線状降水帯とは?ーメカニズムや実例、予測技術を分かりやすく解説

2022年06月11日・環境 ・by kota

梅雨期から8月末にかけて、豪雨災害が毎年のように発生しています。その度に「線状降水帯」という用語を耳にすることも増えました。また、気象庁が新たな取り組みを始めたことも注目されています。しかし、線状降水帯とはどういうものか、と言われると意外に答えられないですよね。そこで、線状降水帯の基本情報やもたらす被害、国の対応などについてまとめました。

線状降水帯とは

気象庁の予報用語では、線状降水帯は「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域」と定義されています。つまり、列をなした積乱雲によって長時間同じ場所に雨が降り続く現象を指しています。

発生メカニズム

線状降水帯の分類にもさまざまな形態が存在していますが、その中で日本で発生する主な2つを紹介します。

バックビルディング型

水蒸気を多く含む暖かい空気が地形などの影響で上昇し、積乱雲が発生します。その積乱雲が上空の風の影響で移動すると、同じ場所で新しい積乱雲が発生します。これが繰り返され、積乱雲が線状につながることで、線状降水帯となります。上空の風の向きが変わるか、水蒸気を多く含む空気の流入が止まらない限り積乱雲の世代交代が続くため、長時間同じ場所で雨が降り続くことになるのです。 このバックビルディング型は最も一般的な発生原理です。この後述べる、2014年8月の広島での豪雨で観測された線状降水帯はこの原理で発生しました。

破線型

暖気と寒気がぶつかり合う前線上に水蒸気を多く含む暖かい空気が流れ込み、積乱雲が発生します。これが前線上で同時多発的に起きると、積乱雲が列をなす線状降水帯が発生します。2017年7月の九州北部豪雨では梅雨前線に暖湿気流が流れ込むことで、破線型による線状降水帯が発生したとみられます。

実際の事例

台風、熱帯低気圧によるものを除く、過去の豪雨災害を検証したところ、約3分の2の事例で線状降水帯が発生していました。では、線状降水帯によってどのような被害が出るのでしょうか。過去の事例をいくつか見てみましょう。

2014年8月 広島での豪雨

2014年8月20日未明から、広島市でバックビルディング型による線状降水帯が発生し、広島市安佐北区では当時の観測史上最大となる24時間累積雨量287mmの豪雨となりました。この豪雨によって大規模な土砂崩れが十数か所で起こり、広島市で77名の方が命を落としました。この時に気象庁が記者会見で線状降水帯に言及したことから、この言葉が広まったとされています。

2018年7月 西日本豪雨

2018年7月5日から8日にかけて梅雨前線が西日本に停滞し、そこに大量の水蒸気が流れ込み続けたことが主な要因で、100年に一度とも呼ばれる豪雨災害が起こりました。非常に多くの地点で観測史上一位の雨量を記録し、西日本各地で土砂災害や河川の氾濫による浸水が発生しました。実はこの時、線状降水帯が計15個形成され、このような甚大な被害をもたらしていました。

線状降水帯のもたらす被害とは

この他にも2020年7月の熊本県での豪雨や、2021年8月の九州北部での豪雨でも線状降水帯が発生しています。これらの豪雨に共通する被害として、累積雨量の急激な増加による土砂崩れ・河川の氾濫が挙げられます。このような被害は人命に直結するため、人的被害も大きくなる傾向にあると言えます。

線状降水帯への対応

では、線状降水帯に対し、国はどのような対応をとっているのでしょうか。

気象庁の情報提供

気象庁は2021年に「顕著な大雨に関する情報」の運用を始めました。これは線状降水帯が発生した地域に災害発生の危険が迫っていることを伝えるものです。しかし、あくまで線状降水帯の発生後に出されるものでした。そこで気象庁は、顕著な大雨に関する情報に加え、2022年6月から関東甲信、九州北部など全国11ブロック単位で半日程度前からの情報提供を開始しました。明るいうちの避難を可能にする一方、精度の低さが課題となっています。

研究・予測技術の開発

線状降水帯はまだ解明されていない点が多く、研究途上にあります。そこで、気象庁は線状降水帯の予測精度向上を喫緊の課題と位置づけ、今期には線状降水帯の集中観測を実施します。さらに2022年6月からスーパーコンピューター「富岳」を利用した予測技術の開発にも乗り出しました。また、線状降水帯の原因となる水蒸気の量を観測するプログラムも進行中です。

参考

気象庁「線状降水帯に関する各種情報」2022年6月6日閲覧
加藤輝之(気象庁気象大学校)「線状降水帯と集中豪雨について」2019年5月12日
日本気象協会「線状降水帯」2016年9月
内閣府防災情報「2014年(平成26年) 8月19日からの豪雨災害」2018年12月10日
内閣府防災情報「令和元年版防災白書 平成30年7月豪雨(西日本豪雨)災害」2022年6月6日閲覧
気象庁 報道発表「線状降水帯予測の開始について」2022年4月28日
国土交通省「気象情報における記載の充実について」2022年6月6日閲覧

ライターのコメント

ここまで線状降水帯について説明してきましたが、メカニズムには分かっていないことが多く、現状の予測精度も限られています。そんな中、今私たちにできることは何でしょうか。それは主体的に情報をキャッチすることだと思います。「情報が流れてきてから動けばいっか」と思っていると手遅れになり得るのが現状です。公的機関の情報や気象予報、空の様子などに注意し、危険をできるだけ早く察知することが重要だと思います。