憲法9条とは?自衛隊との関連は?

2022年06月29日・政治 ・#参院選2022 ・by ろーど

約1週間後に迫り、選挙運動が活発化している参議院選挙。今回は「参議院選挙のそもそも」シリーズの第5弾として、各政党で方針が割れている憲法改正の問題のうち、憲法9条と自衛隊の関わりについて見ていきたいと思います。

憲法9条とは?

条文の内容

憲法9条は第二次世界大戦後、再び戦争の惨禍を繰り返すことなく、平和国家の建設を目指して規定されたものです。

第九条 
  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

つまり、日本は憲法にて
  ・武力行使の禁止
  ・戦力不保持、交戦権否認
を定めており、これらは憲法前文の「全世界の国民が平和のうちに生存する権利」を有するという点とともに日本の平和主義の特徴となってきました。

果たしてきた役割

日本国憲法が制定された1946年当時、政府は自衛戦争も含めて一切の戦争を放棄したと説明していました。しかし、1954年に自衛隊が創設された後は、「自衛のための組織である自衛隊は憲法が禁じる『戦力』には当たらない」と説明してきました。政府のこのような立場から、自衛隊の武力行使が認められるのは
 ①日本に対する武力攻撃があること
 ②その攻撃を排除するために他の適当な手段がないこと
 ③その攻撃を排除するために必要最小限度の武力行使にとどまるべきこと
という条件下に限定されることとなりました。そのような限定の下では、集団的自衛権の行使は①の条件を満たしていないことから憲法上認められないとされてきました。このように憲法9条は、自衛隊の組織・装備・活動の制約や海外での武力行使の禁止をもって憲法規範として有効に機能してきました。

自衛隊の存在

それでは、なぜ日本は当時、「自衛隊という軍隊は『戦力』には当たらない」と説明したのでしょうか。それには憲法の他の条文が関連しています。

前文(抜粋)
 われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

第十三条
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

このように日本国憲法前文では「国民の平和的生存権」が、また、第13条では「国民の生命・自由・幸福追求権」が書かれています。つまり、国民の生命や財産が危険にさらされるような状態にならないように国には守る責務があるということです。第9条にて戦力不保持、武力行使禁止と述べてはいるものの、もし国として無防備な状態だったらどうなるでしょうか。世界では領土問題等によって他国による侵略戦争が起こっています。「そのような場合に備えて、国民の生命や財産、その前提となる国の独立や平和を守るための自衛隊を持つことは憲法と矛盾しないのである」という解釈によってこれまで自衛隊は存在してきました。

条文改正に向けた動き

自由民主党の条文改正案

「自衛隊という軍隊は『戦力』には当たらない」とはいうものの、今の憲法の条文では、自衛隊の存在が憲法に違反しないということが誰が見ても明確に分かるようにはなっていません。そこで、憲法に自衛隊の活動や統制を明記し、憲法の記述をよりはっきりさせようという考えから憲法改正を政策に掲げる政党があります。このうち自由民主党は以下のような条文イメージを考えています。

条文イメージ(たたき台素案)
第九条の二(※第九条全体を維持した上で、その他に追加)
  前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

この条文は仮のものですが、自由民主党内における憲法改正論議ではこれを改正の基本とすべきとの意見が大勢を占めたそうです。

自由民主党は、このような条文改正によってシビリアンコントロールの強化につながるという意見を出しています。シビリアンコントロールとは軍事に対する政治の優位を規定し、軍の暴走や政治介入を防ぐための仕組みのことです。つまり自衛隊は文民である政治家が管理するということです。その政治家を選ぶのは国民による選挙なので、結局、国民が自衛隊を間接的に管理するということにつながります。条文イメージのように内閣及び国会による統制を明記することで、このようなシビリアンコントロールの強化につながるのであるという考えがあります。

その一方で、自衛隊を憲法に明記するのであれば、自衛隊が有する自衛権の行使の範囲を明確に定めなければなりません。しかし、先の条文イメージでは「必要な自衛の措置」としか書かれていないため、具体的な内容は憲法の明文によるコントロールを受けることなく、内閣または国会の判断に委ねられることになります。そうなると、憲法に基づく実効性のあるコントロールの実現に疑義が生じ、権力の行使を憲法に基づかせるという立憲主義に反するおそれがあるという考えが出ています。

改正についての今後の議論

憲法には基本的人権の尊重、恒久平和主義といった日本の国のあり方の基本を左右する問題が含まれています。そのような重大な内容を含む改正を行うのであれば、国民に多面的で豊富な情報が提供され、国会の審議や国民の検討の時間が十分に確保されるなど、熟慮の機会が保証される必要があります。それと同時に、憲法改正発議の際の国民投票が公平・公正に実施されるように慎重な検討が求められていくでしょう。

次回の記事では「新しい資本主義」について見ていきます。

参考

衆議院「日本国憲法」2022年6月29日閲覧
日本弁護士連合会「自衛隊や自衛の措置を憲法に書き加えても何も変わらないの?」2019年2月
自由民主党憲法改正推進本部「マンガでよく分かる〜憲法のおはなし〜自衛隊明記ってなぁに?」2019年6月
自由民主党憲法改正推進本部「憲法改正に関する議論の状況について」2018年3月26日
防衛省・自衛隊「憲法と自衛権」2022年6月29日閲覧
東京新聞「自衛隊とシビリアンコントロール」2018年8月11日