日経平均株価の基礎知識

2021年12月20日・経済 ・by Newsdock編集部

お昼にテレビでニュースを見ていると、アナウンサーが「株と為替の値動きです」と言うのと同時に、画面に「日経平均株価」というワードと5桁くらいの数字が表示される場面をよく見かけます。テレビや新聞で当たり前のように使われるだけに、ほとんどの人は「日経平均株価」という言葉を聞いたことくらいはあると思います。
では、日経平均株価とは何を意味するのでしょうか? そして、日経平均株価から何を知ることができるのでしょうか? 言葉自体を聞いたことはあっても、日経平均株価の意味や特徴について深く知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。この記事では、日経平均株価の意味と特徴について詳しく解説していきます。

日経平均株価とは

ざっくり言うと、 日経平均株価とは、日本経済新聞社(日経)が日本の会社の中から代表的な225社をピックアップし、それら225社の株価の平均(正確には、それに若干の修正を加えたもの)を計算したもの です。要するに、日本経済新聞社が選んだ225社の株価を1社ずつ足していって、それを最後に225で割れば、日経平均株価の値を大まかに求めることができるわけです(実際の日経平均株価にはこれに加えて若干の修正が入っているので、ここで計算した値とは少しずれます)。やろうと思えば手計算でもできるので、暇つぶしに1回やってみるといいと思います。

日経平均株価のメリット——日経平均株価から何がわかる?

それでは、日経平均株価を計算してその値動きを眺めることには、いったいどのようなメリットがある——つまり、そこから何を知ることができるのでしょうか?

前提知識:株価は「需要」と「供給」で決まる

高校の授業などで聞いたことがあるかもしれませんが、 モノの価格というのは、基本的に「需要」と「供給」で決まります。 モノを買おうとする人が多くなったり(需要が増えたり)、モノを売ろうとする人が少なくなったり(供給が減ったり)するとモノの価格は高くなり、その逆になるとモノの価格は低くなることになります。

株価についても同じことが言えます。ある会社の株を株式市場で買いたい人が多くなれば(その株の需要が増えれば)株価は上がりますし、逆に売りたい人の方が多くなれば(その株の供給が増えれば)株価は下がっていきます。株価というのは、 株式市場でのその株に対する需要と供給のバランス によって決まってくるわけです。

日本の会社の業績や投資家の期待を大まかに知る

では、株を買いたい人が増えて株価が上がっていくのはどんなときなのでしょうか。そもそも、投資家が株を買う主な目的は、会社から配当金(年に1~2回会社の業績に応じて株主に支払われるお金)を受け取ったり、株を買った値段よりも高値で売ったりすることで、金銭的なメリットを得ることです。そうだとすると、投資家が欲しがる株というのは、 会社の業績が良かったり、または将来的に良くなることが期待できたりすることで、将来の値上がりが予想される株 であることがわかります。結局、会社の業績が良かったり、あるいは将来的に良くなることが期待されたりすると、その株に対する投資家の需要が増えることになり、その会社の株価は上がっていくことになるわけです。つまり、株価の値動きに注目することで、 その会社の現在の業績や、将来の業績に対する投資家の予想がどのようであるか が大まかにわかるということになります。

日経平均株価は、そのような性質をもつ株価について、日本を代表する225社の平均をとっているわけですから、 「日本全体として、会社の業績はどうなっているのか、また将来の業績に対する投資家の期待はどうなのか」 という視点を提供してくれます。

日本の景気を知る

今の話からさらに視野を広げてみましょう。もし、日本全体の傾向として会社の業績が良くなったとしたら、それは人々の暮らしにどう影響するでしょうか。まず、会社が上げた利益のうちのいくらかが、ボーナスや賃上げという形で従業員の収入を増やすことに使われるはずです。そうすると、収入が増えたその人たちは、モノを買うのに以前よりも多くのお金を使うようになります。日本全体でそのような流れが生まれると、モノはますます売れるようになって、モノを売る会社の業績はさらに良くなるでしょう。結果として 「会社の業績が良くなる→従業員の給料が高くなる→モノがよく売れる→会社の業績が良くなる……」 というような景気の好循環ができあがることになり、日本がそのように好景気になるのに伴って、会社の株価もどんどん上がっていくことになります。そうだとすると、日本代表225社の株価の平均である日経平均株価が上がっているのか、それとも下がっているのかに注目すれば、 今の日本は全体として好景気なのか、それとも不景気なのか を知ることができるわけです。

