岸田政権の掲げる「新しい資本主義」とは?詳しく解説

2022年07月01日・政治 ・#参院選2022 ・by Newsdock編集部

約1週間後に迫り、選挙運動が活発化している参議院選挙。今回は「参議院選挙のそもそも」シリーズの第6弾として、新しい資本主義に焦点を当てます。岸田政権の目玉公約でもあり、ここ一年でよく耳にするようになった単語ではありますが、イマイチよく分からないという方も多いのではないでしょうか。この記事では、新しい資本主義とは何なのか、何を目指すのか、そしてどんな批判を受けているのか、詳しく解説します。

新しい資本主義とは

「新しい資本主義」という言葉が初めて登場したのは、昨年の自由民主党総裁選挙での、現総理である岸田文雄氏の発言においてです。そして、今年6月7日には「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が決定されました。この実行計画をもとに、新しい資本主義が立ち上がった背景や具体的な政策を紹介します。

新しい資本主義に至った経緯とその目標

戦後の経済への考え方は、「市場に介入しない、国からの規制のない自由競争が成長を生む」というものでした。この考え方を新自由主義と言います。新自由主義的政策により、経済成長は大きく進みましたが、市場任せにしたことでさまざまな弊害も生じました。経済的格差の拡大、気候変動問題の深刻化、経済の過度な海外依存、人口集中による都市問題など、近年大きな問題になっているものが挙げられます。そこで、「市場に対し適度に介入することで、官民が連携して社会的な課題を解決し、持続可能な経済社会システムを再構築しよう」というのが新しい資本主義の基本的な考え方です。 日本でいえば、小泉内閣で進められた規制緩和や民営化、安倍政権のアベノミクスが新自由主義の代表例です。つまり、岸田総理は今までの経済政策を転換しようと言っているのです。

どのような政策を実行するのか

この実行計画では、次の4つに重点を置くとしています。

人への投資・・・賃上げや働き手のスキルアップの推進、出世払い型奨学金の本格導入、さらには男女格差の是正を通して、成長・変革を生み出す人材を育成する。

科学技術・イノベーションへの投資・・・量子技術やAIなどの最新技術の研究を加速させることで、国防や科学技術立国の再興に役立てる。

スタートアップへの投資・・・ベンチャーキャピタルへの投資拡大やスタートアップ企業が資金調達しやすい制度の創設、起業家教育の推進を行い、日本の競争力を高める。

GXDXへの投資・・・再生可能エネルギーの導入促進などによって、脱炭素社会へと移行するGX(グリーントランスフォーメーション)を推し進める。また、デジタル分野の環境整備や研究開発を通して、デジタルによって社会制度の改革を行うDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する。

この他にも、デジタル化による地方の活性化を目指すデジタル田園都市国家構想や、経済安全保障の強化も盛り込まれています。

新しい資本主義に対する批判

一方で、新しい資本主義には批判も多くあります。どのような批判がなされているのか、見ていきましょう。

分配政策の後退

実は、昨年の自民党総裁選の際、岸田氏は「成長と分配の好循環」を掲げ、従来の成長戦略に、成長の果実を従業員に還元する分配政策を加えることで注目を集めていました。しかし、これには企業側が難色を示していることもあり、今回の実行計画では、「成長と分配の好循環」という言葉はあるものの、成長戦略に比べ分配政策があまり盛り込まれないという結果となりました。この点について、立憲民主党や共産党は「アベノミクスと何も変わらない」と非難しています。

金融所得課税強化の撤回

また、総裁選の際には金融所得課税の強化も公約の一つに掲げていました。これは、株式投資で稼いだ金融所得に課税するというものです。一般に所得の多い人ほど金融所得の比重は増える傾向にあるため、この課税は富裕層との格差を是正するものとして期待されていました。しかし、岸田首相が金融所得課税の強化に触れるたびに株価が急落するなど、市場関係者からの猛反発で、撤回されることとなりました。

資産所得倍増プラン

資産所得倍増プランは、今年5月に突如発表されたものです。これは、総裁選の際に岸田氏が表明しいつの間にか言及されなくなった令和版所得倍増計画の代わりではないか、という指摘があります。さらに、資産所得を増やすことは元々の所得が多くないとできないため、経済格差を拡大させかねない、という批判もあります。

終わりに

ここまで見てきたように、新しい資本主義は、経済分野にとどまらない日本の未来を見据えた方針の総まとめであり、その理念には今までの政策を転換するものも含まれています。その一方で、今までと変わらない、具体性や実効性に欠ける、といった指摘も多くあります。私たちは日本の未来を担う者として、今回の選挙を通して日本の未来のあり方についてよく考えることが求められているのではないでしょうか。

次の記事では、今回の参院選で最も注目されている、各党の物価高対策について見ていきます。

参考

内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」2022年6月7日
NHK「成長と分配の好循環 "新しい資本主義"問われる実現する力」2021年11月19日
NHK「岸田首相「新しい資本主義」実行計画決定 分配戦略後退指摘も」2022年6月7日
PRESIDENT Online 「アベノミクス以上にアベノミクスな内容…「骨太の方針2022」でわかった新しい資本主義の古臭さ」2022年6月16日
立憲民主党「泉代表、公約「いまこそ生活安全保障が必要です。」発表」2022年6月3日
日本共産党「2022年参議院選挙政策」2022年6月8日
東京新聞「唐突な「資産所得倍増」計画、実現は53年後? 岸田首相の「新しい資本主義」の恩恵は富裕層へ集中か」2022年5月31日