参院選 改憲勢力3分の2以上!内容を詳しく解説

2022年07月18日・政治 ・#参院選2022 ・by ろーど

参議院選挙2022の投開票日からおよそ1週間が経ちました。今回は「参議院選挙のそもそも」シリーズの第10弾として、憲法改正の内容と流れについて見ていきます。参院選のニュースで「改憲勢力3分の2以上」のような文言を見た人も多いのではないでしょうか。これからますます活発になるかもしれない憲法改正の議論の流れや内容を詳しく解説します。

憲法改正までの流れ

そもそも、憲法を改正する場合にはどのような手続きがとられるのでしょうか。

憲法改正は、日本国憲法第九十六条に基づいて手続きが進められます。

第九十六条
  この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

憲法改正原案が国会に提出されると、まず憲法審査会という衆参両院に設置されている機関で審議されたのちに本会議の採決に移ります。衆議院と参議院の両院で総議員の3分の2以上の賛成」が得られると可決され、国会が憲法改正の発議を行い、国民に提案したものとされます。

その後、投票日時点で18歳以上の日本国民が、内容において関連する事項ごとにそれぞれ一人一票投じることとなります。そしてその国民投票で、賛成投票数が有効投票数(投票総数から無効投票数を差し引いた票数)の過半数を占めた場合、改正が国民から承認されたことになり、天皇が国民の名において改正された憲法を公布することになります。

このように、憲法改正が進められるときには、総議員の3分の2という数が一つのポイントになります。国会議員の大半の人たちが政党に所属しており、政党ごとに憲法改正に対する考えが定まっています。したがって、選挙の際には、改憲を目指す政党の当選議員数が全体の3分の2以上を占めたかどうかが注目されるわけです。

憲法改正についての各党の公約

ところで、改憲を目指している政党として、現時点では以下の4党が当てはまります。それぞれ今回の参院選の公約を簡単にまとめてみました。

自由民主党

「9条に自衛隊明記」「緊急事態条項創設」「参院の合区解消」「教育無償化」を改憲4項目として掲げる

公明党

憲法に必要な規定を付け加える「加憲」を検討。9条は堅持。自衛隊明記は引き続き検討

日本維新の会

「教育の無償化」「統治機構改革」「憲法裁判所の設置」のほか、9条への自衛隊明記と「緊急事態条項」の制定を主張

国民民主党

「緊急事態条項」の創設を主張。9条については議論を進める

以上4党の所属議員が全体の3分の2以上を占めていると憲法改正の議論が加速するかもしれないということで、今回の選挙でもこれら4党の議席割合が焦点の一つとなっていました。

参院選2022の結果

それでは、先日行われた参議院選挙の結果を見ていきましょう。

上図のように改憲勢力の4党が今回の選挙で改選議席の3分の2以上の議席(125議席中の93議席)を確保し、これで参議院全体の議席数も全体の3分の2以上(248議席中の177議席)を確保したことになりました。

一方の衆議院の方も、昨年行われた選挙で改憲勢力の4党が3分の2以上の議席を確保しています。

昨年そして今年の選挙で、衆議院、参議院の両院で総議席数の3分の2以上が改憲勢力の議席となりましたが、これから憲法改正の議論は果たして加速していくのでしょうか。

今後の議論

6月21日の日本記者クラブの討論会で岸田首相は「中身で一致できる勢力が3分の2集まらないと発議できないというのが現実だ」と述べています。この発言の通り、改憲勢力が3分の2以上の議席数を占めていたとしても、その勢力内で改憲内容が一致していないと3分の2以上の賛成は得られないでしょう。改憲内容が一致していないことは参院選の公約からもいくつか伺えます。

憲法9条を改正すべきか

自衛隊を明記するなどといった憲法9条の改正を掲げているのは厳密に言うと自民党・維新の会の2党のみとなります。公明党は「憲法9条を今後とも堅持する」と主張し、「自衛隊の存在を憲法上明記すべしと言う意見はあるが、多くの国民は現在の自衛隊の活動を理解し支持しており、違憲の存在とはみていない」と説明しています。国民民主党は「憲法9条については①自衛権の行使の範囲、②自衛隊の保持・統制に関するルール、③戦力不保持・交戦権の否認を規定した憲法9条2項との関係、の3つの論点から具体的な議論を進める」としています。

※憲法9条と自衛隊についてはこちらの記事で解説しましたのでぜひご覧ください。
憲法9条とは?自衛隊との関連は?

緊急事態条項を創設すべきか

緊急事態条項とは戦争やテロ、大規模な災害などの非常事態に対処するため、政府の権限を一時的に強化する規定のことです。自民党は「緊急事態においても、国会の機能をできるだけ維持する」としつつも、「それが難しい場合、内閣の権限を一時的に強化し、迅速に対応できるしくみを憲法に規定」することを主張し、創設を目指しています。維新の会も創設を目指してはいるものの、権限の乱用を防ぐために憲法裁判所の承認が必要だと訴えています。その一方で、公明党は緊急時の議員の任期延長の規定に論議を重ねると見解を示し、国民民主党はその規定の創設を目指すと表明しており、国会機能の維持を重視しています。

これら以外にも改憲が見据えられている項目はあります。これからどの項目を優先するかなどといったスケジュールを決めて、各政党ごとの改憲内容の差を埋めつつも、問題点の対応・解消に努めながら慎重に議論していくことが求められるでしょう。

参考

NHK みんなとわたしの憲法「憲法改正する場合の手続きは?」2022年7月17日閲覧
衆議院「日本国憲法」2022年7月17日閲覧
衆議院憲法審査会「組織・運営の概要」2022年7月17日閲覧
総務省「もっと詳しく「国民投票制度」」2022年7月17日閲覧
NHK 参議院選挙2022「各党の公約「憲法」」2022年6月16日
朝日新聞「憲法改正をめぐる各党の主張」2022年7月7日
NHK「参議院選挙2022特設サイト」2022年7月17日閲覧
NHK「衆議院選挙2021特設サイト」2022年7月18日閲覧
日本経済新聞「改憲勢力「9条」で割れる 自衛隊明記は自民・維新のみ」2022年6月28日
NHK政治マガジン「ねほりはほり聞いて!政治のことば」2022年7月17日閲覧
自民党「4つの「変えたい」こと 自民党の提案」2022年7月17日閲覧
日本維新の会「2022 政策パンフレット」2022年7月17日閲覧
国民民主党「政策パンフレット」2022年6月
公明党「参院選政策集 Manifesto2022」2022年7月17日閲覧
毎日新聞「改憲4党、立場に温度差 9条改正、緊急事態条項で隔たり」2022年7月8日
日本経済新聞「「改憲4党」各論は不一致 自民、他党主張の反映探る」2022年7月13日