食欲の秋に考えたい、フードロス

2021年10月31日・環境 ・by Newsdock編集部

10月は「フードロス月間」!

10月を表す言葉「食欲の秋」

皆さんは10月と聞いて何を連想しますか? 運動会、もみじ狩り、ハロウィンなどの恒例行事をイメージする人も多いでしょう。筆者も昔、10月に組体操の練習をし、嵐山の紅葉を眺め、31日にお菓子をたくさんほおばりました……。さて、秋といえば「食欲の秋」の真っ只中です。サンマやシイタケ、ナシ・カキといった海の幸・山の幸が大量に陳列され、道行く人の食欲をそそるのです。

「食欲の秋」と一緒に押さえておきたいフレーズ

ただ残念ながら、店の食品はすべて消費されるわけではなく、売れ残りを処分されたり、家庭の残り物が捨てられてしまう場合も多くあります。 日本では、毎年約600万トンの食料が捨てられていきます。 わかりやすくいえば、日本人全員が、賞味期限が切れていないおにぎり1個を毎日ゴミ箱に捨てているようなものです。このペースだと2か月で東京ドームが上から下まで埋まってしまいます。こんな感じで、 まだ食べられるものが捨てられる現象を「フード(食品)ロス」といいます。 実は 10月は「フードロス削減月間」に指定 されています! ということで、この記事では、フードロスが問題になった背景や日本での取り組みを紹介しつつ、自分たちにできることは何かを考えていきます。

フードロスの実態

フードロスが注目を集めたきっかけ

2015年、国連でSDGs(=持続可能な開発目標)が提唱されました。SDGsというのは、Sustainable Development Goalsの頭文字を取ったもので、地球温暖化や人口爆発などいろいろな国際問題が生じる中で、2030年までに世界全体で取り組むべき課題を17に分けたものです。そして、 項目12の「つくる責任・つかう責任」で、食料の損失・廃棄の削減が盛り込まれました 。というのも、フードロスは、地球規模の課題と深く結びついているからです。例えば、世界では5.6秒に1人が餓死しています。もし世界でのフードロスを今の半分に抑え、余分な食料を貧困地域に回せたら、飢餓問題の解決が大きく進展するでしょう。同時に廃棄物を減らすことは、山林や海洋の汚染を防ぎ、地球環境の改善につながります。国連という世界最大の国際組織でフードロスの問題が取り上げられたことで、フードロス削減の重要性が広く認識されるようになり、世界各国で取り組みが推進されていきました。

日本でフードロスがなくならない原因

国内外でこんなに関心が高まっているのに、日本ではどうしてフードロスの問題はなくならないんでしょうか? 今回は、生産者・消費者のそれぞれの側から問題を考えていきます。

食品販売の掟

よく言われているのが、日本特有の商習慣である 「3分の1ルール」の存在 です。これは、製造日から賞味期限までの期間全体の3分の2に『販売期限』を設け、そこに達すると、まだ3分の1の期間が残っているのに棚から撤去するという暗黙の決まりです。例えば、工場で作ったマロンケーキが60日もつ品物だったとしても、製造から40日経てば捨てることになります。「3分の1ルール」は法律ではないので、食品メーカーをはじめとする業者が必ず守る必要はありません。だけど、事業者は賞味期限を厳しく切ることが多いんです。なぜでしょうか?

理由の一つとしては、 事業者は食べ物が消費者に届くまでの一部始終を追えない ことです。さっきのマロンケーキの例で言えば、品物がトラックで運び出された後の管理は全部出荷先に任されます。暖かい地域のお店で光を浴びすぎたり、お客さんがすぐ冷蔵庫に入れなかったりした場合、腐りやすくなります。こうしたリスクを考えると、賞味期限を引き伸ばしづらくなるのです。

②消費者側の態度

ここまで見ると、「賞味期限緩くする法律作ったらいいじゃん!」ってなると思いますよね。ところがどっこい、 賞味期限を後ろ倒しされにくいのは、消費者の態度による ところも大きいんです。皆さんも、スーパーに行って棚の奥の商品(つまり賞味期限までにはまだ日がある商品)につい手が伸びてしまったことはないでしょうか。そんなあなたは、 賞味期限と消費期限をごっちゃにしている のかもしれません。「賞味期限」とは、食品を「おいしく」頂ける期間を指します。一方の「消費期限」は、食品がまずくなる前の期間を指しています。この2つを混同している日本人が多くいることが消費者庁の調査でも示されており、「賞味期限を過ぎた食品はもう口にできない」との誤解も生まれています。消費者あってこそ成り立つ食品業界。消費者の購買行動によって、3分の1ルールを破れない事業者も目立つのです。

加えて、 われわれの消費行動もこの問題に強く関わっています。 年間600万トンのフードロスのうち、4割以上が家庭から廃棄されています。その主な要因としては、過剰除去(食べられる部分まで捨ててしまう)、直接廃棄(家で保存した食品を手つかずのまま捨てる)、残飯が挙げられます。このうち残飯が最も多く、100万トンを軽く超えます。コロナで数多くの飲食店が休業・閉店となったものの、フードロス削減は達成されていないのが実情です。家庭でフードロス削減に継続的に取り組めない理由としては、 取り組みの結果が可視化されにくい 点が指摘されています。

