「派閥」を知って政治に詳しくなろう!

2021年10月27日・政治 ・by Newsdock編集部

国内政治のニュースに必ずと言っていいほど出てくる「○○派」という言葉。これが、今回のテーマです。この「派閥」は実は2021年に行われた自民党総裁選挙でも大きな役割を果たしたんです。「派閥」の意味を知って、ニュースをより深く理解できるようになりましょう!

今回はそもそも派閥とは何なのかということ、そして派閥政治にどのようなメリットと問題点があるのか、 自由民主党(自民党)の派閥に注目して 見ていきます(日本の政党で「派閥」があるのは自民党だけです)。

そもそも「派閥」とは?

政治用語としての「派閥」は、「特定の政治家のもとに結集している議員の集団」を指し、同じ政党の中で作られます。特に自民党では派閥が活発なので、派閥同士が対立するなんてこともあります。派閥は政党のように法律で条件が色々と決まっている組織ではないので、議員が同志を集めて自由に派閥を作ることができます。

ただし、後で述べるように派閥では議員の勉強会などが行われていて、公的な組織のような一面も持っています。

なぜ派閥が存在するのか?

ここで疑問に思った人もいるかもしれません。同じ政党に所属する議員は同じ理念を持っているはずです。それなのになぜ派閥に分かれて、ときには対立することもあるのでしょうか?

答えは、党の理念から生まれる具体的な政策についての考え方にはバリエーションがあるからです。

2021年10月25日現在、自民党にある7派閥の創立年、所属人数と目指しているものは下の表のようになっています。現在の派の前身の創立年を記した派閥もあります。「目指しているもの」が空白になっている派閥は、それについて記載がなかった派閥です。

派閥に所属する議員は、基本的には総裁選挙のときにそのトップを総裁にするために活動します。ただし、トップが総裁に立候補せずほかの派閥の候補者を支援する場合も結構あります。そして、所属議員の選挙の支援、政治資金の調達と提供、所属議員の閣僚などへの推薦を派閥が行います。

「無派閥」とは?

自民党の議員全員が派閥に所属しているわけではありません。「無派閥」と呼ばれる議員もたくさんいます。「無派閥」とは、どの派閥にも属さない議員たちのことです。前総理大臣の菅義偉さんは実は無派閥の議員なんです。菅さんは2009年の総裁選挙で、当時自身が所属していた派閥とは別派閥の候補者を支持したことをきっかけに、派閥を脱退。その後「党の年功序列、派閥、そうした古い体質を変える」と発言して派閥政治を否定し、無派閥として活動していました。総裁、総理大臣となった無派閥議員は菅さんが初めてなのです。

そうは言うものの、結局は、それができたのは派閥の力が大きかったようです。菅さんは個人的に親交の深かった二階幹事長から、4番目に大きい派閥である二階派の全面的な支持を取り付けました。それをきっかけにほかの派閥も次々と菅さんの支持を表明し、結果的に総裁選挙は全体の7割以上の票を獲得した菅さんの圧勝となり無派閥出身の総理大臣が誕生したのです。

派閥政治のメリット

派閥があることには自民党にとってどんなメリットがあるのでしょうか。一つ目のメリットは、派閥が勉強会や新人議員の研修会をひらくことで 所属議員の質が上がり、自民党の議員全体の質ひいては日本の政治の質の向上につながる ということです。公表されている資料を見ると、例えば細田派では、経済・外交・科学技術・医学などさまざまな分野のテーマで社長、大学教授、議員などによる講演会が年に十数回程度行われているようです。

二つ目に、自民党が多様性を持つようになります。もしも派閥を作ることが許されていなかったらどうなるでしょう? 先ほど紹介したように派閥は党の理念から派生したそれぞれ異なる思想を掲げているので、派閥が許されなかったら自民党の議員は全員同じ思想を持つように求められることになります。そうすると、現在の日本政治は自民党一強なので、「ただ一つの思想に基づいた政策が提案され実現される」ということが起こります。これでは政治が柔軟性を失って、目まぐるしく変わる社会に対応できなくなるかもしれません。派閥が存在し 自民党内の思想が多様性を持つことで、さまざまな事態に対応できる のです。多様性があることで党内の議論が活発になるということですね。

派閥政治の問題点

派閥政治にはメリットだけではなく、いくつかの問題点もあるといわれています。今回は2021年に行われた菅さんの後任を選ぶ総裁選挙で派閥がどう動いたのか見て、どのような問題点があったのか考えていきましょう。

派閥政治の具体例~2021年総裁選挙~

4候補で争われたこの総裁選挙。結果は岸田文雄さんと河野太郎さんによる決戦投票(1回目の投票で過半数の票を獲得した候補がいなかったため上位2人の両者で行われた)の結果、岸田さんが勝利しました。

菅さんの突然の辞任表明を受けたこの総裁選挙では、当初派閥は支持する候補者を絞り込めていませんでした。一番大きな要因は、内閣支持率が下がっている中で衆議院選挙が迫っていたことです。議員は「新総裁を本気で選ばないと選挙に落ちるかも!」という危機感を持ち、総裁選びで派閥の方針に従ってはいられない議員が多くいました。これによりこの選挙が派閥の意向に左右されない、「派閥・フリー」なものになるのではないかと予想する声もありました。この危機感が一つの要因となって中堅や若手議員の間では、世間での人気が高く衆議院選挙でも「自民党の顔」となってくれそうな河野氏への支持が広がったといいます。

