女性・女系天皇とは?議論の背景から最新の状況まで徹底解説!

2021年10月13日・政治 ・by Newsdock編集部

しばしばニュースでも取り上げられることの多い女系天皇。先日の自民党総裁選でも女系天皇の容認に対する各候補者による立場の違いが注目を集めました。でも、女系天皇はどうして認められていないのか、そもそも女系天皇とは何を指すのか、完璧に説明することは難しいですよね。そこで今回は、皇位継承に関する一連の議論について、中立的な立場から解説していきたいと思います!

女系・女性と男系男子

そもそも女系・男系とは

そもそも女系・男系とは何を指すのでしょうか。短くまとめると、 天皇の息子の子孫が男系皇族で、天皇の娘の子孫が女系皇族 です。なので、「女性皇族」と「女系皇族」とは全く別の意味となり、生物学的な性別のみで考えた場合には、女系女子・女系男子・男系女子・男系男子の4通りの皇族が存在することとなります。

背景には皇位継承資格者の減少

ではなぜ、女系天皇、女性天皇といったワードが話題になっているのでしょうか? 議論の背景には、皇位継承をすることができる者を 男系男性皇族だけにする という現在の皇室典範の決まりがあります。2021年現在、皇位継承が可能な皇族は天皇陛下の叔父、弟、甥の3名しかいません。その中でも最年少の悠仁様に将来男のお子様が生まれなかった場合、 皇位継承者がいなくなってしまうのではないか? という懸念があるのです。

女系・女性天皇を認める案

ではこの懸念に関して、どのような議論が行われてきたのでしょう? 先ほども述べたように、現在の皇室典範では、女性の皇族は天皇になれず、また女性の皇族の子供(すなわち女系)も、 例え男性であっても 天皇となることは認められていません。この規則が、近年の皇位継承資格者数の減少につながっているのだという指摘があります。

小泉純一郎大臣(当時)の私的諮問機関は、2005年に女系・女性天皇を認めることを盛り込んだ最終報告書をまとめ、当時の政府もこれに沿って皇室典範の改正に向けて動き出しました。しかし、2006年に男性である悠仁様が生まれてからというもの、議論は緊急を要さないものと見なされ、大きな進展はないのが現状です。

旧皇族の皇室復帰の案

戦後に皇室を離脱した旧皇族の存在も、この議論に持ち出されることがあります。実は、現在の天皇陛下から数えて25代(時間にして約600年)遡った後伏見天皇を共通の先祖にもつ11宮家51名が、GHQの占領の影響により1947年に臣籍降下(皇族から一般国民になること)をしています。彼ら彼女らのうち、 男系男子に当たる人の皇族復帰を可能にする ことで、女系天皇や女子天皇は認めないまま、皇位継承資格者の数を増やそうという案です。

「女系・女性」か「男系男性」か

したがって、現在足りていない皇位継承資格者を増やすための一連の議論における立場は、 女系あるいは女性天皇を認める か、はたまた 男系男性の原則を貫く か、の二つに分かれていると捉えることができます。旧宮家の皇族復帰は男系男性天皇を貫くための手段であると捉えることができるからです。今回は、中立的な立場に立ちながら双方の立場を眺め、掘り下げていきましょう。

「女系女性を認めない」は女性差別か

ジェンダー平等の観点から

近年のジェンダー平等の流れを受けて、 皇室における女性差別の撤廃 という名目から女系・女性天皇を認めるべきだ、という意見もあります。実際、国連女子差別撤廃委員会は2016年、皇位継承権が男系男性のみにしか認められていないことは女性への差別であり、皇室典範を改正するべきだという旨の勧告を日本に対して行っています。後述しますが、日本側は皇位継承権に関する規則は女子差別を目的とするものではないと述べています。

また、国民の象徴である天皇に女性がなることができないという規則を廃することによって、日本全体として女性の地位改善に繋がるのではないか、という見方もあります。

他の国々の事例を引き合いに出すと

では他の国においては男女の王位継承に関して、どのような取り組みがされてきたのでしょうか。

実は、ヨーロッパではスペインを除き、 どの性別であっても、最年長の子供が王位を継承することが原則 となっていて、女王が続々と誕生しています。この動きは社会における男女共同参画の流れを汲んだものであるようです。例外であるスペインでは、原則として男系男子による王位継承しか認められていません。ですが、直系の男子がいない場合には女王が認められていることは特筆するべきでしょう。