私たちができること

フードロスについてもっと知ろう

物事を良い方向に進めるには、まず「正しく知る」ことが何よりも大切 です。残念ながら、 日本の若者(ここでは、19-29歳を指す) は他の世代に比べて、フードロス自体への認知度は高くありません。昨年の消費者庁のアンケート調査によると、食品ロスについて「よく知っている」「知っている」と答えた人の割合は、全世代の中で20代が最も低かったとの結果が出ています。先ほど述べた通り、フードロスはさまざまな世界中の問題と関わっており、早急に解決していく必要があります。また、ある民間企業の意識調査では、 日本の若者は、フードロスが二酸化炭素増加をもたらしていることへの認識も、他の世代と比べて低い とのデータが示されています。そこで、フードロスとCO2排出の関係について深く知っておく必要があります。とはいっても、「CO2排出量が増えたから何?」と考える読者も少なくはないはずでしょう。確かに、空気中のCO2量が多くなったからと言って即死するわけではない。また、CO2が増えても環境破壊につながらないという言説もささやかれていますよね。ただし、自分たちの生活に本当に損失がないか、もう少し広い目で考えてみましょう。

日本の食料自給率は、40%前後です。言い換えると、 今現在口にしているものの約6割は輸入品 です。そして、木々を伐採した跡地の畑や池で育てたバナナやマグロをはじめ、自然環境を無理やり作り変えて売られる輸入品も多い。 私たちの豊かな生活は、当然のように与えられているのではなく、見知らぬ土地の資源を搾取しつつ形作られている ところもあります。グローバル化によるマイナスの影響を強く受ける国や地域をグローバルサウスと呼びますが、このエリアの資源も限度があります。CO2の排出量が増えることで、気温が上昇し、その結果海面が上昇すれば、貴重なグローバルサウスのリソースも急速に枯渇します。これに新型コロナのようなパンデミックが重なり、 食料供給が寸断されれば、私たちは食に関してとてもひもじい思いをする ことになるでしょう。フードロスは、決して他人事ではないのです。

小さなことからコツコツと

フードロスを減らすには、さまざまな立場の人が協力する必要 があります。例えばパンの廃棄量を減らそうと思ったら、パンメーカーが向上に大きな貯蔵庫を設けるだけでは不十分で、余り物の流通経路を確保する自治体、パンを実際に無料で配るボランティア団体と手を組まないといけません。実際、行政や民間企業、NGO・NPO団体も、お互いに手を携えつつ創意工夫を凝らしています。

そして、 わたしたち消費者も行動していかなければなりません 。アプリの開発や、団体の設立など、何も大掛かりなことはしなくてもかまいません。皮が多いフルーツや野菜をジューサーにかける、痛めてスープに入れる、そもそも食べ残しをしないなど、 日頃の生活で実践できることはいくらでもある と思います。嬉しいことに、今回のコロナ禍で、フードロス削減への関心が他の世代に比べて低かった若者世代が、よりフードロスに関心を持つようになったという調査結果も出ています。こうした良い傾向を一過性のものにせず、慣習として定着させられるかは、我々一人一人の意識にかかっているといえるでしょう。

参考

All About「食品ロスを減らすために、私たちができることは?」2012年3月5日
政府広報オンライン「もったいない! 食べられるのに捨てられる『食品ロス』を減らそう」2021年5月19日
MIRAI Times「SDGs達成のため、『食品ロス』を減らそう、なくそう」2020年11月06日
昭和産業株式会社「日本の食品ロスはどうして起きるの?」2019年4月
ダイヤモンド・オンライン「賞味期限が短すぎ?日本の『食品ロス』が膨大な量になる理由」2019年2月8日
SankeiBiz「​​スーパーの張り紙は効果抜群? 家庭の食品ロス削減…消費者庁の知られざる苦悩」2021年10月24日
農林水産省食料産業局「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢」2021年10月30日閲覧
消費者庁消費者教育推進課食品ロス削減推進室「令和2年度消費者の意識に関する調査結果報告書」2021年4月
株式会社クラダシ「クラダシが『フードロスに関する意識調査』を実施~新型コロナウイルス感染拡大前と比較してフードロスへの関心が高まったと答えた人は72.3%~」2021年9月27日
日本経済新聞「​​フードロス削減、活動盛ん 首都圏 消費者の関心高まる 都内飲食店、規格外野菜使い料理」2020年12月12日

ライターのコメント

フードロスの問題は、「食」という領域だけにはとどまらない複雑な問題です。それゆえ、一人一人の努力の成果がなかなか可視化されにくいのも現実です。確かに、自分の頑張りが具体的な形にならなかったら良い気分はしませんよね。そうであれば、頑張りそのものを「見える化」してしまったらどうでしょうか。卑近な例ですが、食材を使い切る「サルベージ料理」を何日か連続で撮って後で見返してみるとか。取り組みの過程をしっかり残しておくだけでも、何もしない場合よりかは「やりきった」「またやろう」というポジティブな発想が湧いてくるのではないかと思います。さあ、あなたはこの問題とどう向き合いますか?