歴史上でこれまでに起きた好景気・不景気を見てみると、確かに日経平均株価がそれらの現象に対応した値動きをしていることがわかります。

まず、好景気の代表例として、バブル景気の時代を見てみましょう。1985年に終値が13,083円であった日経平均株価は、日本がバブル景気に入ったその後の5年間で急激に上昇し、1989年12月29日には38,915円という史上最高値をつけています(この記録は現在も破られていません)。そこから日経平均株価は下落しはじめ、バブル崩壊後の1992年には終値16,925円と、1986年ごろと同じ水準にまで逆戻りしています。このような日経平均株価の値動きは、日本が1980年代後半にバブル景気という過度な好景気に突入し、1990年代初頭のバブル崩壊に伴って不景気へと転落していったことと大まかに対応していることがわかります。

もう一つの身近な例として、コロナショック時の日経平均株価について見ておきましょう。2020年前半に注目すると、2月20日に23,479円であった日経平均株価は、その後の1か月で急落し、3月19日には16,358円という安値をつけています。日経平均株価がこのような大暴落を見せた2020年3月がどのような時期だったか振り返ってみると、ちょうど世界で新型コロナウイルスの感染が急激に拡大し、日本でも水際対策の強化や外出自粛要請が行われるなど、新型コロナウイルスが人々の暮らしや経済に大きな影響を及ぼした時期であることがわかります。

このように、日本を代表する会社の株価を平均したものである日経平均株価を見ることによって、 日本の会社は全体としてどのような状態にあり、日本の景気はどのような状態にあるか を知ることができるわけです。これが、日経平均株価に注目する最大のメリットと言えます。

日経平均株価のデメリット——日経平均株価は万能なのか?

以上見てきたように、日本が全体としてどのような経済状況にあるのか知りたいときには、日経平均株価はシンプルながら非常に便利なツールとなってくれます。ただ、そうはいっても、日経平均株価は万能なわけではなく、 シンプルであるがゆえの限界 というのも存在します。どのような状況でそれが問題になるのか見ていきましょう。

前提知識:株価が高い≠会社の規模が大きい

実は、 株価それ自体から会社の規模を知ることはできません。 株価10,000円のA社が株価5,000円のB社より2倍大きいわけではありませんし、むしろ後者の方がずっと大きい会社であることだってありえます。なぜでしょう?

株価×発行済株式数によって計算される金額のことを「時価総額」といいます。時価総額は、「投資家たちは、この会社の価値をいくらだと思っているか?」という評価額を表し、それは会社の規模に対応することになります。

もし、発行済株式数が全ての会社で同じなのだとすれば、株価それ自体から時価総額を知ることができますし、異なる会社同士で株価を比べることにも意味があるでしょうが、しかし現実にはそうではありません。株をどれくらい発行するかはそれぞれの会社の経営判断に任せられており、発行済株式数は会社によって全く異なるのです。その結果、1株あたりの価格はA社のほうが高くても、B社の発行済株式数がA社よりはるかに多ければ、会社の規模を示す時価総額で比べるとB社が逆転している、というような現象が起きうるんですね。

会社の規模は株価×発行済株式数で求まる時価総額によって表される。そして、発行済株式数は会社によってバラバラで、株を安く大量に発行している会社もあれば、少ない株を高値で取引するような会社もある。だから、 株価そのものから会社の規模を知ることはできない ということになります。この前提知識をもとに、日経平均株価のデメリットはどこにあるのか考えてみましょう。

小さな会社の影響が大きすぎる

冒頭で述べたように、日経平均株価は基本的には225社の株価の単純平均として計算されます。そして、その計算では、それぞれの会社の時価総額(会社の規模の大きさ)は考慮されていません。言い換えれば、日経平均株価は、「値動きしたのはどの会社なのか」という点には注目せず、たとえば時価総額10兆円のA社の株価が1円値上がりしたのと、時価総額1兆円のB社の株価が1円値上がりしたのを区別することなく、 等しく「1円の値上がり」としてカウントしている ことになります。

日経平均株価の構成銘柄はどれも日本を代表する会社であるとはいえ、その中にも規模の比較的大きいものと小さいものが存在します。そうだとすれば、同じ1円だったとしても、より大規模な会社の株価の値動きのほうが、日本の経済や景気に与える影響は大きいはずであり、日経平均株価に「日本経済の指標」としての役割を期待するのであれば、それを反映して、 大きな会社の影響がより大きくなるような計算方法を採用するほうが自然 なはずです。そのような意味で、基本的に会社ごとの株価の単純平均である日経平均株価は、 比較的小さな会社の影響を過大評価している 、逆に言えば、 比較的大きな会社の影響を小さく見積もりすぎているのではないか 、という批判がなされています。

