内密出産とは?赤ちゃんポストとどう違うの?わかりやすく解説!

2022年09月27日・ヘルス ・by Newsdock編集部

8月29日、政府は内密出産のガイドラインを作成することを表明しました。この内密出産という言葉、「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)などの言葉とともにニュースで見かけることがありますが、その仕組みや特徴については知らない人が多いのではないでしょうか。詳しく見てみましょう。

内密出産とは?

「内密出産」とは、望まない妊娠をした女性が病院にだけ身元を明かして出産する仕組みのことです。昨年12月、熊本市の慈恵病院で10代の女性が初めて内密出産を行って以来、すでに複数例実施されています。内密出産が広く普及している国もありますが、日本では慈恵病院のみで行われているのが現状です。

内密出産の仕組み

では、慈恵病院における内密出産の仕組みを詳しく見てみましょう。望まない妊娠をした女性が病院に相談に来ると、まずさまざまな選択肢が提示されます。そのうえで内密出産を希望する場合、時期が来たら病院で赤ちゃんを出産します。その際、母親は病院の限られた人にのみ身元を明かします。母親の名前を記載できないため出生届は提出されず、市長が職権で戸籍を作成します。生まれた赤ちゃんは、母親と離れて一旦乳児院に入れられ、養子縁組が検討されます。子は、大きくなった時に病院に保管してある実親の情報を知ることができます。

赤ちゃんを保護するそのほかの制度

実は、慈恵病院には他にも母親が育てられない赤ちゃんを保護する制度があります。それが**「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)**です。病院の目立たないところに設置されているボックスに赤ちゃんを入れると、赤ちゃんは病院に保護され医師による健康チェックを受けたのち、乳児院に入れられます。母親はこうのとりのゆりかごに赤ちゃんを入れるときに、自分の身元を明かしたり病院側に顔を見せたりする必要がないため、赤ちゃんを産んだものの育てられる状態になく、かつ周囲に相談することもできない女性に利用されています。この仕組みは2007年から運用されており、これまでに150人以上の赤ちゃんが預けられてきました。 また、慈恵病院は、内密出産とは違い病院にも身元を明かさずに出産できる「匿名出産」も受け入れる方針も示しており、母子を守るための選択肢が広がることが期待されています。

内密出産のメリット

慈恵病院が内密出産を導入することになった理由の一つは、予期せぬ妊娠をした女性が周りに相談できず、悩んだ挙句産まれた赤ちゃんを殺害・遺棄してしまうという事件が多く起きているためです。周囲に知られることなく産むという選択肢があることで、新生児の命を守ることを目的にしています。また、こうのとりのゆりかごとは違い、病院という安全な環境で出産できるため、母子ともに危険が伴う孤立出産を回避できるというメリットもあります。さらに、もう一つ重要なメリットとして、子の「出自を知る権利」、つまり自分の親がどういう人なのかを知る権利を守ることができることが挙げられます。内密出産では、こうのとりのゆりかごや匿名出産とは違い、病院に母親の情報を保管しておき一定の年齢になった子にそれが知らされるのです。

課題

日本における内密出産の一番の課題は、法整備がなされていないことです。慈恵病院が内密出産を導入して以降、熊本市は、現在の法令に抵触する恐れが排除できないとして慈恵病院に実施を控えるよう要請してきました。しかし、実際に内密出産を希望する女性は存在するため、法的基盤がないまま実施されているのが現状です。特に、出生届に母親の名前が記載されないことが違法と判断される可能性が高く、出生届を出さずに市長が職権を用いて戸籍を作るという方法がこれまでのところとられています。

今後の展開

法的に課題がある内密出産ですが、2022年8月末、ついに政府が自治体や病院の対応方法をまとめたガイドラインを早急に作成することを表明しました。作成にあたり、出自を知る権利、診療録や戸籍の扱いなどのさまざまな論点の検討や、関係団体などとの丁寧な調整をしていく構えだということです。政府がガイドラインを作れば、内密出産を行った病院の対応が違法となるリスクが減るため、内密出産が普及していく可能性もあります。日本の内密出産の未来が決まる今後の展開に、注目が必要です。

参考

jiji.com「国内初の内密出産、慈恵病院の試み」 (2022年4月8日)

コトバンク「内密出産とは」(2020年9月1日)

読売新聞オンライン「『内密出産』導入の慈恵病院、病院にも明かさぬ『匿名出産』受け入れへ…『命を守るため』」(2022年6月5日)

朝日新聞デジタル「内密出産の熊本・慈恵病院、4例目以降も複数実施」(2022年7月30日)

jiji.com「政府、内密出産でガイドライン 松野官房長官『速やかに発出』」(2022年8月29日) 

緊急下の母子への匿名支援―ドイツの赤ちゃんポストの議論を踏まえて― 柏木恭典(2017年)

ニッポニカ「赤ちゃんポスト」

朝日新聞デジタル「匿名の10代が生んだ赤ちゃん 法整備なき内密出産、見えた課題は」(2022年2月20日)

TBS NEWS DIG「『内密出産』ガイドライン公表へ 親の氏名などの個人情報を病院で管理求める」(2022年8月29日)

ヤフーニュース「内密出産ってどんなもの?妊娠を知られたくない女性への支援を考える」(2022年3月17日

ドクターマップ「赤ちゃんポスト」(2022年9月26日閲覧)

読売新聞オンライン「赤ちゃんポストに座っていた男の子、18歳になり『宮津航一としてその後を伝えたい』…2007年5月」(2022年3月27日)

ライターのコメント

内密出産は、妊娠を周囲に打ち明けられないでいる女性が新生児遺棄に走るのを防ぐための最後の砦となる、良い制度だと思います。しかし、現在日本で内密出産を導入しているのは熊本市の慈恵病院だけであり、日本中の女性がそれを利用しやすい環境にあるとは言い難いです。ガイドラインの発布をきっかけに、内密出産ができる病院が増えればいいと思います。