半導体のすべてを分かりやすく解説〜半導体って何? 半導体不足の原因は? 日本は遅れている?〜

2023年04月24日・技術 ・by kota

車、スマートフォン、冷蔵庫、テレビ・・・ どれも生活に欠かせないものですが、これらに共通する部品は何でしょうか?

それは、半導体です。半導体、という言葉は耳にすることがここ数年で急激に増えたように感じますね。では、半導体ってそもそも何なのでしょうか?

また、「世界中で半導体が不足している」「日本の半導体産業は遅れている」という話も聞いたことがあると思います。それは、何が起こっているということなのでしょうか?

今回は「半導体とは」「半導体不足はなぜ起きている?」「日本の半導体産業は遅れているの?」の3本立てで、半導体について分かりやすく解説していきます。

半導体とは

ではまず、「半導体とは何なのか」から説明していきます。

半導体とは「絶縁体と導体の中間的な性質を持つもの」をいいます。つまり、条件によって電流を通したり通さなかったりする物体を指します。一般的には、シリコンにホウ素を加えたりリンを加えたりすることで異なる種類の半導体が作られます。

これらの異なる半導体を組み合わせることで、トランジスタダイオードなどができます。トランジスタは、電流を増幅させたり電流の流れる向きを限定したりする性質を持ちます。また、ダイオードは電流の流れる向きを限定する性質を持つほか、発光する性質を追加したものは発光ダイオード(LED)としても用いられます。

さらに、トランジスタやダイオードなどを組み合わせることで、**集積回路(IC)や大規模集積回路(LSI)**が作られます。これらは組み合わせ方によってメモリ機能や論理演算(計算)機能を持たせることができます。このようなICやLSIが、さまざまな電気製品の心臓部分になっているのです。

また、ICやLSI自体を半導体と呼ぶこともしばしばあります。

半導体不足って、何が起きている?

ここまで見てきたように、半導体は現代社会ではなくてはならない製品の、最も重要な部品です。しかし、そんな半導体が不足している、というニュースを見たことがある人もいるでしょう。

例えば、2021年末に半導体不足の影響でiPhoneの減産が決定されたり、昨年の冬には給湯器の製造がほぼストップし壊れても修理できなくなったり・・・

では、このような重大な問題を引き起こした半導体不足の原因は何なのでしょうか?ここでは「需要拡大」「供給不足」の二つの観点から見ていきます。

需要拡大

半導体の需要が拡大した要因はいくつかあります。

1つ目は、コロナ禍によるデジタル化の加速です。新型コロナウイルスの影響でテレワークやオンライン授業が拡大しました。そのため、今までPCやスマートフォンを持っていなかった人が一斉に購入しだしたのです。同時に、すでに持っていた人もこれを機に最新のものや高性能なものに買い替えようとしました。こうして、PCやスマートフォンの需要が一気に拡大したのです。また、コロナ禍による巣ごもり需要の増加で、大型テレビやゲーム機の需要が拡大したことも一因になっています。

2つ目は、ロシアのウクライナ侵攻による武器需要の増加です。半導体は日常的に使う家電製品に使われるだけでなく、もちろん武器にも使用されます。そのため、半導体の需要が軍需産業からも増加した形です。

3つ目は、技術の進歩です。AI、自動運転、5Gへの移行など、半導体が使われる製品がより当たり前に使われるようになり、さらに半導体を用いる分野そのものも増えていきます。つまり、半導体がより必要不可欠なものになっているのです。

供給不足

一方、半導体の生産量にも問題が生じていました。

1つ目は、そもそも半導体製造を行っている企業が少ないことです。半導体には最先端の技術が詰め込まれているため、簡単に参入できるわけではありません。また、工場の新設には2年以上が必要だとも言われており、簡単に増産ができないのが現状です。

2つ目は、米中の対立です。半導体はコンピューターなどに使われるため、軍事力にも大きく貢献します。アメリカ政府は、中国が先端半導体によって軍事力を強化するのを防ぐ狙いで、2022年10月中国への半導体製造装置などの輸出を大幅に規制しました。2021年のデータでは、中国は世界の半導体シェアの16%を占めています。この規制により中国の半導体輸出が抑えられていることが、半導体の供給不足に拍車をかけているのです。

3つ目は、自然災害による工場の操業停止です。2021年2月には半導体工場が集まるテキサスを記録的な寒波が襲い、多くの工場が操業停止を余儀なくされました。また、日本でも2020年10月、2021年3月に半導体工場で火災が発生し、こちらも操業できなくなりました。

このように、需要の拡大に供給が追いつかなくなり、さらにさまざまな要因が重なり半導体不足が深刻になってしまったのです。 しかし、半導体需要の急激な増加が収まり、世界的な景気悪化の影響もあったため、2023年4月現在半導体不足は大部分で解消されていると言われています。

日本の半導体産業は遅れている?