値がさ株の影響が大きすぎる

1株あたりの株価が高い銘柄を通称「値がさ株」といいますが、日経平均株価は、このような 値がさ株の値動きに必要以上に大きく振り回されてしまいます。 この現象について、簡単な例を通して理解しておきましょう。日経平均株価を構成する225社が、以下の表のような状況、つまりA社だけ株価が10,000円で、B社を含む他の224社が株価100円であるような場合を考えてみます(簡単のために、実際の日経平均株価の計算で行われているやや複雑な調整は考えないこととします)。

このような状況の場合、どの会社も時価総額は100万円で等しいわけですから、A社株の値動きとB社株の値動きが日経平均株価の値動きに与える影響は同じであることが望ましいはずです。ところが、実際に計算してみると全くそうでないことがわかります。

もし、先ほどの状況からA社の株価が2倍になったとしたら、日経平均株価はどうなるでしょうか。A社の株価は20000円になっているわけですから、それを反映して計算すれば、日経平均株価は(20000×1+100×224)÷225≒188.4円となり、44円ほど高くなっていることがわかります。

一方、A社ではなくB社の株価が2倍になったとしたらどうでしょうか。この場合の株価はA社が10000円、B社が200円、他の223社が100円なので、日経平均株価は(10000×1+200×1+100×223)÷225≒144.4円。なんと4円ちょっとしか高くなっていません。A社とB社で時価総額は同じであるはずなのに、株価が異なるというだけで、日経平均株価に与える影響の大きさにこれほどの差が生じてしまうのです。

このように、日経平均株価には、 株価が高い会社の動向に大きく影響されてしまい、株価が安い会社の動向をうまく反映できない というデメリットがあります。実際の構成銘柄を見てみると、ユニクロの経営母体であるファーストリテイリングの株価が非常に高く(2021年12月20日現在の日経平均株価が27,937.81円であるのに対し、ファーストリテイリングは68,060円)、同社の株価が日経平均株価の値動きに非常に大きな影響力をもっていることがわかります。このことを指して、「日経平均株価はユニクロ指数である」なんて批判されることもあるようです。   

まとめ&日経平均株価のこれから

さて、この記事では、日経平均株価とはなんなのか、その意味から説明を始め、その数字からどのようなことがわかるのか、そしてどのような限界があるのか、というところまで概観してみました。

余談ですが、日経平均株価以外のメジャーな株価指数として、「東証株価指数(TOPIX)」というものがあるのをご存じでしょうか。TOPIXは、会社の時価総額を考慮に入れた「時価総額加重平均型」の指数であり、「日本経済の指標」としては、日経平均株価よりも歪みが少なく、信頼性も高いものであることが知られています。「海外の投資家はすでに日経平均株価よりもTOPIXを重視している」と言われてきており、「現在の日経平均株価の地位はいずれTOPIXに奪われるのではないか」という噂もされるところです。一方の日経平均株価も、2021年の銘柄変更にあわせて計算方法の見直しを行い、「株価換算係数」という新たな調整方法を導入しました。将来的に既存の銘柄に対する株価換算係数の調整が行われることになれば、上に述べたようなデメリット(特に2番目の「ユニクロ指数」問題)は少しずつ解消されていくと見られています。日経平均株価とTOPIXによる経済指標の覇権争いに注目してみるのも面白いかもしれませんね。

この記事を読んで、日経平均株価について理解できた、また経済に少しでも興味をもてたという方がいらっしゃれば、それ以上の幸せはありません。最後までお付き合いいただきありがとうございました。

参考

ダロン・アセモグル/デヴィッド・レイブソン/ジョン・リスト『アセモグル/レイブソン/リスト マクロ経済学』2019
日本経済新聞「日本株『一極集中相場』の裏にあるもの」12月11日閲覧
ITmediaビジネスオンライン「“落ち目”の日経平均、任天堂の採用でも復権は厳しいワケ」12月13日閲覧
日本経済新聞社「日経平均株価の算出要領および構成銘柄選定基準の改定について」12月11日閲覧
NHK「1からわかる!景気【上】好景気、不景気、景気後退って何?」12月14日閲覧