紅白歌合戦の新ロゴから見るロゴデザイン

2021年12月02日・社会 ・by Newsdock編集部

年末の風物詩、紅白歌合戦の新しいロゴが10月29日に発表され、大きな話題を呼びました。後で触れますが、今回の紅白の新しいロゴは、込められたメッセージが明確に伝わるものであり、さらに多くの人が「かっこいい」と感じるデザインだったようで、好意的な反応が多かったように感じます。

一方で、大企業が会社のロゴ(コーポレートロゴ)をリニューアルしたり、大きなイベントのロゴが発表されたりするたびに、「ダサい」「お金をかけすぎ」などさまざまな声が上がり、またそれに対してデザイナーが「いやこの値段はむしろ安い」などと反論するという構図を見かけます。一般の方がロゴとは何なのかを知る機会がなく、またデザイナー側も一般の方に丁寧に説明する機会が不足しているためにこのようなことが起こってしまうのだと感じます。そこで、この記事では、 「ロゴ」が何のために作られ、どのような意味をもつのか について、今回の紅白歌合戦のロゴを切り口に見ていきます。この記事を「ロゴ」について知るきっかけにしていただけたらと思います。

紅白歌合戦の変化

紅白歌合戦のロゴ以外の変化

今回のロゴの刷新と同じタイミングで注目を浴びた変更点が、「司会」の呼称変更です。これまで使用していた「紅組司会」・「白組司会」・「総合司会」という呼称をやめ、すべて「司会」に統一することが発表されました。

また、今年の番組テーマは「Colorful〜カラフル〜」と発表されました。番組Webサイトの説明には「『カラフル』には、多様な価値観を認め合おうという思いも込められています。」と書かれています。

紅白歌合戦の、女性歌手と男性歌手が紅組と白組に分かれて競うという形式に対して、近年では 時代に合っていないという声が上がる ようになっていました。出場歌手が紅組と白組に分かれるという形式こそ今回は変わらないようですが、そうした流れの中で、紅白歌合戦も 時代に合わせて変化していく 姿勢を見せたと言えます。

新しくなったロゴ

昨年まで使用されていたロゴ

今回新しくなったロゴ

今回、グラフィックデザイナーの佐々木俊氏によってロゴが刷新されました。新しくなったロゴの最も大きな特徴は、 赤と白のグラデーションで構成されていること でしょう。赤と白がはっきり塗り分けられ、「男女」の区別を強く感じさせていたこれまでのロゴと違って、「紅白」の境目をはっきりと区別しないグラデーションで、「多様性」や紅白歌合戦という番組が時代に合わせて変化していこうとする姿勢を表現したことが称賛されている理由だと思います。

また、ロゴをただ色で塗っているだけではなく、一つひとつの粒が感じられるような、ざらついた塗り方の表現になっていることは、 一人ひとりの個性を大切にする ことを表しているかもしれないと推測できます。
右端の白も真っ白ではなく、やや青みがかった白になっています。これも、多様性を考えたときに「真っ白」という型にはまるような人はいないというメッセージの現れかもしれません。

ロゴデザインって?

ロゴはなぜ必要?

そもそも「ロゴ」は何のために作られ、使われるのでしょうか。

ロゴがなぜ必要かを説明する際、「企業やサービスなどが顧客と触れる際に、ロゴがあることで視覚的に印象に残りやすい。企業やサービスのイメージを形作っていくうえで、ロゴがあることで ロゴとともに良いイメージを持ってもらえる 」といったような説明がされることが多いです。例えば、ユニクロやセブン-イレブンのロゴを制作した佐藤可士和氏は、インタビューで「ロゴは社会に伝えたい事の本質を、端的に凝縮してビジュアル化した情報である」と述べています。

良いロゴとは?

ここまでの「ロゴ」が何のために作られるかの説明から、「良いロゴ」は単に「かっこいい」だけではなく、もっと他に求められる要素があるとわかります。もちろん「かっこいい」かどうかも大切で、造形として美しいことが求められます。さらに、ロゴが使われる用途に応じて、スマートフォンのアイコンから屋外の看板まで、どの媒体で見て印象が変わらず、時間が経っても古くさく見えない「耐久性」をはじめ、ロゴの 機能性も大切 になってきます。

それに加えて、 企業やサービスの理念やコンセプトをしっかりと表現したものである ことが非常に大切です。ロゴデザインを専門で手がけるようなデザイナーの方の場合、ロゴを作成するプロセスの中で、依頼した企業の方へのインタビューをしてコンセプトを固めるところにかなり多くの時間を使っています。おそらく、デザインにあまり詳しくない方の想像と最も異なるところはこの部分かなと思います。良いロゴには、その背景に 説得力のあるストーリーが盛り込まれている ものなのです。

理念やコンセプトがしっかりと盛り込まれたロゴは、社内に向けての役割も果たします。そのようなロゴを掲げることで、目指すべき方向や大切にしたいことを社員がより意識できるようになります。

ここまでをまとめると、「良いロゴ」は、美しいのはもちろん、機能性が高く、理念を盛り込んだストーリーがあるものといえます。

紅白の新ロゴは何が良い?

今回新しくなった紅白歌合戦のロゴは、(私が評価するのは恐れ多いのですが)このようなロゴに求める要件を高く満たしていたからこそ、発表された時に称賛の声が多く上がったのだと思います。特に、「男女」の性別で組を分けるという方式に批判的な意見もあるなかで、赤と白のグラデーションを使うことで、 時代に合わせて変化していく意思を表明できている ことが何よりインパクトの大きかった部分です。そして、そんな今までのロゴと比べると斬新とも言えるロゴを、 番組担当者が採用した ことは内外に向けての変化していく姿勢をアピールすることになりました。そして、デザイナーだけでなく、デザインに詳しくない一般の方から見ても第一印象として「かっこいい」と思えるロゴだったし、込められたメッセージも伝わりやすいものでした。だからこそ、デザイナーと一般の人で意見が異なるということも少なかったのかなと思います。

今後、紅白歌合戦が時代に合わせてどんな変化を遂げていくのか、新しくなったロゴとともに楽しみに見ていきたいですね。

参考

ビジネス+IT「佐藤可士和氏に聞く『ロゴ』とは何か? デザインの『作り方』のポイント」2020年10月28日
COSYDESIGN Inc.「ロゴの基礎知識」2021年12月2日閲覧