベンチャーや外資コンサルは採用スケジュールを自由に早くできるので、選考スケジュールを早くして内定を早く出し、内定承諾の期限を早くすることができる。企業側からすると合理的で、自社利益のために当然のことに見えますね」

Bさん「ただ、大学3年生の1年間を就活に費やす点については学生目線ではよくないと思います。特に修士の1年生が就活に時間を費やさないといけないのは本当に思うところがあって、研究に専念できる環境が重要だと思いますね」

ジョブ型採用とジョブローテーション

入社時点で配属される職種を確定させる「ジョブ型採用」が昨今増えています。Bさん自身も転職を見据えて戦略コンサルを選ばれていましたが、ここについてどう思うか伺いました。

Bさん「今後転職する際には、職種が重要になると思っています。だからこそ仕事が3年くらいでガラッと変わるジョブローテーションは厳しいと正直思います。ただ同時に、ジョブ型採用のように働かないうちから自身の専門性を決めてしまうのはどうなんだろうか、とも思っていて。ローテーションの3年の間に真に向いている仕事を探して、その後はその仕事を極める、とかも良いのではと思いますね」

就職活動をする人に向けて

Bさんのお話を通して感じた以下の2点についてまとめることで、この記事の結びとしようと思います。

コンサルを選ぶということ

コンサルを選ぶうえで、なぜコンサルか、選ぶ背景が非常に重要となることがわかりました。コンサル人気も今が頂点と言われる中で、「とりあえずコンサル」という選択は必ずしも良いとは言い切れません。ただ同時にコンサルがその先の仕事の選択肢を狭めないことも事実であり、多くの業界を考えたうえでコンサルを選ぶなら、それはその人にとって良い選択になるのだと思います。

「好き」と「できる」への向き合い方

自分が「好き」なことと「できる」ことについて、そのどちらも、もしくはどちらか一方を重視するなど、いろいろな選択があると思います。ただ一つだけ共通して重要になると思うのが、今後のキャリアを見据えたうえで行動することの必要性です。今ある程度できる仕事があってそこへの配属を確約してくれる会社に行くことで、専門性を高めて日々楽しく働ける可能性もありますし、一方で視野が広がらないかもしれません。社会人経験がない中で就職に向き合ううえで、自分が将来どうなっていたいのかを考え、実際にその仕事の実態を社会人から聞き、どうすれば最も自身のキャリアプランに近いものを描けるのか、そこを突き詰めることが非常に重要だと感じました。

就職活動で将来を考え抜くことが難しい、だからこそ今後の選択を狭めないコンサルの人気が高い、ということは非常に納得がいきます。周囲に流された訳ではなく考え抜いた先にコンサルを選んだ1人の体験談を通して、自分は将来何がしたいのだろう ?と考えてみたり、実際にコンサルを考えている人も、自分にとってコンサルってどんな選択なんだろう ?と改めて考えてみたり、そんなきっかけになれたら嬉しく思います。

参考
・en-courage「【コンサル業界】コンサルティングファームの違い、あなたは答えられますか?」2022年4月8日
・SEVEN DEX POST「UXデザインとUIデザインの意味や違いをわかりやすく解説|具体的な事例も紹介!」2022年4月8日