バイデン政権、1年目にして大ピンチ(後編)

2021年12月23日・国際 ・#2021年重大トピック ・by Newsdock編集部

バイデン政権の迷走

前編でも少し触れましたが、バイデン氏の求心力が高くなかったこともあり、 バイデン政権は発足直後から国内外で大きな壁に直面 しています。この記事では、政権運営の足かせになっている要因を、2点に分けて解説していきます。

原因①ー共和党・トランプ支持者からの不信感

1点目は、 バイデン政権に対し、共和党やトランプ支持者からの根強い不信感がある 点です。現在アメリカでは、かつてないほど政治的な二極化が進んでいます。これは、民主党・共和党という二大政党をしいているアメリカで、各政党の支持者が固定されがちになることを意味します。では、なぜこのような現象が起きているのでしょうか?

まず、政治的な要因としては、行政と議会の対立が深まっている点が挙げられます。ここ10年間、アメリカでは行政のトップである大統領の出身政党と、議会の多数派を占める政党が一致しない「ねじれ」が生じる場合がよくありました。そうなると、大統領が政策を通そうと思っても、議会の反対でなかなか意思決定をできない場合が増えました。例えば、オバマ元大統領が移民の入国を緩める法案を議会に出した時には、共和党の強い反対にあい、結局法案は可決されませんでした。国民の代表が集まる議会において、「決められない政治」が展開されていることが、政治的な分断を起こす一つの原因となっています。

政府内での分断とは別に、SNSやメディアにおける二極化といった社会的な要因も、こうした亀裂を拡大させています。SNSやメディアの台頭によって、 客観的な事実を把握するよう努めるのではなく、自分の知りたいように物事を解釈 する風潮が強まっていく恐れがあります(こうした傾向は、 「ポスト真実(post-truth)」 として英語辞書に載っています)。例えば、トランプ氏や共和党のFacebookアカウント、またはトランプ支持者をフォローすると、トランプ政権を称賛したり、逆にトランプ氏の「敵」(民主党やバイデン氏など)を攻撃したりする動画や画像がトップ画面に多く流れてきます。このような画面を長く眺めていると、「トランプ氏の主張は正しい。だって周りのフォロワーもそう言っているんだから」と知らぬ間に思い込んでしまう危険が出てきてしまいます。

こうした政治・社会的な分断が深まった結果、共和党・トランプ支持者の間でバイデンに対する不信感が募っています。今年早々に発生した国会議事堂乱入事件(トランプ支持者が、大統領選挙で「不正」をしたバイデン氏を当選させないために、議事手続きを妨害)を見ただけでも、いかにバイデン氏(や民主党)への反発が強いものかが分かるかと思います。

原因②ー内政・外交政策上の迷走

2点目は、 バイデン氏が就任後内政・外交政策において失点を重ねている ことです。バイデン氏の失政は、 別名「ABC問題」 と呼ばれています。

「A」は、アフガニスタン(Afghanistan)における混乱 を指します。アフガニスタンからの軍事撤退は、トランプ政権のときに決定していたのですが、撤退のプロセスに大きな誤りがありました。米軍が一気に引き上げた結果、民間人の避難が遅れ、結局より多くのアメリカ兵を送り込まなくてはならないという皮肉な結果になりました。さらに、ISIS(イスラム国)の自爆テロが発生し、米軍関係者に多くの死傷者が出ました。20年もの間、アフガニスタンの平和のために投じたリソースが無駄になったことに、アメリカ世論は悲しみに包まれました。

「B」はメキシコとの国境(Border)をめぐる問題 です。アメリカの南部州では、不法就労が長い間社会問題になっています。バイデン氏は、トランプ氏が国境沿いに作っていた壁の建設を取りやめ、入国制限を緩めると選挙キャンペーン中に宣言していました。しかし、移民の規制をゆるやかにした途端に、移民が大量に押し寄せ、国境の警備が危うくなりました。そのため、結局大量の移民を強制送還せざるを得ませんでした。このようなはっきりとしたビジョンがない移民政策を厳しく非難する声があがりました。

そして 「C」は、国内でのコロナ(Corona)対応 についてです。バイデン氏は選挙期間中「今年の秋にはコロナを収束させる」と宣言していたものの、今でも感染者数は多いままです。9月以降も、1日平均10万人以上の新規感染が確認されており、死者数は合計80万人に迫る勢いです。2回目のワクチン接種も予定より遅れていて、接種率は60%前後と、G7の中で最も低くなっています。オミクロン株も拡がっているもとでは、感染収束の見通しはつきにくく、アメリカ国内の安定を目指すバイデン政権に向かい風が吹いています。

こうした問題に対し、 共和党やトランプ支持者だけでなく、民主党内からも批判の声が高まっています。

ABC問題の他にも、インフレによる石油価格の高騰 が、バイデン政権にとって大きな痛手となっています。経済を立て直す目的で給付金を国民に配った結果、モノの需要が高まり、物価全般が吊り上がりました。日常生活で自動車をよく利用するアメリカ人にとっては、ガソリン代の上昇は生計を立てるうえで死活問題になるので、インフレを加速させてしまった現政権に批判が集まっています。