法の下の平等は皇位継承にも適用できるか

日本国憲法第14条には「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」との記述があります。日本において女系女性天皇が認められていないという事実は、そもそも 憲法の定める平等権に反するのではないか? という指摘がなされることも多いようです。

しかし、男女平等の権利以外に関してはどうなのでしょう? 憲法では、天皇という地位は世襲によって与えられ、また国政には関わることがないことも同様に定められています。つまり、 天皇にはそもそも職業選択の自由や政治参加の権利は与えられていない のです。加えて、ほとんどの皇族は日常生活や移動の自由までも制限を受けている上、男性皇族に関しては結婚も自由にすることはできません。つまり、憲法は天皇制に関してはそもそも平等権を与えていないので、男系男子主義の採用は憲法違反ではない、という解釈が現時点では一般的なのです。

国際的なジェンダー平等の枠組みから眺める

では国際的な視点からこの問題を眺めるとどうでしょうか? 国連の定めるSDGs(持続可能な開発目標)の5つ目のゴール「ジェンダー平等の実現」では、

5-1. あらゆる場所における全ての女性および女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する

5-5. 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画および平等なリーダーシップの機会を確保する

ことなどが盛り込まれています。

「あらゆる場所における全ての女性」との文言があるので、SDGs5-1は皇室の女性にも当てはめることができるものと解釈しましょう。その上で差別を、「その人個人の属性を理由として特別な扱いをすること」と定義するのであれば、確かに女性、女系という「属性」を理由として天皇になることができないものとする皇室典範の決まりは、差別的であることとなります。ですが同時に、男系男性の皇族は血統と性別という「属性」を理由に職業選択の自由や政治参加の権利を妨げられている、ということも、差別的であることにも注目する必要はあるでしょう。

それに、天皇が行う国事行為とは、内閣の助言と承認を受けて行うものです。つまり、「政治、経済、公共分野での意思決定」を行っているのは天皇ではなくあくまで内閣であるので、男系男子の原則はSDGs5-5の文言には違反しないと解釈できます。

男系男子の歴史と伝統?

歴史の重みを踏まえると

以上のように、皇位継承資格者を男系男子に限る皇室典範の取り決めは日本の見解としては「女子差別に当たらない」とされていて、女系女性天皇に関する動きも近年大きな進展はありません。ではなぜ日本は、男系男子を貫く立場を取り続けているのでしょうか? 慎重にならざるをえない理由として、皇室の長い歴史と伝統が挙げられます。

すでに、ヨーロッパ諸国では原則長子が王位を継承することとなっていて、女王が続々と誕生していると述べました。オランダ王室の始まりは16世紀、イギリス王室の始まりは11世紀とされているのに対し、日本において初代神武天皇の即位は、古事記や日本書紀の記載から紀元前660年とされていることから、単純に時間だけで比較した場合に、日本の皇室の歴史はこれらの国の王室の歴史よりも2倍以上も長いということとなります。この長い年月の中で、 皇位の男系継承は126代、一度の例外もなく受け継がれてきた のです。

このような古来からの長い歴史と伝統を踏まえ、女系天皇を認めることは慎重に検討するべきだという視点が、女系天皇を認める立場の人々でも、そうでない立場の人々の間でも根強くあるのです。

女性天皇は過去に存在した

しかし、この長い歴史において、皇位継承が可能な男性が幼少であったり、多数いたために皇位継承者の決定が難しいという背景こそあったものの、 女性天皇は歴代8人存在した とされています。歴史で習った推古天皇はそのうちのひとりですね。ですが、彼女らの子孫は女系皇族に当たるので天皇とはなっていません。

現在までの歴代で、最後の女性天皇は西暦1770年まで在位していたことを踏まえれば、それまでの約2430年間の歴史において、「男系皇族が行為を継承する原則」は一度たりとも破られてはいないものの、「男性による皇位継承が難しければ女性が皇位を継承できる」という現在のオランダと同じようなシステムが成り立っていたと解釈することは可能となります。

男系女子を認めても問題は解決しない

このように、長い皇室の歴史において女性天皇は存在していたのです。そして、天皇の世襲を男系の男性に限ることを成文法によって初めて取り決めたのは明治22年制定の皇室典範です。であれば、歴史と伝統に慎重な姿勢を保って男系天皇の原則を貫くにしても、男系女性天皇を認めることは問題はないのではないか、との意見もあります。

