電力需給ひっ迫!原発再稼働?

2022年07月08日・政治 ・#参院選2022 ・by Newsdock編集部

今週末に迫り、各党・各候補の活動が佳境を迎えている参議院選挙。今回は「参議院選挙のそもそも」シリーズの第9弾として、各政党で方針が分かれている原発問題についてまとめました。

エネルギーを巡る現状

脱炭素化の動き

2020年10月、政府は2050年までに二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」 から植林などによる「吸収量」 を差し引いた合計をゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。 脱炭素化を目指す動きが強まり、自然エネルギー等の再生可能エネルギーによる発電量が増加傾向にある一方で、電力を安定的に供給させるため石炭や液化天然ガスへの依存度を中々下げられないというのが現状です。

電気代の高騰

大手電力会社10社のことし5月分の電気代は、比較できる過去5年で最も高い値段となり、上昇し続けています。電気代高騰の要因は大きく分けて3つあります。

①液化天然ガスの輸入価格の上昇 脱炭素社会を目指す流れから、世界的に液化天然ガスへのシフトがみられ、さらに新型コロナウイルスの流行に伴う経済活動の停滞による投資撤退や産油国ロシアによるウクライナ侵攻が追い打ちをかけ値上がりしています。

②火力発電所の休廃止 電力自由化により大手電力会社が採算性の悪い発電所を維持するのが困難になったことと、再生可能エネルギーの導入拡大などにより、老朽化した低効率の火力発電所の稼働が休廃止されるようになりました。さらに3月の福島沖地震の影響で大型火力発電所が停止しました。

③原発の稼働停止 東日本大震災発生以前の2010年度は、日本の電力供給源の25%を占めていた原発ですが、東京電力福島第一原子力発電所事故発生以降、全国の原発は順次運転を停止し、2014年には原発による発電量は0になりました。事故後に作られた新規制基準に基づき徐々に再稼働し、現在は4基が運転中(7月2日現在)ですが、20年度の数値では、電力供給源のうちわずか4%にとどまっています。 電力需給がひっ迫する中、脱炭素社会を目指しながらも電力を安定的に供給する方法として、原発の利用が再び注目を集めています。

原発反対派の意見

行き場のない放射性廃棄物

放射性廃棄物は、原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した際に生じます。高レベル放射性廃棄物は、初期の段階では十数秒被ばくすると死に至る極めて強い放射線が出るため、人が生活する環境から数万年にわたって隔離する必要があります。国は、プルトニウムなどを取り出したあとの廃液をガラスで固め、金属製の容器に入れて地下300メートルより深くに埋める「地層処分」をする方針です。青森県六ヶ所村や茨城県東海村の施設に大量の使用済み核燃料がたまり続けていますが、最終処分場は未だに決まっていません。

原発事故の危険性

原発は、原子爆弾にも使われるウランの核分裂反応を利用した発電です。東電福島原発事故の例を見ればわかるように、ひとたび大きな事故が起きれば、閉じ込められているはずの放射性物質が外へ漏れ出します。放射線はDNAを傷つけ、長期的な影響として、がんや白血病になるリスクを高めます。日本は活断層を多く持つ島国で、地震と津波のリスクが高いにもかかわらず、原発は海水を多く使うことから海岸沿いに建設されています。地震や津波などの天災や人為的なミスを引き金として、いつ次の大事故が起こるかわかりません。ウラン燃料をつくるためのウラン鉱石を掘り出す施設や、ウランを濃縮する施設、燃料棒を作る施設、原発、原発の使用済み核燃料を再処理する施設、放射性廃棄物を処理する施設、これら原発のライフサイクルのすべてで、放射性廃棄物を生み、放射線事故の危険性があります。

原発再稼動のメリット

必要な燃料量の少なさ

原発を使った場合、100万kWの電力を生み出す原発を1年間運転したとすると、そのために必要な燃料は21トンです。原発で使われる燃料はウランですが、産出国はカナダやオーストラリアなどの比較的政情の安定した国なので、価格が変動しにくいというメリットもあります。
同じように100万kWの電力量を生み出す火力発電を1年間運転したとします。火力発電を動かすために天然ガスを使った場合には95万トン、石油を使った場合には155万トン、石炭を使った場合には235万トン必要となります。日本はこれらの化石燃料資源にとぼしく、ほとんどを輸入に頼っているため、輸送コストもかかります。これは原発でも同じ条件ですが、必要な燃料の量が大きく異なるということは、かかる輸送費も変わってくるということです。

発電に必要な面積の小ささ

次に、再生可能エネルギーを使った発電方法の場合を考えてみます。100万kWの原子力発電所が1年間運転したときにつくられる電力量と同じだけの電気を再生可能エネルギーでつくるケースで比べてみます。再生可能エネルギーを使えば、燃料費はかかりませんが、100万kW級の原発が0.6km²の面積で発電できるのに対して、太陽光発電は約58km²、風力発電は約214㎞²の敷地が必要になります。太陽光発電は、夜間や悪天候時に発電できず、風力発電は風がないときは発電できないなど、再生可能エネルギーを使った発電では、自然状況によって発電量が左右されてしまいます。施設利用率が低く、原子力発電所と同じ電力量を発電するには、広大な敷地が必要になります。

発電にかかるコストの低さ

1kW発電するのにどれほどのコストがかかるのか、総費用を発電電力量で割る方式で数値を求めました 。福島第一原発での事故対応費用を参考に、120万kWの原発1基が事故を起こした場合の費用を約9.1兆円とすると、設備利用率70%の場合、事故が発生したとしても、原発にかかる発電コストは1kWhあたり10.1円となります(新規制基準の追加安全対策費や安全性強化のための追加コストは除く)。火力発電は、燃料費やCO₂対策費が高く石炭を使った場合が12.3円、天然ガスを使った場合が13.7円、石油を使った場合が30.6〜43.4円です。また、再生可能エネルギーは燃料費はかかりませんが、建設費や工事費などの資本費が高く、風力(陸上に設置した風力発電の場合)は21.6円、太陽光(メガソーラーの場合)は24.2円です。
重大な事故が起きない限り、原発は発電コストの面で優位性があることが分かります。

各政党の公約

最後に、原発を巡る各党の公約をまとめました。

原発を巡って、各政党によって様々な方針が示されています。私たちの生活に欠かせない電力をどのように供給するのか、今回の選挙を通して考えていくべきではないでしょうか。

参考

時事ドットコム「物価高対策、参院選争点に 政府・与党、『岸田インフレ論』警戒」2022年6月9日
NHK選挙web 「各党の公約 エネルギー・環境」2022年6月16日
経済産業省資源エネルギー庁「二次エネルギーの動向
GREENPEACE「ゼロから学ぶ原発問題」2022年7月7日
原子力規制委員会「原子力発電所の現在の運転状況」2022年7月7日
softbank「電気代高騰の原因は?なぜ料金が上がってしまうのか理由を解説
関西電力「火力発電について火力発電の燃料
讀賣新聞オンライン「エネルギー原発再稼働で対立軸」2022年6月29日
日経ビジネス「新型コロナウイルスやウクライナ危機はどう影響しているのか」2022年6月24日
経済産業省資源エネルギー庁「資源エネルギー庁がお答えします!~原発についてよくある3つの質問」2018年3月14日
NHKおうちで学ぼうfor School「高レベル放射性廃棄物」2022年7月7日