バイデン政権の今後

バイデン氏の現在の支持率は、12月前半時点で41パーセントに留まっています。 これは、同時期のオバマ・トランプ両氏よりも10ポイント以上低くなっています。バイデン氏の後継者と期待されているカマラ・ハリス副大統領に至っては同時点で28%と、 現大統領以上に低迷 しています。こうした厳しい政権運営に追い打ちをかけるかのように、民主党が強い支持基盤を持つと言われていたバージニア州の州知事選挙で、共和党のグレン・ヤンキン氏が勝利しました。また、トランプ氏も自身のSNSを立ち上げるなど、2024年に出馬するかのような行動を取っており、次期大統領に向けてバイデン氏は厳しい立場に置かれています。

もちろん、バイデン政権は何も手を打っていないわけではありません。 来年の中間選挙に向けて、功績を残そうと努力しています。

例えば外交面では、「台湾海峡における平和と安定を強化する」との共同声明をG7で出したのをはじめ、来年の北京冬季オリンピックに外交団を派遣しないなど、 中国に対するけん制を強めています。 実際、バイデン政権はイギリス・オーストラリアとタッグを組んで、インド太平洋における軍事的存在感の強化を図っています。先月開かれたCOP26でも、気候変動に対して、石炭火力発電や化石燃料補助金の縮小を共同声明として発表するなど、環境問題への取り組みに後ろ向きだったアメリカの態度を改めようとしています。

内政でも、税制改革をはじめ、経済格差を縮める取り組みを行っています。また、バイデン政権の目玉である インフラ投資案も可決 され、公共事業拡大や雇用創出というプラスの効果が期待されています。

もっとも、安全保障や環境、労働といった分野は、成果がはっきりと見えるまでに時間がかかる課題が多く、 すぐには支持にはつながらないかもしれません。 トランプ政権が、史上最低レベルの失業率や、株価最高値などの「わかりやすい」数値を根拠に支持を固めていたように、バイデン政権も 有権者にアピールしやすい実績を残すことが重要 になってくるかもしれません。

バイデン政権の今後を占う節目は、来年11月の中間選挙になります。この中間選挙は「大統領の中間試験」のようなもので、ここ2年間の政権運営に対して、国民から評価を受けることになります。前回(2018年)の中間選挙では民主党が大躍進し、2020年大統領選の勝利につながりました。それだけに、今回も大統領がどこまで「成績」を伸ばせるかが注目されています。

それまでに、 いかに党派を問わず国民から支持を得られる政策を打ち出せるかがカギ になりそうです。特に先ほど述べたインフラ投資案が、短期間の雇用回復につながれば、バイデン氏の支持率が回復するかもしれません。同時に、ABC問題に代表されるような 失政を防ぐ、もしくは最小化 することも、バイデン離れを食い止めるのに必要になると思われます。

参考

前嶋和弘「アメリカ社会における政治的分断と連帯ーメディアと政治的分極化」2021年12月16日閲覧
Social Media Lab「『信じたいものを信じる」、Post Truth時代へ。ソーシャルメディアはどこへ向かう?」2017年4月24日
東洋経済オンライン「ABC問題で支持率低下したバイデン大統領の今後」2021年9月30日
Retures「米国における新型コロナウイルスの感染状況・グラフ」2021年12月18日閲覧
東洋経済オンライン「『バイデンフレーション』がアメリカ民主党を直撃」2021年12月15日
時事ドットコム「バイデン氏支持率41%に 米世論調査」2021年11月15日
Business Insider Japan「2024年の大統領選にも影響? アメリカ、ハリス副大統領の支持率が28%に低下」2021年11月11日
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアチブ「API国際政治論壇レビュー(2021年9月・10月合併号)」2021年10月27日
ニューズウィーク日本版「画期的なCOP26合意、延長戦の舞台裏」2021年11月14日
読売新聞オンライン「米下院、113兆円規模のインフラ投資法案可決…低支持率に苦しむバイデン政権の『看板』政策」2021年11月6日

ライターのコメント

今アメリカではかつてないほど政治的な二極化が進んでおり、無所属でもない限り全国民から支持されるような人物が大統領になるのは難しいでしょう。もっとも、今回のパンデミックを通して、内政問題への対応を最優先事項に掲げ、外交面では中国の脅威に対抗することが党派を超えた共通の見解となりつつあります。内政面では、「人種間の融和」や「格差の是正」といった抽象的な理念を掲げるのではなく、「全国規模でのインフラ投資の拡大」(バイデン氏)や「食料品税の廃止」(ヤンキン氏)などの具体的な政策に落とし込む形で、着実に遂行していく能力が求められてくるでしょう。外交面では、インド太平洋への関与強化、同盟国との連携強化といった戦略が、国民の安心・安全な暮らしにいかに結びつくかを丁寧に説明していく能力、またトランプ政権で冷え込んだ同盟関係を修復する外交手腕が要求されそうです。このような能力・資質を兼ね備えた人物が、次期大統領に当選するのではないかと考えています。この記事を読まれた皆さんは、アメリカ大統領に何を求めますか?