最後のセクションでは、日本の半導体産業の現状を見ていきます。

ひとことでまとめてしまえば、日本の半導体は遅れていると言わざるを得ません。

こちらは、世界の半導体メーカーの売上ランキングです。1986年にはTOP10の内6社が日本企業でしたが、2021年には日本企業が1社もありません。

では、日本の半導体産業が遅れをとっている原因は何なのでしょうか?また、この現状に対し、日本はどのような戦略を持っているのでしょうか?

遅れている原因は?

実は、1990年ごろまでは、日本は半導体の分野で世界をリードする存在でした。この頃は、メモリ機能を持つDRAMや大規模集積回路LSIの技術を持っていました。しかし、1990年代から日本は世界から取り残されて行くのです。何があったのでしょうか?

1つ目の原因は1985年にアメリカと結んだ日米半導体協定です。日本の半導体を脅威に感じたアメリカ政府は、①アメリカ国内で販売される半導体の価格はアメリカ政府が決定すること、②日本国内で使用される半導体の外国製品の割合を規定すること、という内容で日本と協定を締結しました。これにより、日本の半導体は頭を抑えられたような形になりました。

2つ目は、半導体が産業のメインになってきたことです。先ほどの表を見てもわかるように、半導体製造の最前線にいた企業は多様な部門を持つところがほとんどです。つまり、半導体を扱っていたのは大企業の一部門だったのです。しかし、技術が進歩するにつれて半導体の需要が高まり競争も激しくなりました。その中で、大企業の一部門として行われていた日本の半導体製造は企業内での決定権が持てず、半導体の製造を専門で行う企業に太刀打ちできなくなっていったのです。

3つ目は、半導体製造の分業化に乗り遅れたことです。技術の急速な進展により、装置が高度化し、製造に莫大な費用がかかるようになりました。そこで、製造効率を上げるため世界各国の半導体産業は工程別で複数の会社が分業するようになりました。一方、日本は製造を1つの会社の中で完結させる形態を変えませんでした。この結果、世界の潮流から取り残されてしまったのです。

日本の打開策は?

では、この状況を日本はどう打開しようとしているのでしょうか?

1つ目は、TSMCの熊本誘致です。先ほどの表にもあるように、TSMCは世界屈指の半導体製造企業です。そんな企業を国内に誘致することで半導体の国内化を目指しています。

2つ目は、Rapidusという新会社の設立です。この新会社は、トヨタ自動車、デンソー、ソニーグループ、NTT、NEC、ソフトバンク、半導体大手のキオクシア、三菱UFJ銀行の8社が出資して作られた半導体製造企業です。北海道に建設予定の新工場に関しては、経済産業省が補助を出す方針を固めるなど、国からの期待も大きくなっています。Rapidusは自動運転やAIに必要となる、2nm以下の先端半導体の製造・量産化を目指すとしています。この2nmの半導体はまだ実用化されておらず、これが製造・量産できれば日本の半導体が復活するきっかけになり得ます。

このように、新たな半導体の製造を進めるとともに、半導体製造を国内化することで、技術の安全保障を強化する方針です。

最後に

ここまで、半導体についてさまざまな観点から見てきました。現代の生活の基盤になっているとも言える半導体について深く知ることは、この先さらに重要になってくると感じたので、さらに理解を深めたいと思います。

参考

株式会社吉田SKT「半導体とは?種類や役割、使用例などを簡単にわかりやすく解説」2023年4月20日閲覧
東京エレクトロン「半導体とは? 半導体の原理」2023年4月20日
REUTERS「米アップル、iPhone13減産へ 半導体不足で=ブルームバーグ」2021年10月13日
FNNプライムオンライン「寒さ厳しくなるが…“給湯器“壊れると大変 半導体不足で修理が難しい状況に【宮城発】」2021年12月26日
株式会社吉田SKT「なぜ半導体が不足しているのかをわかりやすく解説 ~半導体不足の影響や今後の展望とは」2022年7月
識学総研「疑問解消!半導体不足はなぜ起きた?いつまで続く?」2023年4月17日
東洋経済オンライン「米国の対中半導体輸出規制強化がもたらした衝撃」2021年3月20日
一歩先への道しるべ「続・常態化する半導体不足、その傾向と対策」2023年2月21日
日本半導体歴史館「1986年 世界半導体市場における日本半導体シェアは米国を抜き世界の第一供給者となった」2018年10月17日
ビジネス+IT「半導体メーカーの世界ランキング2021:インテルとサムスンに続くのはあの企業、不足は何年まで続く?」2021年9月8日
NHK「巻き返しなるか日本の半導体産業」2022年11月11日
DIAMOND online「【元NECのトップ技術者が解説!】世界一だった日本の半導体メーカーは、なぜ凋落したのか?」2023年3月4日
Newsweek「日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?」2018年12月25日
NHK解説委員室「TSMC日本工場建設へ~動き出す"半導体安全保障"」2021年10月18日
NHK解説委員室「日本の半導体戦略 "経済安全保障"の課題」2021年7月14日
NHK「先端半導体の国産化目指す「Rapidus」北海道 千歳に工場建設へ」2023年2月27日
NHK「日本企業共同出資「Rapidus」新工場に2600億円を補助へ 経産省」2023年4月24日