しかし、その支持は次第に勢いを失っていきました。理由の一つ目は河野さんの掲げる政策への支持が減ったことです。原発政策や年金政策に対する他候補の追及に十分に答えきれませんでした。二つ目の理由は菅さんの辞任表明の結果内閣支持率が少し上昇したことです。先ほど、議員の危機感が河野さんへの支持が伸びた一つの要因だと紹介しましたが、その危機感が和らいだのです。

河野さんの勢いがなくなっていくと、より安定感のある岸田さんへの支持が高まっていきました。そして投開票日直前、4候補に支持が分裂していた二階派は河野陣営を離れることを決断し、竹下派もこの動きに乗っかりました。さらに、岸田さんと高市早苗さんの陣営は「どちらが3位でも決選投票に残ったほうを応援する」と約束したというのです。安倍元総理の動きにより、高市さんの陣営には細田派や無派閥の国会議員がたくさんまとまっていて、決戦投票では高市さんへの国会議員票の多く(少なくとも6割以上)が岸田さんへと移りました。

「派閥の論理」の問題点

河野さんへの向かい風が吹くと、河野さんを支持しない派閥が一気に増えましたが、それはなぜでしょうか? なぜ派閥は勝ちそうな候補を応援しようとするのでしょうか? 

答えは 所属議員を重要な党の役職や閣僚につかせるために、新総裁(新総理)に恩を売りたい からです。つまり

「うちの派閥は総裁選であなたを支持したんだから、誰かを重役に採用してくれますよね?」

と言いたいわけです。実際、岸田新総裁に対して細田派や麻生派からそのような要望があったといいます。また、先ほど述べたように安倍元総理の支持した高市さんの票が決戦投票で岸田さんに流れたことから、高市さんの採用を求める声もあがりました。そして、高市さんは政務調査会長(自民党が国会に提出する法案の立案を行う機関のトップ)に任命されました。このように派閥が総裁選挙や人事に影響を持つことを「派閥の論理」と言ったりします。

総裁や国務大臣が派閥の影響を受けて決まると、長いあいだ派閥の意向を無視できなくなるので「裏で権力者が政府を操っている」みたいなことになりかねません。さらに今回の総裁選挙では、安倍元総理が高市さんのもとに集めた支持が決戦投票で岸田さんに流れ、安倍元総理の影響が出たので内閣の顔ぶれは変わっても、やっていることは結局以前の内閣と同じになってしまうかもしれません。

このように「派閥の論理」は 政府の実態を国民に見えづらくしたり、政府の改革をさまたげたりするおそれ があります。さらに、 実績や能力が十分でない議員が、派閥の論理で重要なポストについてしまう可能性 もあるそうです。派閥、果たしてあった方がいいのか、ない方がいいのか。なんだか複雑なんですね。

参考

Wikipedia「派閥」2021年10月25日閲覧
goo国語辞典「派閥(はばつ)」2021年9月22日閲覧
日本経済新聞「派閥とは?」2020年9月14日
清和政策研究会「理念・基本方針」 2021年9月22日閲覧
宏池会「宏池会年表」 2021年9月22日閲覧
水月会「理念・方針」 2021年9月22日閲覧
Yahooニュース「派閥って何?総裁選の前に自民党の派閥について知っておきたいこと。」2020年9月2日
NHKニュース「無派閥でなぜ、総理になれたのか」2020年9月23日
NHK政治マガジン「自民党総裁選 選挙戦の見通し 派閥一本化困難も」2021年9月6日
山陰中央新報デジタル「岸田新総裁誕生 党員意思より派閥論理 無視できぬ重鎮の意向」2021年9月30日
時事ドットコム「岸田氏、『派閥の論理』で混戦制す 逆風和らぎ、河野氏失速」2021年9月29日
自由民主党「第27代自民党総裁に岸田文雄衆議院議員が決定」2021年9月29日
Data Cafe「自民党 派閥所属議員一覧」2021年10月25日

ライターのコメント

「派閥」と聞くと、学校とかでの「グループ」を連想してしまいます。私は人見知りなので、小中学校時代「強い」グループの陰で生きざるを得ませんでした。ですので「派閥」にあまりいいイメージがないのですが、今回取り上げた自民党の派閥に関してはあった方がいいものだなと思いました。 理由は、議員たちに内容の伴った議論をしてほしいと思っているからです。たまにテレビで国会中継を見ると、大臣などが与党議員の質問にはわりと正直に答えている気がするのに、野党議員の質問には全然答えになっていないことを繰り返し答えているように見受けられることがたまにあります。下手な答弁はできない、そもそも質問の質が悪いといった理由はあると思いますが、限られた国会での議論の時間を無駄にしているような気がして、やはり違和感を覚えてしまいます。この問題を解決してもらうのが一番なのですが、すぐに解決できないなら、同じ党の議員同士なら野党議員と議論する時よりもまっとうに意見を言い合えるはずなので、せめて党内ではごまかしなしの議論をしてほしい。そのために派閥が必要だと思います。