しかし、 男系の原則に基づけば男系女性天皇の子供は天皇となることはできません。 根本的な問題は男性の皇族数の減少である以上、男系女性天皇を認めるという立場をとったとしても、女系天皇を認めるかどうかという議論はたち消えることはないでしょう。

決めるのは私たち国民であるということ

ここまで、中立的な視点から、女系・女子天皇を認めるか否かという双方の立場を、日本の歴史や国外の事例を紹介しながら解説してきました。現在の天皇陛下よりも下の世代で、皇位継承資格者はただ一人である以上、この議論はわたしたちの生きる今後数十年の内に片をつけなければいけないものである可能性は極めて高いのです。

では当の私たちはこの問題にどう向き合うべきなのでしょう? NHKが2019年に18歳以上の男女を対象に行った世論調査では、71%の人が女系、女性天皇を認めることに賛成でした。しかし、調査対象の52%の人は「女系」天皇の意味を理解していなかったようです。計算してみると、最低でも23%もの人が、「女系の意味を理解していないのに女系天皇を認めるべきだと考えている」こととなります。

ジェンダー平等の流れを汲むべきか。それとも古来の歴史と伝統を尊重するべきか。2681年に及ぶ皇室の歴史は今、大きな転換点に立っています。しかし、少なくとも現行法のきまりの下では、 その重要な意思決定を行うのは天皇ではなく、主権者である私たち国民です。 どのような立場をとっているかに関わらず、この問題に対する理解を深めておくべきではないでしょうか。

参考

朝日新聞「皇族の『人権』どこまで? 目につく『不自由さ』」2020年1月10日
こよみの学校「第127回『神武天皇即位紀元の皇紀』」2018年5月30日
参議院「第189回国会 旧宮家の皇籍復帰に関する請願」2021年9月16日閲覧
産経ニュース「『男系男子』の尊重前提 皇位継承有識者会議 皇族数確保へ検討」2021年6月16日
産経ニュース「<独自>皇位継承で「旧宮家復帰」聴取 政府が有識者ヒアリングで 論点整理への明記が焦点に」2020年4月15日
産経ニュース「男系継承を「女性差別」と批判し、最終見解案に皇室典範改正を勧告 日本の抗議で削除したが…」2016年3月9日
産経ニュース「波紋広げる自民幹部の女系天皇『容認』発言 重鎮『不勉強だ』」2019年11月29日
JIJI.COM「岸田氏、女系天皇に反対 河野氏と違い」2021年9月9日
首相官邸「歴代の女性天皇について」2021年9月16日閲覧
DMM英会話blog「イギリス王室の基本まとめ!ロイヤルファミリーの名前や家系図、注目のニュース」2018年1月11日
NHKニュース「皇室の課題」2021年9月16日閲覧
NHKニュース「皇室に関する意識調査」2021年9月16日閲覧
PRESIDENT WOMEN「なぜヨーロッパでは女王が続々誕生するか」2019年6月10日
法律資格合格応援サイト「【行政書士】日本国憲法の話-今だから、もういちど憲法を読み直そう-2条②男系男子主義」2021年9月16日閲覧
マネー現代「眞子さまの『ご結婚問題』がここまで長引いている『意外すぎるワケ』」2019年8月16日
YAHOOニュース「国民の85%が賛成する「愛子さまが天皇に」即位後に起こる重大な問題とは?」2021年5月25日
unicefSDGsクラブ「[5.ジェンダー平等を実現しよう]https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/5-gender/)」2021年9月16日閲覧

ライターのコメント

皆さんは「ミッチー・ブーム」を知っているでしょうか? 1950年代後半、日本ではまだ恋愛と婚姻とが今ほどは結びついていなかった時代に、現在の上皇夫妻が「テニスコートで知り合って結婚した」との報道に日本中が注目したことで、恋愛結婚が広く普及するきっかけとなった、と言われている現象です。仮に女系・女性天皇が認められていないことは女子差別には当たらないにしても、女系・女性天皇の誕生は、今後の日本に新たな風を吹かせるきっかけとなるのではないかな?というのが私の意見です。数千年続いてきた歴史を軽んじてはならないことはいうまでもありませんが、海外でも王族の血縁に関する性別の縛りを廃する動きが高まりつつある昨今、今後数千年続くこととなる新たな伝統を重んじることも考える必要があるのではないでしょうか。