裁判で読み解く夫婦別姓ー2015年と2021年の比較ー

2021年12月10日・社会 ・by Newsdock編集部

ジェンダー平等への意識が高まっている今日、夫婦別姓について耳にすることも増えたのではないでしょうか。夫婦別姓をめぐる裁判は2015年と2021年に2度行われましたが、いずれの年も夫婦同姓を認める民法は憲法違反ではないという判決が下されました。しかし、 いずれの判決も裁判官の中で意見が割れたことが話題になりました。 概ね変わらない2回の判決ですが、裁判官の意見を比較するとやや異なる点もあります。そこで、 2015年と2021年の判決と比較し、夫婦別姓に賛同した裁判官の意見がどのように変化したのかを見ていきましょう。

夫婦別姓とは

そもそもですが、夫婦別姓は2つの意味を含んでいます。

1つ目が、選択的夫婦別姓制度。希望する夫婦が結婚後にそれぞれの結婚前の姓を名乗ることも認めるというもの。

2つ目が、例外的夫婦別姓制度。夫婦は同じ姓を名乗るという現在の制度を原則としつつ、例外的に夫婦が結婚後にそれぞれの結婚前の姓を名乗ることも認めるという考え方のこと。

今回取り上げる2つの判決は1つ目の「選択的夫婦別姓制度」についてのものです。

2021年の判決

裁判の流れ

2021年6月23日、「夫婦別姓を認めない民法第750条の規定が憲法に反するか」という争点について判決が下されました。この裁判では、最高裁判所において2015年以来2度目となる「民法の規定が憲法に反してはいない」という合憲判断がくだされ、最高裁判所の判断に変化はありませんでした。

15人中11人の裁判官が合憲としたため判決としては合憲判断になりましたが、15人のうち4人の裁判官から「夫婦同姓は憲法第24条に反する」という意見が出ていた点が注目すべきポイントです。憲法第24条とは、「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立するもので、配偶者の選択等に関して、個人の尊厳と両性の本質的平等に即して制定されなければならない」と定めているものです。では、どんな理由で反対意見が出ていたのでしょうか。

反対意見の要旨

夫婦同姓は憲法に反するとした4名の裁判官の主張をまとめたのが以下のものです。

・夫婦同性が婚姻の要件となることで意思決定を阻害するなら、公共の福祉の観点から合理性があるということはできない

・当事者の婚姻をする場合の意思決定に対する不当な国家介入

・導入により向上する国民の福利は、同制度を導入することによって減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白

・さまざまな分野において、継続的に社会と関わる活動等に携わる女性も大きく増加し、婚姻前の氏の維持に係る利益の重要性は、一層切実なものとなっている

このように反対意見は結婚を「国民の意思決定」と捉えています。そしてその 決定を国家が阻害することへの懸念が反対意見の根底にあると言えます。結婚前の観点から、夫婦別姓へ賛同する理由が語られています ね。

世の中の反応

2021年の10月に行われた衆議院選挙で、夫婦別姓は重要な争点の一つとして扱われ、自民党以外は導入に積極的な姿勢を明言していました。もっとも、自民党と連立で与党となった公明党は積極的であり、今後議論が一気に進展する可能性は十分にあります。そもそも、選挙で争点となったこと自体が2021年における国民の関心の高さを反映しているのでしょう。

2015年の判決

2015年にも、2021年と同様の夫婦別姓についての裁判が行われていました。どんな裁判だったか、これからみていきましょう。2021年の裁判と比べながら読んでみてください。

裁判の流れ

選択的夫婦別姓に関して2015年12月16日に最高裁判所で下された判決内容は「夫婦別姓を認めない民法第750条の規定は憲法違反ではない」との内容でした。15人中10人の裁判官が合憲としたため判決としては合憲判断になりましたが、2015年の判決でも5人の裁判官から「夫婦同姓は憲法第24条に反する」という意見が出ていました。

反対意見の要旨

5人の反対意見を要約したものがこちらです。

・婚姻前の氏使用は、女性の社会進出の推進、仕事と家庭の両立策などによって婚姻前から継続する社会生活を送る女性が増加するとともにその合理性と必要性が増している<br>・自己喪失感といった負担を負うことになり、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度といえない<br>・同氏でない婚姻をした夫婦は破綻しやすくなる、あるいは、夫婦間の子の生育がうまくいかなくなるという根拠はない<br>・未成熟子に対する養育の責任と義務という点において、夫婦であるか否か、同氏であるか否かは関わりがない

このように、2015年は、夫婦同姓によって女性が姓を失うことで被る不利益や、夫婦が別姓でも子育てに悪影響があるわけでないという意見など、 結婚後の観点からの話が目立ちます。また、精神的な影響など感情に寄り添ったものが見られるのも特徴だと言えます。

世の中の反応

こうして夫婦別姓に理解を示す声が裁判というオフィシャルな場で示されたことは、その後の社会にどのような影響があったのでしょうか? この判決から2年後の2017年12月の世論調査を例にとると、選択的夫婦別姓制度を導入を容認すると回答した人が、42.5%と過去の調査のうちで最高の値を示しました。判決が直接的に影響を及ぼしたとは言い切れませんが、徐々に夫婦別姓へ理解を示す人が増えてきた時代であったと言えるでしょう。

2015年と2021年の比較

では、この2回の判決における裁判官の主張を比較してみると、どうだったのでしょう?

まず 共通している点は、女性の社会進出ゆえに苗字を変更しないほうが便利、という実際に生活を送る上での支障を踏まえての主張です。 女性の社会進出は2015年から一貫して進み続けており、こうした社会の変化に応じて、夫婦別姓が依然必要とされていることがわかるでしょう。

一方で異なる点は、 結婚前の観点と結婚後の観点、どちらから捉えるのかというところです。 2015年は、女性の精神的ショックや結婚後の子どもの苗字など、実際に結婚した後に夫婦別姓で困ることは何か、という観点からの主張が多いです。一方で2021年は、結婚に踏み切ることを国家が妨げてはならない、と結婚前の観点からの主張が特徴的です。

今後

以上のように、2015年と2021年の選択的夫婦別姓をめぐる裁判とその主張を見てきました。ジェンダーへの関心の高まりや衆議院選挙での注目度合いなどを考えると、導入しないという明言であれ、導入に向けた憲法改正であれ、何かしらの動きがあることは予想できます。来たる2022年も引き続き注目していきたいトピックです。